第29話 お茶会!

 そしてやってきました!王妃様主催のお茶会!気が重い!


「はぁ…」


「腹を括ってください。…リアグランスはいい感じですね」


「そうね。さすがフレデリクだわ」


 今日は香水をつけていない。柔軟剤もどきのリアグランスで服に香りを染み込ませているのだ。リアグランスできたからね!宣伝だね!これも気を重くしている原因だけどね!でもせっかくフレデリクたちが頑張って作ってくれたんだから、やるしかない。


 でも、宣伝ってどうやるんだろうね?


「よし、行きますわ」


「はい」


 重い腰を上げて、部屋を出る。


 今日の格好は、薄紫色のカジュアルドレスに、髪はハーフアップである。リアグランスはフローラルの香りにしてもらった。さすがに金木犀やヒノキはちょっと色に合わなかった。




 お城につき、城のメイドに会場へ案内される。案内されたのは、この前とは違う部屋だった。今回の部屋はお城の立派な庭に面していて、部屋の中も豪華だった。中には既に何人か令嬢や夫人がいた。

 …そういえば、誰が誰だかわからないわ。あ、これ詰んでない?


 メイドによって指定された席に座る。場所はおそらく王妃様が座る席の隣。なかなかいい席だね!

 ちなみに席は全部で5席。まぁ、5席ならまだいけるかな…?


「フィリア夫人、ご機嫌麗しゅう」


 隣にすでに座っていた女性が声をかけてきた。どなただろう…?見た感じどこかの夫人かなぁ。


「ご機嫌麗しゅう」


「あら、良い匂いがしますわね。何の香水をつけていらっしゃるのですか?」


 簡単に挨拶を済ませると、夫人がそう聞いてきた。

 お!これは早速宣伝チャンスなのでは!自分から何かしないといけないと思っていたけど、意外に何とかなるかも。


「いえ、香水はつけていませんわ。これは我がユースエン公爵家がこの度開発したものでして。服に香りを染み込ませているのです」


 宣伝ってこんな感じかな?たぶん行けたと思う!


「まぁ!そうですの!気になりますわ。もう売り出していますの?」


 夫人は私の言葉に相当驚いたみたいで、目を大きく見開いた。うん、そうなるよね。だってこの世界に服に香りを染み込ませる文化はないもんね!


「えぇ、つい先日売り出しまして」


「帰ったら早速旦那に頼んでみますわ!」


「ありがとうございます」


 よし、これでおっけーね!案外こういう感じなら私にも宣伝できるかも!他の人も気になって聞いていたみたいだし。うんうん、いい感じ!


「待たせたわね」


 その時、王妃様がやってきた。おぉ、今日も相変わらずお美しい。さすが攻略対象の生みの親。なんか前もこんなこと思ったような。


 王妃様が来たので立ち上がり、一礼する。そして王妃様が席に座った後に私たちも座る。


「今日は楽しんでいってちょうだい」


「はい、王妃様。お招きいただきありがとうございます」


 と、口々に王妃様に感謝の言葉を述べる。ここらへんのマナーはね、実家で仕込まれたからね。まぁ一回もお茶会行かなかったんですけどね!引きこもりのおとなしい令嬢に招待状を送ってくる人はいなかったよ!悲しい!


「では、お茶の用意を」


 王妃様がそう合図をすると、メイドたちが入ってきた。


 あれ、アリリスさんじゃない?…え!?アリリスさん!?この前盛大にやらかしていたからこのお茶会の給仕はしないと思っていたんだけど!さすがにこのお茶会じゃつっかかってこないよね?王妃様もいることだし。


 一人一人に給仕のメイドがつき、紅茶を入れる。ちなみに私にはアリリスさんがついた。なんだこの巡りあわせ。わざとかと言いたくなるわぁ。


 アリリスさんは特に何かしてくることもなく、紅茶を用意する。

 ふむ、今回はさすがに何もしてこないみたい。あのパーティーのあと、こってり上司に怒られたのかな?

 ちなみにアリリスさんがここに居るのはヒロイン補正だということにしておこう。じゃないと問題起こしまくるアリリスさんが王妃様のお茶会で給仕するわけないし。まぁ、こういうイベントは確かにゲームにはなかったけど!


 それぞれ紅茶が用意される。それを見計らって王妃様が一口飲んだ。私たちも王妃様が一口飲んだのを見て、カップを口に運び、一口飲んだ。


 …美味しくない。


 あれ?この前のお茶会で飲んだ時は美味しかったよね?種類を変えたのかなぁ。なんか味が変…。まぁでも、美味しくないとは言えないから、ちびちび飲んでこのお茶会はこれ一杯にしよう。


「あら、この紅茶美味しいですわ」


 美味しくないなぁ…なんて思っていたら、他の夫人が王妃様に声をかけた。他の皆もうんうんと頷く。


「さすが王妃様ですわ」


「ふふ、ありがとう」


 そういって朗らかにほほ笑まれる王妃様。まじ眼福。

 …じゃなかった。え、これ皆美味しいんだ!?やっぱり味覚は人それぞれなんだなぁ。でも、私以外のここに居る人たちみんな美味しいって…。ま、お世辞の人もいますか。美味しくないとは言えないもんね!




 お茶会が始まって数十分が経とうとしていた。

 水面下で情報を探り合うようなバチバチ感はなく、まったりとした雰囲気だ。みんな普通に会話を楽しんでいる。かく言う私も頑張って皆さんとお話しました!引きこもり頑張った!

 ちなみに、紅茶はほとんど進んでいない。あの後もう何口か頑張ってみたけど、やっぱ美味しくないものは美味しくないよ!だって嫌いなものが給食に出てきたときに食が進む人なんてほとんどいなかったでしょう!?それと同じ!ちなみに私は美味しくないものは半分食べて捨ててました。食材さん、調理師さん、ごめんなさい。


「フィリアちゃん、楽しんでいる?」


 ちょっと会話の輪から外れ、この紅茶どうしようかなぁなんて思っていると、王妃様がこっそり話しかけてくださった。

 おっと、危ない。思わずカップ落とすところだった。飲まないけど、ずっとカップ置いたままだと怪しまれるからね!意味もなく持つよね!


「はい。とても楽しゅうございます」


「それはよかったわ。あ、そうそう、マリーとさらに仲良くなったみたいね。嬉しいわ」


 そう言って、王妃様は優しく微笑む。おぉ、これは母の顔だ。マリー様、よい姑を持ちましたね!


「こちらこそマリー様にはとてもよくしていただいて、ありがたいですわ」


「マリーも来れたらよかったのだけどね。運悪く用事が重なってしまって」


「そうなんですね」


 どうりでマリー様がいないわけだ。疑問に思ったんだよね。王妃様が主催で私を招待して、私とマリー様が仲良いの知っているからいるかな?て思ったけどいなかったからちょっと寂しかったよね!


「これからもマリーをよろしくね」


 そう王妃様は慈愛に満ちた目で言った。


「はい」


 もう完全にマリー様のことを認めているみたい。これもアリリスさんがルイド様ルートに行ったおかげだね!シナリオはすでに終わっちゃってるけど!どんまい!


「そういえば、今日のフィリアちゃんは良い匂いがするわね?」


 そう言って王妃様は首をかしげる。

 お?これは王妃様にも宣伝するチャンスなのでは!?…王妃様に宣伝していいものなんだろうか。まぁ、それとなく紹介だけしとくか!


「実は香水ではなく、ドレスに香りを染み込ませているのです」


 私がそう言うと、王妃様は一瞬驚いた顔をした。


「ドレスに香りを染み込ませるのは初めて聞いたわ。とても良い考えね。考案者は誰かしら?」


「恐れながら、私ですわ」


 王妃様はさらに驚いた顔をする。


「そうなのね。さすがフィリアちゃんだわ。これは商品化されているの?」


 そしてそう尋ねてきた。…これは素直に答えていいんだよね?


「はい。ユースエン公爵家でついこの間…っ」


 急に動悸が激しくなったせいで、その続きの言葉を言うことはできなかった。


「はぁ…はぁ…」


 な、に、これ…体の力が抜ける…。


 ガッタァァアン


 座っていられなくなり、そのまま床に倒れる。


「フィリアちゃん!?はやく医官を!」


 意識が朦朧としてきて、王妃様が何かを言っているがほとんど聞き取れない。


 さらに激しくなる動悸、抜けていく体の力、意識を保つことが、できない…!なにこれ…!


「…っ!」


 薄れゆく意識の中、見えたのは、勝ち誇った顔をしたアリリスさんだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る