第12話 お裁縫!

「奥様、くれぐれも怪我のないよう…」


「わかっているわ。それに手縫いだし大丈夫よ」


 昼ご飯を食べ終わった後、私は自室に戻り、裁縫道具といくつかの布を用意してもらった。


 よーし、まずは巾着ね。


「どの布にしようかしら?」


 レースは却下。高級そうな布も却下。あぁでもレース地の巾着って意外に可愛いかも?まぁ、といあえず今回はやめておこう。


「巾着でしたら、大きさにもよりますが柄ありの布でもいいかもしれませんね」


「そうね!柄ありにしましょう!」


 さすがサフィ、頼りになるわ。じゃあ、この青い生地に白い花柄の布にしよう。大きさはどうしようかなぁ。今回は久しぶりの手縫いだから小さめにしよう。


 よし、布も大きさも決まったから後は縫うだけ!」


「本当にお怪我だけには気を付けてくださいね…」


 不安そうな顔でサフィが聞いてくる。

 本当サフィって心配性だなぁ。大丈夫、ミシンじゃないから怪我したとしてもそこまで酷いことにはならないわよ。


 さて、前世の記憶を思い出そう。えーっと、確か家庭科の授業でやったような。調理実習はグループ活動だから私は味見役になっていたけど、裁縫は個人作業だからちゃんとやっていた。やらざるを得なかった?さすがに友人も先生も止めなかった。

 そう、巾着巾着。確か、端と紐を通すところを縫って、裏返していたっけ。


 布を裏面にして、2つに折る。…手をどかすとずれるなぁ。あ!そういえば、前世の記憶的に、針で止めていたような。なんて言うんだっけ…そうそう、仮止め!


「あの奥様が、仮止めを知っている…!?」


 後ろでサフィが何か言っているけど、気にしないでおこう。


 仮止めをしたら、次は何するんだっけなぁ。…あ!縫うところの線をひいてた気がする!

 裁縫道具の中からチャコペンを取り出し、定規を使って線を引く。何やらサフィが驚いた顔していたけど、気にしな気にしない。

 線も弾いたし、いよいよ縫うか!


「あれ、通らない…」


 針に糸通すのこんなに難しかったっけ!?全然通らない!あ、そういえば、前世もちっとも糸が通らなくて、友人に通してもらっていたんだった…。


「お貸しください」


 何度試しても通らないで苦戦していると、サフィが助け舟を出してくれた。サフィに針と糸を渡すと、いとも簡単に通した。…サフィ、あなた器用過ぎない?


「ありがとう」


 よーし、縫っていくぞー。

 玉結びをして、針を通す。えーっと縫い方は…だめだ、半返し縫いしか思い出せない…。なぜに半返し縫い?もうちょっと簡単な縫い方あったような?まぁいいか。


 進んで半分戻って、進んで半分戻って、進んで半分戻って。


「…よし」


 進んで半分戻ってを何回か繰り返し、一辺縫い終わった。うん、我ながら結構上手なのでは?線を引いたからまっすぐに縫えたし、感覚も割と揃ってる。久しぶりにしてはよくできたかな!


「あの、奥様が…!?」


「…サフィ、ちょくちょく失礼なこと言ってないかしら?」


「いえ、そのようなことは」


 嘘つけ。いや、本当に言ってない?…まぁいいか。よかったねサフィ!私が気にしない主人で!いやまぁ、実際言っててもサフィを解雇には絶対にしないけど。


 えーっと、縫い終わった後は…そうそう!玉結び!前世の記憶的に、こうやって、こう!


「玉結びまで…」


 やっぱりサフィって私のこと馬鹿にしてない?そんなに今までやらかした記憶はないんだけど…。まぁいいか~。


 糸を切って、一辺終了!よし、このまま後2辺と、紐を通すところを縫っちゃおう。


_____作業すること、数分。


「…疲れた」


 ついに全部縫い終わった。ふぅ、肩凝った…。


「後は裏返して紐を通すだけね」


 縫い終わった布を、裏返す。おぉ、なかなかいいんじゃないか?あとはこれに紐を通せば完成!…あれ


「紐ってどうやって通すのかしら?」


「まさかのそこですか奥様…」


 そういえば、前世でも紐通しはやらなかったなぁ。ひとつ紐が足りなくて、ちょうどその時端に座っていた私の手元に来なかったんだった。


「サフィ…」


「貸してください」


 サフィに巾着と選んでおいた白い紐を渡す。するとソフィはすぐに巾着に紐を通し、2重に巻き、端を結んだ。

 ほうほう、そうするのね。よし、また1つ学べた!次からはできるはず。


「どうですか?」


「完璧よ。ありがとうサフィ。…完成!」


 白い花柄の小さな巾着が完成した。

 うん、前世ぶりに作ったけど、上手くできたんじゃないかな!さすが私、やったことあったらちゃんとできた。糸と紐は通せなかったけど。


「奥様、すごいですね…」


「ふふ、ありがとう」


 やったぁ、サフィに褒められた!


 よーし、このままじゃんじゃん作っちゃおう!


「次はクッションカバーね!」


「くれぐれも、怪我には気を付けてくださいね」


「わかっているわ」


 もう、本当に心配性なんだから。巾着作る時大丈夫だったんだから安心してほしい。


 さて、どのサイズのクッションカバーにしようかな。まずは私の部屋のクッションがいいよね。さすがにクッションカバーは作ったことないし。


 よし、ソファの上に置いてあるクッションのカバーにしよう!


「あれにしよう。生地はどうしようかしら」


「ソファが白なので、薄い色なんてどうですか?」


「それいいわね!」


 ナイスアイディア!サフィ!

 じゃあ、この薄水色の綿っぽい生地にしよう。


「奥様、その生地にするなら刺繍を施してみてはいかがです?」


 サフィがそう提案してくる。

 刺繍ねぇ、うん、それもいいかも?だけど…


「私、刺繍あまりやったことないわよ?」


 前世は刺繍なんて全くと言っていいほど縁がなかった。だって授業でやらなかったから。今世は淑女の嗜みとしてやり方を教わって3回くらいやっただけにすぎない。…よく今世暇にならずに過ごしていたね?


「では、作れる範囲で作ってみてはいかがですか?」


 作れる範囲、かぁ。うーん、それなら端の方に刺繍してみようかな?


「わかったわ」


 柄はどうしよう。普通だと簡単な刺繍ならイニシャルとかなんだろうけど、なんかそれも嫌だなぁ…。あ!そうだ!


「ユースエン公爵家の家紋にしようかしら」


 家紋なら、見るたび立派な公爵夫人修行のモチベに繋がるかも。そういえば前世の友人が、モチベがないとこんな部活やってられない!て言っていたっけ。モチベ大事。

 それにユースエン公爵家の家紋オシャレなのよねぇ。うちの実家の家紋、どことなくモブ感漂っていたのに…。あ、それは私もか。


「え、家紋は難しいのでは…?」


「何事も挑戦が大事よ!」


「さっきと言っていることが違うような…?」


 サフィが何か呟いているけど、気にしない気にしない。何事も挑戦大事よね!それにやり方はわかっているし!


 刺繍の糸は何色にしようかなー。やっぱソファが白だから白系がいいよね。濃い糸だと目立ってしまう。下手なのがバレる。


「銀にしようかしら」


「いいと思いますよ」


 サフィも同意してくれたし、銀糸にしよう!下手でも銀効果で上品な感じになるかも。


 サフィに糸を通してもらい、布に針を通した。えーっと、家紋は確か…


「…奥様、こちらが家紋です」


 家紋を思い出せずにいると、勘の良いサフィが家紋の入ったハンカチを引き出しから出してくれた。

 …公爵夫人なのに家紋覚えてないのはこの際置いておこう。


「ありがとう!」


 よーし、刺繍するわよ!


____刺繍をすること1時間。


「で、できたわ…」


 なんとか刺繍が完成した。薄水色の生地の端のほうにひっそりと輝くユースエン公爵家の家紋。

 銀の糸を選んで正解だった。上品な感じに見える。それに4回目にしてはわりと上手くいったんじゃないかな?


「お上手ですよ…!」


 サフィがいつもより興奮しながら褒めてくれる。やったぁ、嬉しい。


「ありがとう。…さて、ここからね」


 最後の作業。クッションカバーの形に縫う。思った以上に気力と体力を刺繍に取られたなぁ。家紋、細かくて難しかった…。誰よ、挑戦大事とかいって家紋にしたの。私か。


「休憩しますか?」


「うーん、やってしまおうかな。作り終わった後に休憩にするわ」


「かしこまりました。終了したらマッサージもいたしますね」


「ありがとう、よろしくね」


 サフィのマッサージ、気持ちよくて好きなのよね。よし、もう一仕事やりますか!


 案の定針に糸が通らなかったのでサフィに通してもらう。仮止めも線引きもして、縫うだけにする。


 よし、やるわよ!これも立派な公爵夫人になるため!


______進んで半分戻って進んで半分戻ってを繰り返すこと数十分。


「お、終わった…」


 ついに、クッションカバーを作り終わった。長かったぁ…。

 そして結構綺麗にできてよかった!さすが私、クッションカバーは作ったことなくても、裁縫のやり方を知っていたらちゃんとできた!


「お疲れ様です、奥様」


 サフィがそう言い、ソファーに置いてあったクッションを持ってきてくれる。


「ありがとう。後は入れるだけね」


 サフィと協力してクッションカバーにクッションを入れる。…入れ方を知らなかったのは置いといて。最後にこの布を中に入れて…と。


「完成!」


 クッションカバーはクッションにぴったり合った。良い感じの場所に刺繍も見える。我ながら、クッションカバーは初めて作ったけど、なかなか良いんじゃないかな!


「すごいですね…まさか奥様に裁縫の才能があったなんて…!」


「これ、才能なのかしら?」


「才能ですよ!刺繍も巾着もこれもとてもお上手です!いつもあんな感じなのに…」


 うん、最後の言葉は聞かなかったことにしよう。というか、いつもそんなにやばいの…?確か、掃除、料理、庭の手入れ、ダンス、洗濯くらいしかやってないよね?そんなにやらかしていないと思うんだけどなぁ。やったことがないことばかりだから、最初に失敗するだけで。


「ありがとう。…少しは立派な公爵夫人になれたかしら?」


「はい!」


 私の疑問にサフィが笑顔で答える。うんうん、それはやったね!…ただ


「でも針を何回か指に刺してしまったわ」


「…奥様!?」


 誰よ、手縫いなら大丈夫って言ったの。…私か。

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