第14話 香り決め!

「おはようございます、奥様。今日は落ちませんでしたね」


「おはようサフィ。当たり前じゃない」


「当たり前…?」


 サフィが何か言ったっぽいけど、気にしない気にしない。まぁ、確かについ昨日落ちたけど。今回はちゃんと真ん中で寝たので大丈夫です。わーい。


「今日は朝ご飯の後にサロンよね?」


「はい」


 楽しみだなぁ。フレデリクはどんな香りを用意しているんだろう?前世のものが形になるってわくわくする。それに香水とおさらばできる…!ここの香水きついの多いんだよなぁ。



 サフィによって支度を終え、朝ご飯を食べる。そしてサロンでまったりしていると、フレデリクが台を押して入ってきた。

 台には液体の入った小さなガラス瓶がいくつも置いてある。…多すぎない?それ全部嗅いだら鼻おかしくなりそうなんだけど。


「奥様、おはようございます」


「おはよう。…それ、全部香りの候補かしら?」


「左様です」


 恐る恐る尋ねると、即答された。良い笑顔付きで。

 そ、そんな良い笑顔じゃなくても…。え、鬼畜?


「そんなにたくさん嗅いだら鼻おかしくなるわよ…?」


「ではまず、これにしましょうか」


 聞いて!?フレデリク、あなたそんな鬼畜な性格していたっけ?もっと優しい、まるで菩薩のような人だと思っていたんだけど…!?


「もしかしたら、これ商品化できるかもしれないので念入りにお願いしますね」


「はあ…はあ!?」


 え、香水が流通したこの世界に柔軟剤が商品化したとして皆使うの!?…て、そうじゃなかった。商品化!?


「えぇ。まだ決まったわけではありませんが。発想が面白かったので」


 そう言って、フレデリクは再び良い笑顔を向けてくる。

 発想が面白かったら即商品化しちゃうの…!?ニーズも含めではなく…!?


「さぁ、まずはこれを」


 先ほどフレデリクが手に取ったガラス瓶の蓋を開けて私に渡してくる。


 受け取って、手で仰いで匂いを嗅ぐ。

 うーん、微妙。フローラル系の香りなんだろうけど、ちょっと強すぎる。


「私はあまり好きではないけど、令嬢方は好きそうね」


 ただの偏見だけどね!残念ながら私は今まで引きこもっていたから令嬢方の匂い事情なんて知りません。でも確か前世でよく嗅いだ記憶が。なんか可愛いくて明るい系の女子たちからこんな匂い漂ってきてた。


「なるほど。次はこちらを」


 フレデリクは別のガラス瓶の蓋を開け、渡してくる。

 受け取って匂いを嗅ぐと、こちらはシトラス系の匂いがした。こちらも結構きつめ。


 強めフローラルの次に強めシトラスとか私の鼻を壊す気ですか!?


「うーん…強すぎるわ」


 あぁ、でもシトラスって男性陣に人気の匂いだっけ?あれ、違ったっけ?まぁ、どっちでもいいか。


「では次はこちらを」


 フレデリクが素早く別のガラス瓶を渡してくる。


 匂いを嗅ぐと、前世の入浴剤にあった森の香りみたいなのを強くした香りがした。あれ、自然系の香りって安らぐはずよね?全く安らがないんだけど!

 そしてもう一回言う。鼻を壊す気!?


「ちょっと強すぎるわ。少し薄めの香りをお願いできるかしら」


「でしたら、こちらでしょうか」


 そう言って、また別の香りを渡される。今度は大丈夫よね…?


 匂いを嗅ぐと、今度は確かに薄めだった。ミント系。ちょっと匂いバラバラすぎません??鼻はスース―しましたありがとうございます。ただ、私はこの感覚苦手かも。


「微妙ね」


「でしたら次はこちらを」


 次のガラス瓶を受け取り、匂いを嗅ぐ。

 あ、この匂い、どこかで…。そういえば、前世の秋の登下校中に嗅いだことあるような。そうそう、金木犀。え、この世界に金木犀の香りなんてあったんだ。なんだか懐かしいなぁ。


「これ…私これ好きよ」


「では、これは候補に入れましょう」


 そういって金木犀の香りのガラス瓶は別の所に置かれる。

 好きな香りだったけど、はたして柔軟剤に金木犀いける?…まぁ、なんとかなるか。そこは敏腕執事長に任せよう。


「では次はこれを」


 そう言って次の瓶を渡してくる。

 休憩なしかい!もうすでに鼻がおかしくなりそうなんだけど!


「…うえっ」


 匂いを嗅ぐと、あまーいあまーい苺の匂いがした。しかも強め。

 ここにきてまさかの苺。しかも香り強くなってるし。思わずえずいちゃったよ…。


「これは違いましたね」


 そう言って、フレデリクはケラケラ笑う。わざとだこの人…!


「ひどいわ。…アリリスさんが好きそうね」


 もう一度少しだけ嗅ぐと、脳裏にこの前の可愛らしい笑顔のアリリスさんが浮かんだ。そのあとの台詞は置いておこう。

 あのぶりっ子…じゃなかった、あの可愛らしいアリリスさんなら似合いそう。


「…そうですか。ではこちらはやめましょう」


 フレデリクが急に不機嫌になってそう言う。

 えぇ、どこに不機嫌になる要素が…?アリリスさんの名前出しただけだよね?もしかして、フレデリクってアリリスさん嫌い?ルイド様から話は聞いてそうだし。


「えっと、ごめんね?」


「こちらこそ申し訳ございません。では次はこれを」


 再び笑顔になったフレデリクから次の瓶を受け取る。


 匂いを嗅ぐと、ほのかな石鹸の香りがした。良い匂い…!


「これ、すごく好きよ」


「ではこちらも候補に入れましょう。次はこれを」


 次の瓶を渡される。…鼻を休ませて!?そろそろおかしくなってきたよ!?


 といっても渡されてしまったら嗅がないといけないような気がしたので、匂いを嗅ぐ。

 あ、これ前世で似たようなの嗅いだことある。えーっと、なんだったかな。そうそう、友人の家に一回行ったときに嗅いだ匂いだ。確か新築だから見においで~ってことで行ったんだっけ。そういやその一回しか友人宅行かなかったなぁ。前世の私、引きこもっていたし。


 新築…てことはヒノキかな?


「これも好きよ」


「ではこれも候補にしましょう」


 ヒノキの匂いの柔軟剤なんてあったっけ?まぁ、いいか。


「ちょっと鼻を休ませてほしいのだけど」


 フレデリクが次の瓶を渡してくる前に願い出る。もう鼻が限界である。


「そうですね。少し休憩しましょう」


 わーい。やっと休憩だー。ところが、私が思う休憩は来なかった。不意に


「では今のうちに商品化した時のことについて説明しますね」


 と、フレデリクが良い笑顔で言った。


 …確かに鼻を休ませてと言った。頭を休ませてとは言ってない。ちくしょう!


「あ、ハイ」


「この商品による利益は基本的に奥様持ちとなります。そして貴族の間に流通させた後、一般市民のもとにも流通させようかと」


 なるほど?利益は私持ちかぁ。確かに発案者私だけど。正確に言えば前世の誰かだけど。でも助かる。今は何もほしいものないけど、この先絶ほしいものは現れるはず。その時にルイド様のお金で買うのはちょっと気が引けるのよねー。

 あと貴族からの一般市民の順番も良く考えられている。一般市民からだと変なプライドを持つ貴族が使わないかもしれないし。

 それにしても、香水が流通している貴族に柔軟剤が受け入れられるだろうか…。


「わかったわ。柔軟剤、流行るかしら?」


「きっと流行ると思いますよ。香水が苦手な貴族もいらっしゃいますから」


「そうなのね」


 私以外にも香水苦手な貴族いるんだ…。そりゃ貴族も同じ人か。苦手な人もいるよね。


「ところでこれが商品化した時に名前はどうしましょうか?」


「名前?柔軟剤じゃないの?」


「柔軟剤…それだと意味と効果が一致しないというか。匂いをつけるのに柔らかいだと…」


 …あ。柔軟剤て柔と軟だ。そうだ、あれタオルとかをふわふわにするやつだ…!匂いを付けるだけじゃないんだった…。今の今まで忘れてた。なるほど、それじゃあ柔軟剤はまずいよね。

 ちなみにフレデリクが柔軟剤の漢字を知っているのは単純に私がサフィに教えたから。サフィが漢字までフレデリクに言っただけである。


「名前…どうしようかしら」


「奥様の名前を取ってフィリア香などいかがでしょうか」


「却下で」


 何それダサいし痛い…!すごく痛い!


「…リアグランスとかどうかしら?」


 前世の本名の松宮理愛の理愛にフレグランスを合わせた造語。前世の柔軟剤が元ネタだから、何か前世に関係する名前がいいよね!ただ、苗字の松宮だと今の私に関係なさすぎる。うん、理愛がちょうどいい。今の名前にも被っているし。結局なんか痛い感じになったけど!

 ちなみにフレグランスは私の頭の中に香り系の単語がアロマとフレグランスしか出てこなかっただけである。てへっ。


「とても良いと思います。ではリアグランスで商品化いたしますね」


「よろしくね」


 もしかしたら商品化するかも~とかいいつつ、もうすでにがっつり商品化する気満々ですねこの執事長。


「では続きの香りを決めましょうか」


「…ハイ」


 さよなら私のお鼻。



 あの後またいくつか匂いを嗅いで、新しく3つ決めた。今度は自分の好みと言うよりかは、前世でよく嗅いだな~て感じの匂いの薄いバージョンをチョイスした。ありがとう前世の記憶。そしてありがとう今世の私の鼻。なんとか持ちこたえたわ。


「ではこれで終わりにしますね。ありがとうございました」


「こちらこそありがとう。はやく柔軟ざ…リアグランス使いたいわ」


 自分で決めたとは言え、自分でリアグランスっていうのやっぱ恥ずかしいな!?うわぁ、今からこれを言っていかないといけないのか…。


「もう少しお待ちくださいね」


「はーい」


 そう言って、フレデリクが台を押して部屋を出て行こうとしたとき、ソルディエが慌てて入ってきた。…慌ててとは言ったけど、実際はいつもと所作はまるで変っていない。さすがだね!

 じゃなくて


「奥様、大変でござます」


「どうしたのかしら?」


「大奥様がいらっしゃいました」


 …はぁぁあああ!?

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