南蛮人

 皮田の趣味のひとつに、中古AV屋の物色がある。行きつけのとこはとにかく狭い。通路も商品棚の間も人ひとりが肩を巣簿目てやっとのスペースだ。


 盗撮ものコーナーに行くには熟女ものコーナーを通過しなきゃならんが、大抵そこでパッケージを目で舐め回してるオッサンをどかす必要がある。

 ときに咳払い、ときにガンを飛ばす等してやっとこさ目当てのとこに行き着ける。



 狭いと言えば、皮田の性癖も狭いのかもしれん。


 女子トイレを盗撮したのでイケるクチなのでやや説得力はないかもしれない。女がイキんで体内のものを下の口からひりだす様は小でも大でも皮田の股間にクるので仕方ないだろ。



 そんなことではなくて、これじゃ抜けねえや、というのがある。女優が欧米の女のやつだ。


 竿役が外国人なのは我慢できる。野郎の肌が黒かろうが白かろうが、目ん玉が青かろうがである。


 しかし穴役が白人だと厳しい。正味、この他に女が中韓以外のは見たことがないので、東南アジアや中東などでどうなかってのはわからん。とりあえず白人女ならどういう扇情的な格好であろうと不能になる。



 当然見た目の問題が大きいだろう。あの角張った目鼻立ち、プラモデルの関節に墨を入れるがごとく化粧のクドさたるや。


 そして一つ一つの所作がどうにも日本人の女にはない、芯からの力強さやダイナミックさが図々しく映るのだ。


 それらがトータルでケバケバしい、獣の交わいに感じるのだ。



 そういえば皮田は小学生のときに一度、海外旅行をしたことがある。アメリカである。


 滝を見た。デカかった。肉を食った。固かった。野球を見た。途中で寝た。



 ガキの乏しい感性ながら心に残ったのは、外国人の臭いである。どこに行くにも外人ばかりで視覚的にも参ったが、それ以上に鼻がやられた。やつらは甘い臭いをさせていたのだ。


 この臭いが「甘い」と言う他ない。脳の甘さを感じる神経に直接電極で刺激を与えられたような、どこまでも強く起伏に乏しい「甘さ」。色で言うなら原色のようなクドさ。これに日がな悩まされた。



 普通、行ったことのあるところは地図の濃さそこだけ色がついたような、温もりのようなものを感じる。


 しかしアメリカだけは違って、土産に買ったメープルシロップクッキーの甘さも臭いも、人間味を感じさせぬキツさでかの地を思い出させ、より距離感を感じた。



 自分には日本人としてのアイデンティティなぞ持ち合わせてはいないと思うが、あのエテ公でもわからせられるような、感覚器官を直接殴る色味と味にはわびさびを感じられず、そういう強すぎるものを交尾には嗅ぎとれて南蛮人では催せないのかもしれない。

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