3歩進んで3歩退がる
深夜は通販番組のゴールデンタイム。腑抜けた学生のご多分に漏れず、皮田も夜行性で、つけっぱのテレビでこの類いの茶番宣伝を垂れ流す。
聞くともなしにしているが、どうにも捨て置けねえ言葉がある。
「従来品」「当社比」
例えば洗剤。「従来のものだと落ちなかった汚れが、この新商品だとあっという間に落ちてしまいます」
お前、去年も擦らずに落とせる洗剤を売ってなかったか?
例えば包丁。「従来のものですとすぐに刃こぼれしていたのが、新商品ですとこの通り、力を入れなくても楽々切れちゃいます」
お前、去年皮ごとパイナップルを横から切ってなかったか?しかも研ぎ器まで紹介してたろ。あれどこやったんだ。
そりゃ名指しで他社のもんを貶すわけにゃいくまいよ。だからっつって自社製品で比較するのに毎度同じような汚れを落とせなくなって、同じようなものを切れなくなってるのはどういうことなんだ?
去年も今年も言ってるところの従来品は何十年も前に型落ちしたガラクタだってのか?そんなん詐欺じゃねえか。
あ、そうか。去年より人間の汗は強力なシミを作る成分を分泌して、パイナップルは固い皮をつけるようになったのか。だから今年の従来品じゃ太刀打ち出来ねえってのね。なるほどなるほど、納得したわ。
さて、今夜は何を見せてくれるやら。また去年のフライパンにチーズをこびりつかせるのか。去年切れたもの包丁も、3歩退がって仕切り直しである。
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