第18話 ヒロイン!
「あらぁ!お飾りのフィリア夫人じゃないですかぁ!」
「ごきげんよう」
可愛らしい声が聞こえてきたので、そちらを向くと、案の定ぶりっ子ヒロイン…もといアリリスさんがいた。
うん、言った内容は気にしないでおこう。事実だし。それよりもぶりっ子が痛すぎる。ここにルイド様はいませんよ?…正確に言うと、この建物のどこかにはいるけど。王宮だし。
「あらあら、この子はどなたかしら?」
お義母様がニコニコしながら私に尋ねる。
絶対「この」と「子」の間に「はしたない」が入っているような気がするけどそこは置いておこう。
「初めましてっ。アリリスと言いますぅ!」
わお、私より先に答えちゃったよ。いいのかなぁ。
「私はフィリアちゃんに聞いたのよ?あなたに尋ねていないわ」
あ、お義母様若干キレてらっしゃいますね?ぶりっ子耐性ないとしんどいよねこの子。
「王宮のメイドですわ」
「そうなのね。それでよく王宮のメイドになれたわね」
そう言って小さなため息を吐くお義母様。…あれ?そういえばお義母様とアリリスさんて会ったことないっけ?私が結婚する前にもルイド様にウザ絡み…じゃなかった、アタックしていたよね?結婚するまでお義母様も王都にいたんだし。
「そうなんですよぉ!ここはあたしには釣り合わないんですぅ。あたしが釣り合うのはルイド様のお隣っ」
いや、お義母様なかなかに貶してるんであって褒めてるわけじゃ…て、お義母様前にすごいこと言ったね!?え、アリリスさん、この方がお目当てのルイド様の母君だって知らないの!?
「ほう?」
お義母様、オーラが黒いです。サフィ並みに黒いです。いや、もしかしたらサフィ以上に黒いです。
「あなたのような娘はいらないわ」
お義母様はそう冷たく吐き捨てる。普段のお義母様とは大違い。怖い。この人は絶対敵に回したらいけないわ。
アリリスさんはその言葉でお義母様の正体に気づいたのか、驚いた顔をして
「もしかしてルイド様のお母様ですかぁ?」
と即座に愛らしい笑顔を浮かべてそう言った。
うん、いろいろすごい。逆に尊敬しそう。しないけど。
お義母様は一瞥するのみにとどまったが、それを肯定と受け止めたアリリスさんは目に涙をためてこう言った。
「お義母様ぁ!どうかルイド様にフィリア夫人ではなくてあたしを妻にするように言ってください!ルイド様にフィリア夫人は不釣り合いですぅ!」
これにはさすがにドン引きである。すげぇ。周りの人もギョッとしている。仕事の邪魔してごめんなさいね。私は悪くないけど。
「その理由は?」
お義母様が静かに尋ねる。その声音はおそらく絶対零度の冷たさ。
そう尋ねられたアリリスさんはさらに涙をためて
「フィリア夫人はあたしに何度も嫌がらせをしてくるんです…!この間の舞踏会だって、あたしを見つけて悪口を言ったんですぅ…」
と言った。
もうそろそろその涙こぼれそうねぇ…じゃなかった。私いつアリリスさんに嫌がらせしたっけ?この間の舞踏会って、確か私の記憶が正しければアリリスさんが私を見つけて、アリリスさんが私の悪口を言ったような?あれがはたして悪口に入るのかは置いといて。
「心の汚いフィリア夫人はルイド様には似合いません!」
言い換えれば、自分は綺麗な優しい心を持っているからルイド様の隣に似合う、ということかぁ。
確かに心は綺麗じゃないけど、嫌がらせはしたことないなぁ。
「言わせておけば失礼な子ね。あなたよりよっぽどフィリアちゃんの方ができた子だわ。よかった、ルイドがあなたを選ばなくて」
お義母様は絶対零度の冷たさでそう吐き捨てると、私の方を向いていつものにこやかな笑顔に戻る。
「フィリアちゃん、帰りましょう!帰ったら早速ティータイムよ!」
といつものおばちゃん感満載でそう言った。
え、さっきまで王妃様とお茶会してたのにまた飲むの!?それ、ヤケ酒ならぬヤケ紅茶なのでは。
お義母様はそう言って、スタスタ歩き出した。
「では、ごきげんよう」
私もアリリスさんに一応挨拶をしてお義母様についていく。
するとアリリスさんが
「今に見てなさい…」
と言った。なかなかに冷たい声で。
こわぁ…というか、そんな声も出せるんだ。これじゃアリリスさんが悪役みたいね?
ユースエン公爵邸に戻った私とお義母様は、サロンで本日二度目のティータイムをした。そこでは専らお義母様のアリリスさんへの愚痴を聞いた。だいぶ溜まってらっしゃった。
しかし、今に見ていなさい、ねぇ。何をするのかな。考えられることとしては、私に関する嘘を王宮の人たちに吹き込むくらいよね。でも皆信じるのかなぁ。見たところアリリスさんの味方少なそうだし。この間の舞踏会も結構な人に見られていたし。
まぁ、引きこもって立派な公爵夫人修行をしとけばいいか。
次の日。
今日はお義母様が帰る日である。なかなかに良い印象を持ってもらえたんじゃないかな?少なくとも即離縁にはならなそう!やったぁ。
「おはようございます、お義母様」
「フィリアちゃんおはよう!」
ダイニングルームに行くと、既にお義母様が座っていた。
あらら、待たせてしまったようだ…。
「お待たせして申し訳ございません」
「いいのよいいのよ!さ、食べましょう!」
「はい」
お義母様はそうにこやかに言い、ご飯を食べ始める。
誰かと一緒に食べるのって楽しいなぁ。お義母様のおかげでこの食卓が明るくなった気がする。はっ、これも立派な公爵夫人に必要なことなのでは…!まぁ、ルイド様相手には無理な気がするけど。だって会話続かないもん。続かないって言うか、そもそも会話しないっていうか。
朝食を美味しく食べ終わり、玄関に向かう。お見送りである。
そういや、こういうお見送りしたの結婚して初じゃない?いつも私が起きるころにはルイド様出仕しているし。
「やっぱり帰りたくないわ!」
「大旦那様が領地でお待ちでしょう?」
「ソルディエはいじわるね!」
玄関で駄々をこねるお義母様をソルディエが一蹴する。
仲良いですねぇ。私もいつかサフィとこんな風になれるかな?
「フィリアちゃん、短い間だったけどありがとうね!とっても楽しかったわ!」
「こちらこそありがとうございました。またいつでもいらしてくださいね」
「もちろんよ!フィリアちゃんもこの生活に慣れたら領地においでね!あと、秘密の東屋じゃんじゃん使ってやってちょうだい!」
「はい」
そう言って、お義母様は馬車に乗り込んだ。
秘密の東屋、もちろん使いますよ。教えてくださりありがとうございます。
「どうでしたか?大奥様と過ごされた4日間は」
馬車を見送っていると、後ろに控えていたサフィが静かにそう尋ねてきた。
「そうね。とても楽しかったわ」
「ふふ、それはようございました」
即離縁もかかってたからそれなりに緊張もしたけど、たぶん嫁いできてから一番楽しかったような気がする。お義母様の明るい人柄に絆されてしまったのかなぁ。それにお義母様がいた4日間は屋敷自体が明るくなったようだった。
私もこういう人になりたいなぁ。なんとなく、目指すべき立派な公爵夫人像が見えた気がする。
「早速立派な公爵夫人修行開始ね!」
そうと決まれば後は修行をするのみ!
「次は何をしようかな?」
私もいつかあんな風になれるように、ね。
おばちゃん感は置いといて。
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