名字帯刀

 皮田は舌の名前で呼ぶのも呼ばれるのも大嫌いだ。幸いにも男に生まれたもんだから、女同士の付き合いよりは舌の名前で呼ばれるのを拒むというやりとりも少なく済んでる。



 男同士より女同士の方が圧倒的に下の名前で呼び合うのが多い。むしろ学校では、初めに下で呼びあっていたのが、仲が深まると名字で呼び合うというのを多々見かけた。



 思うに、女が結婚で夫姓を名乗るのが通例だからではないか。男にとっては生涯普遍であるものも、女にとっては籍を入れるまでの付き合いだから女にとって名字の方が、消え行くものの儚さというか、重きを感じるところがあるのかもしれない。



 髷を結って刀を差していた時代、男にとって名字は生まれ持っているものではなかった。武士にとっての特権、またその他の身分にとっては功績を残した証。



 今の女にとっての名字は誰が主人なのかという名札。だからこそ、学生のうちは近しい友人にたいして、まだ誰のものにもなっていない、自分の生まれ持った名字で姦しく呼びあっていたのか、なんてことを思った。



 同級生を思い出すと、ファッション誌とかいう表紙から裏表紙までバカしか載っていないものを読んでいたので、そんなことはないと思い直した。

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