湿気の多い豚肉
デブの弱点は乳首である。
皮田は運動音痴で運動嫌い。一人っ子で親の寵愛を受け、割合いいものを食わせてもらいブクブクと太った出不精のデブ。小学一年生にして体重は40キロを誇った。
持ち前の虚陽気に風見鶏な性質を働かせ、子供の世界の肥満児が受けるイジメ類を何とかする側にくっついてやり過ごせた。しかしコンプレックスばかりは自分のうちに蓄積される。
デブのご多分に漏れず彼は冬でもピチピチの半袖がトレードマークとした。彼の乳輪は大きい。しかも右の乳首は常時半勃起している。だから普通に立っていると勃っているのが浮き出てしまう。
これを級友に指摘されると体制派から切り離されたくない彼は、偽笑いを上げ自虐で会話を締めるのだが、醜男は醜男なりに傷ついた。
しかし冬でも勤労な彼の汗腺は、厚着という職場では一層ブラックな働きを見せるだろうから、クールビズは無期限である。寒さによって殊更尖る乳首を上から押さえつける術はない。
だから猫背になった。小学生にしてはデカかったのは横幅だけでなく一応縦もあったので、周囲の目線と合わせるように皮田は基本姿勢を屈めた。こうすることでデンと胸を張るよか主張は抑えられ、雀の涙くらいは上着がダブつき布地と突起の密着も軽減された。
そんなわけでデブの上目遣いは乳首によるもので、人を伺うような人間性もこれで形作られたような気もする。
デブは中学に上がると運動部に入った。濁った汗をかく分際で、アニメや漫画に感化され、部活の仲間と夕日に向かって走る青春を夢見てしまい、マイナー競技のところに所属した。
運動の基礎は体力、足腰にある。であればランニングは当然切り離せず、皮田は引きこもり同然だった身体にムチ打って取り組む。
膝に水が溜まる、腰をいわす、足首を痛める。最初にデブが走る際に注意すべきはこれらではない。
乳首の摩擦である。痩せた女よりもブラジャーが必要な乳を持っているから、激しく動くとそこそこ揺れる。揺れると擦れる。ランニングをすれば一挙手一投足に二つの乳房が連動し、大根おろしでも作ろうかというくらい削れる。
ここで心得のないものは服をダボつかせようとするだろう。半端な余裕は尚更衣類の上下を活発にし、下ろし金は凶悪な牙をむく。だから諦めてピチピチを感受し痩せるときを待つしかない。
デブの乳首は心も身体も傷つける。でも悲劇役者ぶってはいけない。チビは才能だがデブは積み重ね。下ろし金を握っているのは乳首ではなくデブの方なのだから、多少は削れる痛みを甘んじて正常な姿勢と肉体、精神を目指そう。でも痛いのはヤだな。
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