第13話 旦那様!
「ごくらく~」
只今、サフィにマッサージしてもらっています。さすがに昼からずっとお裁縫してたから、肩と首が痛い。
サフィ、やっぱりマッサージ上手。はっ、マッサージ技術も立派な公爵夫人修行に必要なのでは…?今度やってみよう。今はもう疲れたので何もしたくない。
「さすがサフィ。…寝てしまいそうだわ」
「ありがとうございます。寝ないでくださいね?…もうすぐ旦那様がお帰りになるので」
あ、もうそんな時間か。そして間が怖いよ、サフィ。しかも声もいきなりワントーン下がるし、黒いオーラ出かけているし。相変わらずねぇ。
「わかっているわよ」
返事はしたもののもうすでに寝そう。目を開けるのがきつくなってきた。そういやお裁縫で目を使ったなぁ。うん、そりゃ目を開けるのがきつい…すやぁ。
「…はっ」
「奥様…」
危ない。一瞬意識がどこかに飛んで行った。うーん、この感じ久しぶり。前世でよく授業中にこうなっていたなぁ。そういや前世の友人が私が寝かけた瞬間の写真撮って見せてきたっけ。白目でだいぶやばい顔してたわ。というか前世の友人、よく先生に何も言われなかったね?私は即行で起こされていたのに。
はっ、まって、寝かけた瞬間の顔ってやばいんだよね。てことは、今の顔もやばかったのでは?これでは立派な公爵夫人になれないわ…。
「…あ、帰ってきたみたいですよ」
ふと外を見たサフィが、声をワントーン落としてそう言う。
はい、その黒いオーラ仕舞ってねー。
「では、玄関に行きましょうか」
「はい」
サフィに服を整えてもらい、立ち上がる。
「おかえりなさいませ~…」
「…あぁ」
玄関で睡魔と戦いながらルイド様を待っていると、ルイド様が帰って来たので挨拶をする。ちょっと眠たくて頭回ってないから語尾が伸びたけど、気にしない気にしない。ルイド様はいつも通り一言返事をして書斎に行く…はずだった。
「…眠いのか?」
…んん?空耳?なんかルイド様が珍しく何かを言った気がするんだけど、そんなわけないよね。だってあのルイド様だし。夢でもみているのかなぁ。
「現実ですよ…」
後ろに控えていたサフィがこそっと呟く。
はい、空耳じゃありませんね。気のせいじゃないですね。…どういう風の吹き回しですか!?
「いえ、大丈夫ですわ」
ルイド様のおかげでばっちり目が覚めました。…ごめん、嘘ついた。やっぱり眠い。
「そうか」
ルイド様はそう言って書斎に行った。
あぁ、びっくりした…。予想外は心臓に悪い。そしてサフィは黒いオーラを仕舞ってね。怖いから。
「びっくりしたわ」
「私も驚きました」
サフィも驚いていたかー。そりゃ私の驚きも正常な反応だねー。
「始めて聞いたわ。お迎えで、あぁ以外の言葉」
それもそれでどうなのって話ではあるけど。そういや、前世の記憶的に「おかえり」言われたら「ただいま」だよね。まぁ、あのルイド様のことだし、「あぁ」が「ただいま」みたいなニュアンスなんだろうけど。あれ?「ただいま」言われての「おかえり」だっけ?どっちでもいいか。
「私もです。…ダイニングに行きましょうか」
「そうね」
ダイニングルームに行き、ルイド様が来たのでご飯を食べ始める。もちろん無言で。
ルイド様来るまでの待ち時間に寝そうになったのはここだけの話ね。
しばらく無言でご飯を食べていると、不意にルイド様が口を開いた。
「近々母が来るそうだ」
おっと、カトラリーを落としかけた。危ない危ない。そして、
はぁぁあああ!?え!?お義母様が!?そしてルイド様が食事中に喋った…!?
「…そうなんですね。詳しくはいつですか?」
一瞬にして冷静を装った私を褒めてほしい。
「それはわからない」
わからない!?え、それめちゃくちゃ困るやつ…!
「そういうわけだ。いつ来てもいいように準備しとくように」
そう言って、ルイド様は席を立ち書斎に戻っていった。
え、まさかのそこで放置プレイ…!?ルイド様は鬼畜ですか…!?そして何て無茶振りを…!
「奥様、目が覚めましたね」
「そうね。おかげさまでばっちりよ」
そしてサフィよ、一言目がそれは何か違うと思う。いやまぁ、ばっちり眠気どこか行ったけど。えぇ、それはもう今世の実家まで飛んで行ったレベルでどこか行ったけど。
「どうしよう…」
近々ってことは明日ではないよね。大体3日後から5日後くらいかなぁ。
「いつも通りにしていれば大丈夫だと思います」
「え、公爵夫人修行してていいの?」
「あ、それは控えていただいた方がよろしいかと…」
デスヨネー。て、サフィ、なんで目をそらしたの。
ご飯を食べ終わり、部屋に戻って湯浴みをした。そして只今サフィと緊急会議を開いている。
「どう過ごそう?」
「読書や刺繍をして過ごすのがよろしいかと」
「そうね、そうするわ」
正直一日中読書や刺繍なんてしたら目が疲れてしまうんだけど、こればっかりはしょうがない。立派な公爵夫人修行をしている時にお義母様が来られるよりましだよね!なんか見られるの恥ずかしいし。
「お義母様ってどのような方なのかしら?」
実を言うと、お義母様には1回しか会ったことがない。結婚式の時に、ご挨拶をしただけだ。どんな人なのか全くもってわからない。結婚する前も社交界ほとんど行ってなかったし。見た感じ、優しそうではあるけれど…人は見かけによらないって前世の友人が言っていた。
ちなみにお義母様はユースエン公爵領にある1つの別荘でお義父様と隠居生活を送っている。ルイド様が18歳の時に家督を譲って、それからは裏で支えていたけど、ルイド様と私の結婚を機に隠居した。
「世話焼きでお優しい方ですよ。私たち使用人にもとても良くしてくださいました」
「そうなのね。…ルイド様との仲を知ったら怒られるかしら?」
この冷え切った関係を知ったらどう思うんだろう?いや、冷え切ったっていうか、元から温まってもいないんだけど。だって何度も言うけど、気づいたら結婚式だったからね!周りうるせぇってことで適当に妻に選ばれただけだからね!拒否権なかったからね!
「あのお優しい大奥様が奥様に怒ることはないでしょう。もし大奥様が怒るとしたら旦那様に、です」
「そ、そうなの」
そうサフィは旦那様のところをやたらと強調して言った。はい、サフィ、黒いオーラしまってー。
まぁ、サフィがそう言うのなら大丈夫なのかな?もし怒られたら素直に謝っとこう。
そんな感じでサフィと緊急会議していると、扉がノックされたので許可を出すと、執事長のフレデリクが入ってきた。
「どうしたのかしら?」
「奥様、明日朝ご飯を食べたらサロンに来てください。例の柔軟剤?とやらの香りを決めましょう」
「もう形になったの?」
早くない?だってサフィがフレデリクに言ったの今日の昼だよ?半日しか経ってないよ?
「ある程度構造はできました」
はっや。フレデリク、有能すぎるでしょ…さすがこのユースエン公爵家で執事長しているだけあるわ。というか、ユースエン家の使用人全員有能説…。
「すごいわね。わかったわ、サロンね」
「はい。では失礼します」
返事をすると、フレデリクは一礼をして部屋を出て行った。
「楽しみですね、奥様」
「そうね」
偶然思い出した柔軟剤がこの世界で形になるのかぁ。そうそう、前世の知識フル活用ってこういう感じ。
「今日は目が疲れたからもう寝るわ」
「わかりました。おやすみなさいませ」
「おやすみ」
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