第30話 謎空間!

「ん…」


 目を開けると飛び込んできたのは一面の白。


「ここは…?」


 ここどこ?確かさっきまで王妃様のお茶会に…。そうだ!王妃様のお茶会!確か、いきなり動悸が激しくなって、体の力が抜けて、意識を失ったんだっけ…。


「まさか、アリリスさんの言っていた覚えとけよって…」


 あの突然の症状、最後に見たアリリスさんの勝ち誇った顔。間違いない。私はアリリスさんに毒を盛られたんだ…!


 まさか、覚えとけよの内容って、嫌がらせとか悪役にさせるとかじゃなくて、殺すってことだったのか。もうここまで来るとすごい執念だよ…。


「はぁ…」


 まさか自分が殺されかけるとは思っていなかったわ。だって前世あんなに平和だったんだもん。こんな経験しないよね!


 あれ、そもそも私今生きているの?死んでいるの?でもここ見たことないしな…。ということは…


「死んだってこと?」


 一面白の空間。この世のものとは思えない。だとすれば、ここは死後の世界?


 まさかの2回目の死?しかも前世と同じ18歳!なんだこの偶然!いやだなぁ…。まだ私はぴちぴちの18歳を楽しみたいよ!サフィに世話されたいよ!マリー様ともっと仲良くなりたいよ!…ルイド様ともっともっと話したいよ。


 そう思った時だった。景色が急に変わったのだ。映し出された景色は、前世過ごしていた日本だった。


 知らない部屋に知らない女子高生がいる。女子高生はパソコンを凝視していた。


「誰だろう?」


 友人でもなければ私でもない。とりあえず、パソコン見てみようかな?


「…え!?これって!」


 その女子高生が凝視していたのは、私が前世でやった乙女ゲーム。ついさっきまで居た、あの乙女ゲーム「これであなたもプリンセス」だった。


 そしてその女子高生が見ていた画面にはルイド様が映っていた。


「どういうこと?」


 この女子高生はどうやらルイド様ルートに進んだらしい。あ、これこのまま見続けたらルイド様ルートで起こるイベント全部見られるかな!?


「ルイド様素敵だわぁ…!運よく転生して、ルイド様の彼女になりたい~!」


 と、急に女子高生がそう呟いた。その喋り方は聞き覚えがあった。


「悪役令嬢を蹴散らしてぇ、他の攻略対象たちも取り込んでぇ、ルイド様に愛されるの!」


 いや、万が一そうなったら何股…。じゃないや、この喋り方ってもしかしなくてもアリリスさん!?え、あの子も転生者だったってこと!?


「そういうことか!」


 なんでシナリオがあんなに変わったんだろうっていう疑問が解けた気がする。つまり、ヒロインのアリリスさんが転生者で、シナリオを逸脱した行動をしたから変わったということか…!そして同じ転生者だった名もなきモブの私がその代わりとしてルイド様の妻になった。それにしても好感度上げとかすっ飛ばして妻にしたよね!なんて無茶振り!


 まぁ、それでも今の生活楽しいけど!


「私なら邪魔するこの悪役令嬢は殺すのにぃ」


「おっふ、まじか」


 アリリスさん女子高生が突然そんな怖いことを言ってきた。

 うん、実行しましたねー。ちゃんと有言実行できて偉いねー。…いや偉くないわ!人殺しちゃだめだわ!というか私邪魔した覚えないからね!不可抗力で結婚したんだから!


 まぁ、とりあえず、アリリスさんも転生者なことは確定だね。




 そしてまた、景色が変わった。


 次の景色は、今世の私がよく知る世界。つまり乙女ゲームの世界だった。

 ここは王宮…?公爵家じゃないよね。それにここに居る人って…


「サフィに…ルイド様?」


 サフィは扉の近くで控えている。近寄ってみると、泣いていた。

 え!?なんで泣いてるの!?サフィが泣いているところ初めて見た!


 ルイド様も気になったので、近くに寄ってみる。ルイド様は何やらベッドに顔を向けていた。ベッド…?まさか


「…私だ」


 ベッドに寝ていたのは紛れもなく今世の私だった。


「あ、生きてる…!」


 ベッドに寝ている私の胸がゆっくりだが上下に動いている。

 よかった!まだ生きてる!あれ、そしたら本当にこの状況なんだ?はっ、これが幽体離脱ってやつか…!?でもさっきアリリスさん女子高生の部屋にも行ったよな?なんだこれ?


「フィリア…」


 うんうん考えていると、不意にルイド様が私の名前を呼んだ。聞いた事がないくらい弱々しい声で。


「ルイド様…?」


 顔を覗き込むと、ルイド様はひどく悲しい顔をしていた。


 なんでそんなに悲しい顔をするの…?


「私のせい?」


 私が毒で倒れたから?でもルイド様にとって私は都合が良かったお飾りな妻だよね…?


 あ、というかルイド様、お仕事どうされたんですか!?もしかして抜け出してきた…!?あの仕事第一なルイド様が私が倒れたからって仕事放り出して来てくれたの!?


「嬉しいような、申し訳ないような」


 すっごい複雑な気持ち。でも、ちゃんと私、ルイド様に大事にされていたんだなぁ。

 こういう形で知ったのは癪だけど!


「フィリア…目覚めてくれ…」


「ルイド様…」


 どうやったら目覚めることができるんだろう?んー…もし幽体離脱なら、ベッドに寝ている私と重なってみる?確か漫画にそんな描写あったような。


 ベッドに横になり、寝ている私と重なる。…何も起きない。


「失敗だ失敗。えーっと、そしたら…」


 幽体離脱じゃないってことだよね?というか、そもそもここは映し出された景色だからいる場所が違う?あー、もう!難しい!頭がこんがらがってくる!こういう頭を使うのはよく前世の友人がやってくれていたからなぁ。


 私って本当に一人じゃなにもできないよね!


「むぅ、ルイド様の悲しい顔もサフィの涙も見たくないのに!」


 というか、サフィよくルイド様と同じ空間にいながら黒いオーラ出てないね!?

 て、それは今はどうでもいいか。戻れる方法、戻れる方法。


「殴る?」


 ここが何か別の空間なら、打ち破るしかないよね?確か前世で見たアニメや漫画にも空間から脱出するために殴っていたような?


「ふんっ」


 思いっきり拳を突き出した。…が、それは虚しく空を切るだけだった。


「これもだめかぁ」


 じゃあ、次だ次。手がだめなら足!


「ふんっ」


 思いっきり地面を蹴ってみた。…が、何ともならなかった。

 これも失敗かぁ。どうすればいいんだろう?


「フィリア…」


 その時、再びルイド様の悲痛な声がした。そしてルイド様の頬を一筋の涙が伝う。


 ドクン


 その涙を見た瞬間、大きく脈を打った。


「ルイド様…」


 こんな悲しそうな顔なんて見たくない。でも、目覚めたいけど目覚めることができない。


「あーもう!さっさと目覚めて私!もう大事な人たちに悲しい顔をさせたくない!」


 前世では、家族や友人、大切な人たちを悲しませてしまった。もう今世では誰も悲しませたくないよ!


 そう思った時だった。


 パリィィイン


 何かが、割れる音がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る