第16話 ドレス!
次の日。
「おはようございます。…また落ちたんですか?」
「おはようサフィ。ちょっと昨日疲れすぎたのよね」
はい、落ちてます。ベッドから。
昨日は気を張りすぎてたのか、ベッドに横になった瞬間寝たみたい。真ん中に行かずに。しょうがない、だってお義母様が来ているんだもん。粗相できないじゃない?あ、もしかしてこれ、粗相即離縁かかってる…!?そうじゃん、すっかりわすれてた…!
ちなみに昨日、お義母様とルイド様と夕飯をとったんだけど、すごかったよね。お義母様のマシンガントークが炸裂していた。マシンガントークなのに食べ方等作法はとても綺麗だった。すげぇ。ルイド様は慣れたように無表情で食べていたからこれがデフォだったんですね…。
「今日は大奥様とお買い物ですよ?」
「そうだった…粗相即離縁にならないようにしないと」
お買い物ということは、つまり外出。周りの目もある。うぅ、これはさらに粗相即離縁ものだぞ私…。
「それはないと思いますけど…。とりあえず、支度しましょう」
「そうね」
サフィによって、支度をされる。今日は余所行きバージョンです。服はいつもより豪華なワンピース…というよりドレス?である。もうすでにいつものシンプルワンピースが恋しい。
…はっ。今気づいたけど、昨日もいつものシンプルワンピースだったよね。あの格好で大丈夫だったんだろうか?一応何も言われなかったけど…。
「ねぇサフィ。昨日あの格好で大丈夫だったのかしら?」
「大丈夫だと思いますよ。大奥様も派手すぎるものは苦手みたいですし」
そうなのかぁ。そういや、あの東屋もシンプルだった。
「それに、旦那様もシンプルワンピース認めていらっしゃるので」
サフィが声をワントーン落としてそう言う。黒いオーラだしながら。
落ち着いて―?というか今回は自分から名前出したよね!もしかして、心の奥では尊敬しているパターン?
「確かにそうね」
支度が終わり、サフィを伴ってダイニングに行く。お義母様も一緒に食べるみたいなので、しばらく待っているとお義母様が入ってきた。
「おはようございます」
「おはようフィリアちゃん!あら、今日はまた一段と可愛いわね!」
「あ、ありがとうございます」
お義母様は私の姿を見るとすぐ褒めてくれた。
なんだかちょっと気恥ずかしいなぁ…でも嬉しい。やっぱ褒められると嬉しいよね!
お義母様が席につき、朝食が運ばれてきたので、いただきますを言い食べ始める。すると不意にお義母様が言った。
「そうそう、フィリアちゃん。今日はフィリアちゃんのドレスとアクセサリーを買いに行きましょう!」
おっと危ない。思わずカトラリー落としかけた。
私のドレスとアクセサリーなの!?私の!?
「フィリアちゃんにとっても似合うものを買いましょうね!」
「あ、ハイ」
無理です。私には断れません…!あんなキラキラした目で言われて断れる人なんているんですか。いないですよね、そうですよね。
ドレスとアクセサリー買うとしても、普段使わないんだよなあぁ…。そうなると申し訳ない。あと、単純に恐れ多い。
朝ご飯を食べ終わり、屋敷を出発する。馬車に揺られること数分、一軒の立派なお店の前に馬車が止まった。
ここは…どこ?見た感じとても高級なお店だというのはわかるけど、何てお店だろう?うん、引きこもりだからこういう知識全くないや。
…て、ここで買うの!?ものすごく忍びないんですけど!
「ここは…?」
馬車から降り、前を歩くお義母様に尋ねる。お義母様は私を見て、目を見開いた。
「ここはとても有名な洋服屋よ!王族のドレスとかも作っているわ」
「え!そうなんですか。すみません、こういうのに疎くて…」
「気にしないでちょうだい!誰でも最初はわからないことだらけよ」
そう言ってお義母様は朗らかに笑う。よかったぁ、こんなこともわからないの!?て怒られるかと思った。いや、怒られはしないか。今までの態度を見る限り。
…て、そうじゃなかった。やっぱりこの店やばいところじゃないですか!王族…王族のドレスって!いわば最高級洋服屋じゃないですか!さすがユースエン公爵家…そしてさすが私の引きこもり…。うん、まったく知らなかった。
中に入ると、ドレスが何着も飾ってある…わけではなかった。受付があって、その奥に個室が並んでいる。えーっと、全部オーダーメイド形式ってことかな?さすが最高級洋服屋。私の場違い感が半端ない。一応私もそれなりに身分が高い伯爵令嬢ではあったけど、この世界ではただの名もなきモブキャラである。それに引きこもり。…うん、場違いだねー。
受付をソルディエが済ませ、私たちは2階の一番奥にある豪華な個室に入った。ちなみに、ソルディエとサフィがついてきているよ!
この部屋絶対VIPの個室だよね…?さすがユースエン公爵家と言うべきか。もうこの店がやばいのはこの際置いておこう。突っ込むときりがない。
「ようこそいらっしゃいました、ソーウィラ夫人、フィリア夫人」
そう言い、一人の年かさの女性が入ってきた。
「アルデお久しぶりね!元気かしら?」
隣に座っていたお義母様がにこやかに言う。仲良いんだ。と言うことはお義母様ってこのお店の常連…!?すごい。
「元気ですよ。ソーウィラ夫人も元気そうで何よりです」
「紹介するわ!娘のフィリアよ」
お義母様に紹介されたので、一礼をする。
…て、そこは息子の妻の、じゃなくて娘なんですね!?
「初めまして。フィリアですわ」
「お初にお目にかかります、この店でデザインを担当しているアルデと申します」
「アルデはね、王族のドレスのデザインを担当したりと、この店で1番のデザイナーなのよ!」
お義母様は隣で自慢げにそう補足説明をした。
まるで、友人すごいでしょ!みたいな感じで。…て、この店1番!?てことはこの国1番と言っても過言じゃないよね!?
「ソーウィラ夫人、買いかぶりすぎですよ。で、今回はどうしましょう」
アルデさん…アルデ?アルデさんでいいか。アルデさんは静かに謙遜した後、手に持っていたスケッチブックを広げる。
「今日はね、フィリアちゃんのドレスを作ってもらおうと思って!」
「かしこまりました」
あ、そうだ、私のドレスだ。え、本当に申し訳ないのだけど…。まぁ、ここまできたらやるしかないよね。頑張れ私。
「どういう感じにいたしましょうか」
「なるべく上品な感じがいいわね!色は薄い色が似合うと思うのだけど、アルデはどう?」
「良いと思いますよ。体の線も細いですし、肌も白くてきめ細かいですし」
体の線の細さは色関係なくないですか。あ、もう完全に置いてけぼりにされてる。うん、ここは様子を見よう。
「でしょでしょ!」
そうお義母様が自慢げに言う。骨格は遺伝で肌が白いのは単に引きこもっていたからであって、褒められるものじゃないと思うんだけど…。
「それに素朴で上品な綺麗な顔立ちですので、あまり華美な装飾よりかはシンプルで上品な装飾の方が似合いそうですね」
このどことなく漂うモブ感を素朴で上品とは物は言いようだなぁ。あ、綺麗は置いておく。お世辞でも綺麗って言われると嬉しいじゃない?
「胸下切り替えAラインのドレスにしましょう。色は薄水色で、装飾に白を入れて…と。こんな感じでしょうか?」
そう言って、アルデさんはすごい速さで描いたドレスのデザインを見せてくれた。
そこには、シンプルで上品な雰囲気を残しつつ、白色のリボンなどの装飾で少しだけ可愛らしさを取り入れたドレスが描いてあった。一言言おう、めちゃくちゃ好きなデザインです。アルデさん、すげぇ。
「あらぁ、いいわね!フィリアちゃんはどう?」
「とても良いと思います」
私がそう言うと、お義母様はにこやかに笑った。
「ではこれでお願いするわ!明日までにできるかしら?」
「かしこまりました。明日の午後にはできます」
「じゃあよろしくね!」
お義母様がそう言うと、アルデさんは一礼して個室を出て行った。
明日までって結構無茶振りじゃない…?別に遅くてもいいよ…?
「なぜ、明日までなのですか?」
尋ねてみると、お義母様は朗らかにこう言った。
「そういえば、フィリアちゃんに言ってなかったわね。明後日、王宮で王妃様と私とフィリアちゃんでお茶会をするのよ!」
と。
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