第23話 お出掛け!
そして2日経ち、今日はルイド様とのお出掛けの日。
別名、粗相即離縁!恐怖の付き添い!である。大変気が重い。
「体調崩れなかったわ…」
「奥様、高を括ってください」
大きなため息をつきつつそう言うと、サフィに宥められた。いや、言うてサフィよ、貴女昨日ずっと黒いオーラ出てましたよね?
「そんなに嫌なんですか?」
「嫌ではないわ。気が重いだけよ。会話どうしようとか会話どうしようとか会話どうしようとか」
「全部会話じゃないですか…」
そう言ってジト目で見てきた。
だってあのルイド様だよ!?いつもほぼ無言がデフォのルイド様だよ!?私から話しかける勇気はございません!ちなみに昨日も少し話しました。ちゃんとただいまを言ってくれました。話した内容?明日10時から出発するから遅れるな、です!
「まぁでも会話なら旦那様からしてくださるのでは?」
「そこはルイド様の気分次第よ」
私と話しても良い気分なら話しかけてくるだろうし、そうじゃなかったら無言だし。あれ、でもルイド様から持ち掛けたお出掛けだから話しても良い気分の可能性は高そう。
「はい、できましたよ」
「ありがとう」
今日は薄水色のシンプルだけど上品なワンピースに、髪形はハーフアップである。
「さて、そろそろ行きますか」
玄関に行くと、すでにルイド様がいました。うげ、待たせてしまった…。
「お待たせしました」
「あぁ」
ルイド様がそう一言言った。
危ない、吹き出す所だったわ。フレデリクとサフィは肩を震わせている。だよね!まさかここで来るとは思わないよね!
「なんだ?」
「いえ、なんでもございません」
訝しんだルイド様にフレデリクが瞬時に冷静になって答える。
おぉ、すごい。さすが公爵家の執事長。
「そろそろ行くか」
ルイド様はそう言いながら、手を差し出す。
おおう、エスコートつきですか!紳士ですね!
馬車に乗り込み座ると、馬車が出発した。さて、会話はどうなることやら…。もし会話なかったら1回だけ顔面ガン見作戦でもしようかな?その後のルイド様の反応で今日の気分を見極めよう!
あれ、そういえばどこに行くんだろう?何も聞いてないや…は!まさか捨てられる!?
「なんだか変なことを考えてそうだな?」
そんなことを考えながら1人あわあわしていると、ルイド様が呆れたような顔をしながらそう言ってきた。
変な事ってなんですか!これは私の今後の生活の死活問題ですよ!
「どこに行くのかなぁ…と思いまして」
「あぁ、そういえばまだ言っていなかったな。今日は宝石店と洋服店に行く」
直球で聞いてみると、そのような答えが返ってきた。
よかったー、捨てられるんじゃなくて!…え、宝石店と洋服店?まさか…!
「…もしかして、社交ですか?」
「1週間後、王太子殿下の生誕パーティーがある。…忘れていたのか?」
と、若干呆れた顔をしながら答えてくれた。
あぁ!王太子殿下の生誕パーティー!そういえばシナリオにそんなイベントあったような。そうそう、そこでアリリスさんがミスをしてしまって、それをマリー様が厳しく責めていたなぁ。…ということは、アリリスさんと会う確率高いのか。絶対つっかかってくるな、うん。
「そ、そんなことないですよ」
「その顔は絶対忘れていたな」
「…はい、忘れてましたすみませんでした」
うん、ルイド様に嘘は付けないや。いや、嘘ついたとして、すぐに見破られるわ。さすが側近。観察力が大変鋭いようで。
「ふっ。やっぱりフィリアは面白いな」
ルイド様は小さく笑ってそう言う。
え、どこかに面白いところあったっけ!?て、そうじゃなくて、アリリスさんだよアリリスさん。覚えておけよって言ってたし、何かしてくるのかなぁ。
「どうした?思いつめた顔をして」
「いえ、アリリスさんにまた絡まれそうだなと思いまして」
私がアリリスさんの名を出すと、ルイド様の顔がわかりやすく死んだ。アリリスさんよ、案の定嫌がられていますよ…。どんまい?
「まぁ、そこは頑張れ」
「えぇ…」
まさかの丸投げ!?確かにこの前の舞踏会は私が丸投げしたけど!ちょっとあのぶりっ子は私には荷が重いですわ。うん、絡まれたらまた丸投げしよう。
そういえば、私今ルイド様と会話してる!あのルイド様と会話してる!なんか夫婦っぽい!あ、夫婦だった。
「着いたみたいだな」
ルイド様の声に外を見ると、見たことあるお店の前だった。あ、これお義母様と来た洋服店だ。あ、今回も最高級洋服店なんですねー。なんとなくわかっていたけどー。
ルイド様が先に降りて、エスコートしてもらい馬車を降りる。そしてそのまま店に入った。
「いらっしゃいませ」
中に入ると店員が出迎えてくれて、そのままこの前入ったVIP個室に通される。
しばらくすると、この前対応してくれた年かさの女性が入ってきた。アルデさんだ。
「ようこそいらっしゃいました。ユースエン公爵様、フィリア夫人。今回はどうしましょうか」
「今度の王太子殿下生誕パーティーで妻が来ていくドレスを注文しに」
妻ですって!?確かに妻だけど!ルイド様の口から妻の文字が…!よかった、ちゃんと妻だと思ってくれていたんだ。
「かしこまりました。今回はどうしましょう」
「薄いオレンジ色で」
アルデさんがそう聞くと、ルイド様が瞬時に答える。
ちょいまて。即答!?私が答えるんじゃなくてルイド様が即答!?
「良いと思いますよ。今回は形はベルラインでいきましょうか。装飾には白のレースを入れて…」
そう言いながら、アルデさんは持っていたスケッチブックに、ドレスを描いていく。
え、まさかの採用…!?ルイド様すご!
「こんな感じでしょうか」
そう言ってアルデさんが見せてくれたのは、温かみのあり、上品な感じは残しつつもこの前よりは派手なドレスだった。まぁ、今回はパーティーだから、少しは派手にしないといけないので、これくらいが私的には丁度いい。
「良いと思いますわ」
「ではこれで」
「かしこまりました」
即決である。アルデさん、すごすぎる。前回と言い今回と言い、一発で好みのドレスをデザインしてしまうなんて…!
その後は採寸をして、洋服店を後にした。あ、もちろん採寸の時はルイド様いなかったよ!しかし、ルイド様が色を選んでくれるなんて…あのルイド様が。まぁ確かに誰が見ても私に似合う色は薄い色だと言うんだろうけど。
「次は昼ご飯を食べに行く」
「あ、はい」
馬車に乗り込んでしばらくの無言を経て、不意にルイド様が口を開いた。
…ご飯ですか。それはまた粗相即離縁危機で。そういや、外食も無言なんだろうか?でもさすがに個室とはいえ人の目があるところで無言はなさそう?でも何を会話するのかなぁ。
そしてルイド様、今回は無言なんですね?まぁ、最初に話したから無理に会話しなくてもいいか~。
そして無言のまま店に着いた。ルイド様はさっきと同じようにサッとエスコートしてくれる。そのまま受付を済ませ、個室に案内されて席に座った。
絶対高いよこの店…。だって装飾がおかしいもん!とても綺麗なシャンデリア!これは、絶対に粗相してはいけない…!ルイド様、急に話しかけないでくださいね!たぶん今の感じだと、話しかけてくることはなさそうだけど。
案の定無言のまま料理が来たので、食べ始める。
あ、美味しい。さすがルイド様が選ぶだけあるなぁ。
「味はどうだ?」
ご飯を堪能していると、不意にルイド様が尋ねてきた。
うわ、びっくりした。話しかけないでくださいねって心の中で言ったのに!粗相しなかった私をほめてほしい。
「美味しいですわ」
「それはよかった」
私が返事をすると、ルイド様はそう言って再び無言で食べ始めた。
その後、私が食べ終わるまで無言だった。そういや、ルイド様は私より食べるの早かったなぁ。いつも食べ終わったらすぐ書斎に行くから自分の食べる速さなんて気にしたことなかったわ…。待たせてごめんなさい~。
お店を出て、馬車に乗り込む。次は最後の宝石店かな。
それにしても、お腹いっぱい。はっ、まさかお腹いっぱいでお腹が出ることを予想して先に洋服店に行ったのでは!?もしそうならルイド様気遣いできすぎ!お義母様に小さいころから仕込まれたんかなぁ。
馬車?相変わらず無言ですよ?というかこれがデフォです!最初がおかしかったんだよ!あれでも、最初は私と話してもいい気分だったんだよね?え、私いつの間にやらかしていたの!?
「…どうした」
「いえ、何でもありませんわ」
おっと危ない。顔に出ていたようだ。ここはもうルイド様の機嫌をこれ以上損なわないようにおとなしくしなくては。…いや、ずっとおとなしかったけどね?
「そうか。欲しいアクセサリーはある?」
「欲しいアクセサリーですか…いえ、特に今欲しいのはないですわ」
欲しいアクセサリーねぇ…前世も今世もそんなに物欲ないからなぁ。そういや前世でお揃いのネックレスとかしているカップルいたような。それを見て友人がボソっと何かを言っていたっけ。ルイド様とお揃いは難易度高すぎて無理です!
「そうか」
そう言ってルイド様は窓の外に目を移した。あ、会話終了ですね!
それにしても、薄オレンジ色に会うアクセサリーって何だろう?ダイアモンド?まぁ、そこらへんは一流の店員が選んでくれるか。
馬車が止まり、ルイド様のエスコートにより馬車を降りる。目の前には、煌びやかないかにも最高級宝石店ですよ!て感じのお店があった。
…大丈夫これ?強盗に狙われそう。ほら、お金ありそうなところに強盗入るじゃん?
ルイド様にエスコートされながら、中に入る。中にはたくさんの宝石がケースに入れて飾ってあった。
「わぁ…」
この前お義母様といったお店はあまり飾っていなかったから、ここまで圧倒されるくらい煌びやかな宝石が並んでいるのを見るのは初めてだ。
一言言うと、綺麗。やっぱ私も女の子なんだなぁ。こういうの見るとテンション上がってしまう。まぁ、値段考えたら気後れするけど。特に前世は一般市民だしね!
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「王太子殿下生誕パーティーで妻がつけていくアクセサリーを注文しに」
「かしこまりました」
店員とルイド様の簡単なやり取りの後、個室に案内された。え、あんなに飾ってあるのに個室なんですね!?
しばらくすると、若いお姉さんが入ってきた。
「ようこそいらっしゃいました。ユースエン公爵様、フィリア夫人。今回担当させていただきますデンテと申します」
そう言って礼をしたデンテさんは私たちの前に座った。
「今度のパーティーに付けていくアクセサリーということですが、ご希望があればお伺いいたしいます」
「薄オレンジ色のベルラインのドレスに合うアクセサリーを頼む」
「かしこまりました。そうですね、それなら…」
またまたルイド様がデンテさんの質問に即答する。もう何もつっこまないぞ…!
デンテさんはサラサラっとアクセサリーのデザインをスケッチブックに描いていく。
「こんな感じでしょうか。主にダイアモンドを使って、上品さを保ちつつも、華やかな感じにいたしました」
そう言って見せてくれたスケッチブックにはネックレスと、ブレスレッドが描かれていた。
おぉ…!これは上品で華やかでよさげかも?たぶん午前中に頼んだドレスにも合いそう!やっぱ一流のデザイナーさんたちはすごいなぁ!
「良いと思いますわ」
「ではこれで」
「承知いたしました」
即決。即決大事。値段は知らない。まぁ、たまにお金使うのも経済回すためには必要だよね!後でお礼言わないと。
その後、再び採寸をして、店を出て、馬車に乗り込む。無言で。もうこれはしょうがないよね!
「今日はどうだった?」
しばらく無言で乗っていると、不意にルイド様がそう聞いてきた。
「楽しかったですわ」
「それはよかった」
そう言ってルイド様は窓に顔を向ける。
はっ、お礼を言うなら今だよね!?たぶん今逃したら今日は言えない気しかしない!そしてずっと悶々とする!
「ルイド様」
呼びかけると、ルイド様は窓から顔を戻して、こちらを見る。
よし、これはいける…!
「今日はありがとうございました!」
そうお礼を言うと、ルイド様は一瞬驚いて、少し笑った。
なんだかんだ最初は不安しかなくて気が重かったけど、ふたを開けてみれば楽しかったなぁ。…今日かかった金額は考えないようにしよう。
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