第28話 お出掛け!
3日後。ルイド様とのお出掛けの日。
「どこに行くのかしら」
サフィに支度された自分の格好を見て、疑問をこぼす。
今着ているのは、いつも着ているシンプルワンピースよりもカジュアルなワンピースだ。髪形も簡単に二つ結びされている。一言でいえば、街娘みたい。
…はっ、もしかして今回こそ捨てられるのでは!?
「私もこういう恰好にするように、としか伺っていないので何とも…」
「うーん…これは捨てられる可能性が高いわね」
まぁ、捨てられたとして前世の記憶があるから一人で生きていくことはできると思うけど…。あれ?生きていけるよね?
「それはないかと…」
何はともあれ、覚悟はしておこう!
玄関に行ってちょっと待つと、ルイド様がやってきた。今私が着ているのと同じくらいカジュアルな服装で。
ちょっとルイド様?同じカジュアルな恰好なのにこの差はなんですか?これが主役級とモブの違い…!
「待たせたな」
「いえ、さっき来たばかりですわ」
ルイド様は私を見ると、そう言った。
あれなんだろう、この会話めっちゃカップルっぽい。あまーい雰囲気なんてこれっぽっちもないけどね!
「行くか」
「はい」
旦那様にエスコートされて、馬車に乗る。
どこに行くのかなぁ…やっぱり捨てられるのかな!?ルイド様はどこに行くかを言ってくれないよね!かといって私から聞く勇気はありません!
「…今日は街に出る」
不意にルイド様がそう言っていた。
おぉ、ナイスタイミング。て、そうじゃない。やっぱり街かぁ…。あれ?ルイド様って公爵だよね?街に出るの危なくない?何かあったら大変だよ!?
「わかりました。…街に出て大丈夫なんですか?」
「あぁ。私も戦えるし、護衛も隠れているがつけている」
なら大丈夫ですねー!これで私は安心して自分の運命を受け入れれるわぁ。…ん?護衛ってことはまさか私捨てられるんじゃなくて殺される…!?
「さっきから顔が忙しいな。…どうした」
「いえ。…私の命運もここまでかな、と思っただけですわ」
「どういう意味だ…」
思ったことを口にすると、ルイド様は目を細めて訝しんだ。
お?その反応は私はまだ捨てられないし殺されないということですか?そして顔が忙しいとは。そんなに顔に出てる!?
「街に行ってそのまま捨てられるのかな…と」
「ふっ」
私が考えていたことを言うと、ルイド様が小さく吹き出した。
何その反応!?当たりってこと!?
「そんなことは絶対にしないから安心しろ。ただ街を見るだけだ。陛下の政策がどう活きているか確かめたいしな」
「なるほど」
それなら安心していいかな!やたら絶対を強調されたけど!というか、陛下の政策の効果を見るためってとても良いですね。そんな良心を知らずに変なことを考えてすみませんでした!
しばらく馬車に揺られること十数分。不意に馬車が止まった。
「ここからは歩いていくぞ」
「あ、はい」
なるほどなるほど、街の真ん中で馬車を留めるわけにはいかないもんね!そしてここからは街娘になりきらなくては。任せて、これこそモブの得意分野よ!というか、前世は普通に庶民だったから、街の方がなじみ深い気もするけど。
ルイド様と並んで歩くこと数分、活気あふれる場所についた。
「わぁ…!」
おぉ!初めて来た!すごい賑わっているなぁ。さながら休日のショッピングモールの外バージョンって感じ!前世は学校以外ほとんど外出しなかったけど。幼き頃の記憶ってやつ?
「はぐれるなよ」
「わかってますわ」
というかそんなに子供じゃないですー!ピッチピチの18歳ですー!この世界では成人してますー!
「まずは市場に行こう」
「はい」
この時間なら賑わってそうだね!
市場につくと、それはそれは大変賑わっていた。これは陛下の政策活きているのでは…!
「活気溢れていますね」
「そうだな。これなら大丈夫そうだ」
そう言ってルイド様は満足げな顔をした。
というか、ルイド様?先ほどから女性方の視線を集めてません?チラチラ見られていますよ?せめてその人間味のある圧倒的美の顔面隠して来てくださいな!服だけ合わせても無駄ですよ!
「少し見て回るぞ」
「はい」
そう言って歩き出したルイド様について行き、人混みにはいる。
うげぇ、前世含めて超久しぶりに人混みに入ったわ…。こりゃ気を付けないとはぐれそう。だと思ったけど、ルイド様ならそのスタイルと顔面ですぐ見つけることができるわ。
ルイド様から離れないようにしながら、ぐるっと市場を周る。
あ、この形すごく人参っぽい。こっちはトマトだ。お、これは白菜じゃないですかー。名前は全然違うけど、前世の野菜と同じような形をした野菜があるのね。良い発見した。味はどうなんだろうね?あと、季節感バラバラすぎない?さすがゲームの世界。…うげ、これめっちゃ茄子っぽい!茄子無理!
「どうした?」
茄子もどきを発見して顔を顰めていると、それに気づいたルイド様が尋ねてきた。
「いえ、なんでもありませんわ…」
茄子って食べたら喉が熱くなる感じがない?前世では誰も共感してくれなかったけどさ!それが苦手であまり食べてなかった。
「そうか。店主、これをください」
「あいよー!」
進もうとした瞬間、ルイド様が突然店主に声をかけて茄子もどきを買った。懐からお金を出して。あ、お金持ってきていたんですねー。…てそうじゃなくて。
「え、ちょっと…!?」
何で買った!?絶対わかってたよね!?わかったうえで聞いてきたね!?鬼!鬼畜!
「なんだい?」
「…なんでもないですわ」
頑張って何でもない風を装った私を褒めてほしい。ちくちょう。あ、でも前世とは違い喉が熱くなる感じはしないかも?それなら食べれるかも?
「そろそろご飯に行くか」
「あ、はい」
ルイド様に連れられてきたのは馬車の中。あ、街で食べるわけにはいかないもんね。どういう危険があるかわからないし!
「こちらをどうぞ」
「ありがとう」
馬車の中で待っていたフレデリクに箱をもらう。蓋を開けると食べやすい大きさにカットされたサンドイッチが入っていた。
…うん、びっくりだよ。まさかの馬車の中でピクニックだもんね!確かにうちの料理人が作ったご飯は安全だね!持ってきたのフレデリクだし!
サンドイッチを手に取り食べる。ルイド様はもうすでに静かに食べていた。わお、サンドイッチ食べる仕草も優雅ですね!
「そうだ。これを今日の夕飯に入れるように言ってくれ」
不意にルイド様が先ほど買った茄子もどきをフレデリクに手渡す。ちくしょう、覚えていたか。
「はい、わかりました」
わからないで、フレデリク。もうこうなったら茄子もどきが美味しいことを祈ろう。
ご飯を食べ終わり、再び街に出る。しばらく歩いて、一つの雑貨店に入った。老舗って言う感じの雑貨店だ。
へぇ、ルイド様も雑貨店に入るんだね!以外!これも陛下の政策に関係しているんだろうねぇ。今度から今の政治経済について勉強してみようかな?前世は授業ほとんど寝ていたし!
「…わぁ」
中には上品でシンプルな雑貨がたくさん並んでいた。
おぉ、ここは私の好みのポイントをよく押さえていらっしゃる!そういえば、前世で女の子たちが雑貨店に行ってお揃いの文房具とかキーホルダーとか買っていたような。私?引きこもっていたからそんな経験はございません!
「好きに見ていいぞ」
「あ、はい」
ルイド様からそう許可が出る。
よし、許可が出たなら自由に見て回ろう。こういうの前世でもしたことなかったから初めてだ~。
しばらく見て回る。なぞにルイド様もついてきているけど。多分目を離した隙に何かあったら困るからかなぁ。…そういえば、ルイド様は私がいなくなってもはたして困るのかな?たぶん、また令嬢方が寄ってたかってめんどくさいとは思うだろうね!この前子息たちに絡まれたからなんとなく気持ちがわかるよ!
「あ、これ…」
ふと目に入ってきたのはシンプルだが花の模様がついたハンカチ。
前世で友人が誕生日にプレゼントしてくれたものに似ているなぁ。あ、そういえばお返ししていない!お返しする前に死んだんだった…!ごめんよ友人。まだ買ってなかったけど。
「欲しいのか?」
「いえ、特には」
「買おう」
「…お願いします」
ルイド様はそう言って、そのハンカチを手に取り、すばやく会計を済ませる。
欲望に負けちゃったよ…だって本当に似ていたんだもん…!明日はこのハンカチに小さく刺繍を施そうかな!そうねぇ、ユースエン公爵家の家紋にしよう!
「ほら」
「ありがとうございます」
会計を終わらせて、ハンカチの入った袋を渡される。
なんだかこの前から買ってもらってばっかりだなぁ。まぁ、私の手持ち金ないんだけどね!でも、これからはリアグランスでお金が入ってくるはず…!無事に売れればだけど。
雑貨店を出て、馬車までのんびり…なわけでもなく普通の速度で歩く。もちろん街をしっかり見ながら。
ゲームで見ていた王都だけど、実際に見るとその活気や賑わいって想像をたやすく超える。これも陛下やルイド様たちが頑張っているからなんだよね!すごいなぁ。
馬車に乗り、街を後にする。
ふむ、さすがにゴロツキに絡まれるというあるあるなイベントはなかったね!よかったよかった。ルイド様に何かあったら大変だもんね!
こうして2回目のお出掛けが無事に終了した。粗相即離縁もなく。さて、次は王妃様のお茶会かな!
あ、ちなみに茄子もどきは美味しかったです。普通に茄子だったけどね!
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