第22話 旦那様!
「おかえりなさいませ」
ユースエン公爵家に着くと、フレデリクが出迎えてくれた。
あ!あれやってみようかな!
「あぁ」
「ふっ」
ルイド様の真似をして一言返すと、フレデリクは小さく噴き出した。後ろを向くとサフィが口を押えていて、肩が震えていた。おー、威力抜群!
「噓よ嘘。ただ今帰ったわ。…ルイド様の真似、どうだったかしら?」
「面白かったですよ。これからいつものやり取り見るたびに思い出し笑いしてしまいそうです」
そう言ってフレデリクは今度はクスクス笑った。
思い出し笑いかぁ。ルイド様とのいつものやり取りした瞬間にフレデリクが笑ったらそれはそれで面白いかも。ルイド様はポカンとするか怪訝な顔をするか、どっちかなぁ。
「その時のルイド様の反応楽しみね」
「そうですね。…その様子を見ると、お茶会は楽しかったようですね」
「えぇ、とても楽しかったわ」
マリー様とのお茶会、とても楽しかったなぁ。粗相即離縁なこともなかったし、仲も縮まったし。またお茶会したいなぁ。
フレデリクと別れ、自分の部屋に行き、サフィによっていつものワンピースに着替える。
「ふぅ、すっきりすっきり」
いくらカジュアルとはいえ、やっぱりドレスは疲れるなぁ。特に前世の記憶が戻った今は強くそう思う。だるーんとしたワンピース最高だったなぁ。
「ルイド様の真似、どうだったかしら?」
せっかくならサフィにも聞いてみよう!笑っていたし。
「とても面白かったです」
サフィは黒いオーラを出しながらそう答える。
あ、これはだめですねー。さっき笑ってたから今回は大丈夫かと思ったけど、案の定黒いオーラ出ましたねー。
「ただ、今日は執事長と同様に笑いそうです」
といつものサフィに戻ってそう言う。
よかったよかった。黒いオーラ仕舞ってくれた。
「それはよかったわ。今後もたまにやっていこうかしら?」
日常にちょっとしたボケとして、たまにやってもいいかも。あ、そもそも外出あまりしないわ。今世でも引きこもり。引きこもり最高。あ!立派な公爵夫人修行はちゃんとしてるよ!
「そうですね、いいと思いますよ。…旦那様が帰って来たみたいです」
サフィの黒いオーラが再び登場したところで、私は玄関に向かった。
「おかえりなさいませ」
玄関で少し待っていると、ルイド様が入ってきたのでいつも通りの言葉をかける。
さぁ、いつも通りの言葉を返してください!フレデリクとサフィはちゃんと笑うのか楽しみ!
「ただいま。…お茶会は楽しかったか?」
今なんと…?え、ただいま…?あぁ、じゃなくて、ただいま…!?え、そんなことあるぅ?はっ、これはきっと夢だよ、うん、夢。
「現実です」
現実逃避を始めていると、サフィが後ろからそっと声をかけてくれる。
…なんか前もこんなことあったような。
「はい、楽しかったですわ」
「それはよかった」
そう言ってルイド様は書斎に行かれた。
「…何かを察知したのかしら?」
「それはあり得ますね…」
何せあのルイド様だし。きっと変な空気を察したのかも。くぅ、これは明日に持ち越しかぁ。
ダイニングにルイド様が来て、夕飯の時間が始まった。…いつも通り無言の。
いつも通りってこんなに安心するんですね。そういえば前世の友人がそんなこと言ってたような。それにしても、出迎えがあんな感じだったから、ルイド様は今日は私と話してもいいか気分かと思ってたけど、そうでもなさそう?
「…明後日出かける」
ぼーっとそんなことを考えていたら、不意にルイド様が口を開いた。
わぁ、びっくりした。話す時は話すって言ってほしいわぁ。
「はい、お気をつけて」
冷静を装って奥様らしく答える。
というか、どうしてそんなことを私に伝えるんだろう。いつもは言わないのに。
「そうじゃなくて…フィリアも準備しとくように」
「はい、わかりまし…っ!?」
え!?今ルイド様私の名前を言った!?初だよ初!私の名前知ってたんだ!そして私も出かけるの…!?新たな粗相即離縁危機到来ですね!
「どうした?」
「いえ、なんでもありません。明後日ですね、わかりました」
いけないいけない、ルイド様に怪訝な顔をさせてしまった。…でもこれ、原因はルイド様よね。いきなり二重の意味でぶっこんできたからね。私が驚くのは無理ないと思うの。あ、たぶんサフィも…というか、この部屋にいる人皆驚いてるんじゃない?誰か瞬時に冷静を取り戻した私を褒めてほしい。
夕飯を食べ終わり、自室に戻る。
あ、ルイド様はいつも通り先に食べ終わって戻っていった。やっぱりいつも通りって安心するわぁ。…それにしても今日のルイド様、何だったんだろうか。気分が良かったのかなぁ。
「びっくりしたわ」
「私もびっくりしました」
やっぱりサフィも驚いていたかぁ。
何をしに出掛けるんだろうか。私も一緒となると、公爵夫妻でのお仕事だよね?でも、今まで何もなかったのになぁ。
「何の仕事をするのかしらね」
「…奥様、たぶんお仕事ではなくてデートかと思われます」
「あー、デートね…はい?デート?」
え、結婚しているのにデート?あ、結婚しててもデートはするか。ちょっと勘違いしていたみたい。…て、そうじゃなくて。は!?デート!?あのルイド様が私と!?…ないな、うん。
「はい、お二人でお出掛けとなると、そうなるかと」
「それはないわ。だってあのルイド様だし。きっとお仕事で私の同伴がいったのよ」
「でも執事長に確認したところ、明後日の旦那様は丸一日オフだそうですよ」
と困り顔でサフィが答える。黒いオーラは珍しく出ていない。
あー、ルイド様もちゃんとオフの日あるんですね、よかった。いつも忙しそうだから心配だったんだよなー。
「奥様、現実を見てください…」
だよねー。…え、オフなの!?それいよいよデートの線濃くない!?そんなことがあのルイド様に存在するの…!?そしてサフィ、いつの間にフレデリクに確認してたの…。さすが私の専属侍女。
「たぶん、オフの日に領地関係で何かするんじゃないかしら?」
「確かにそれもあり得ますね」
うん、きっとそう。だってあのルイド様だよ?女性に興味なさすぎるあのルイド様だよ?デートの文字なんてルイド様の辞書にはないはず。
とりあえず、粗相即離縁にならないように気を付けよう。
「引きこもり、のはずなのになぁ…」
「奥様…?」
「いえ、なんでもないわ。…今日はもう休もうかしら」
マリー様とのお茶会といい、さっきのルイド様といい、なんだか今日は色々あって疲れた。マリー様とのお茶会は楽しかったよ!この疲労感の一番の原因は間違いなくルイド様。
「そうですね。それがいいかと思います」
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