第8話 舞踏会!

 あれから1週間。ソルディエによる地獄のダンスレッスンを乗り切った私はただいま馬車の中です。ルイド様と二人っきりで。非常に気まずい。

 はい、今日は舞踏会当日。もうね、気が重い。重すぎる。ここで粗相をしたら即離縁…。


 あ、そうだ。今世の友人も作らないといけないんだった。友人0だもんね。さすがにまずい。そういえば、前世の友人ってどうやって仲良くなったっけ?仲良くなるきっかけって意外に覚えてないなぁ。え、これ前世の知識使っても友人作れない可能性あり…?そもそも交友関係の知識なくない…?まぁ、何とかなるでしょう。高校の入学式あたりのクラスの雰囲気を思い出せ…。そうそう、どこ出身?とかその文房具可愛いとかみんな言ってたような。となるとこの場合は、そのドレスとアクセサリーとても良いですね、で決まり!


「くれぐれも恥をかかせるなよ」


 あ、交友関係のことに気を取られすぎてすっかりルイド様のこと忘れてた。これでは立派な公爵夫人になれない。次からは気を付けなくては。


「即離縁にならないように頑張ります」


「なんでそうなった…まぁいい」


 はい、粗相しないように頑張ります。


 お城に着き、馬車が止まる。そして馬車のドアが開き、ルイド様が颯爽と降りる。


「ほら」


「え…?あ」


 そうだ、ここからエスコートが始まるんだった。久しぶりですね、結婚式以来じゃないですか。

 ルイド様の手を取り、ゆっくり馬車から降りる。久しぶりにルイド様に触れたなぁ。意外に手、温かいんですね。そういえば、前世の友人が、手が冷たいのは心が温かい証拠~!て言ってたなぁ。ということは、ルイド様の心は冷たい…!?


 ルイド様のエスコートのもと、会場である大広間に入る。

 うわぁ、皆さんの視線が痛い…それはそうか、いきなりノーマークだった私が令嬢方の狙いの的だったルイド様と結婚したもんね。そこに私の意思はないけど。ないけどね!


 あ、視線痛いなぁとは思ってるけど、ちゃんと笑顔を作って優雅に歩いてるよ!これらの所作は結婚式に必要だったから結婚する前に叩き込まれた。あの時も地獄だったなぁ。


「陛下、王妃様、此度はご招待いただきありがとうございます」


「ありがとうございます」


 陛下と王妃様の前に行き、ご挨拶をする。ここらへんの所作もばっちり。だってあの地獄を乗り切ったんだから。


「楽しんでいってくれよな」


「はい」


 うわお、めちゃくちゃ良い笑顔で言い切ったなルイド様。絶対楽しむ気ないでしょう。


 国王夫妻への挨拶を終え、いよいよダンスのお時間がやってきました。緊張で吐きそう。吐かないけど。そうなったら粗相即離縁だし。


「次の音楽から踊る」


「はい」


 それなら次の音楽になるまでに気持ちを落ち着けよう…て、音楽終わった…はやくない?もう少し流してもいいんだよ?


 ルイド様に連れられて中央付近に行き、向き合って組む。音楽が鳴り始め、ゆっくりとステップを踏む。ほっ、ゆっくりな曲で助かったー。笑顔を崩さず姿勢も崩さず変に力まず…と。


 そういえばルイド様の顔をこんなに間近で見たの初めてだなぁ。結婚式の日もこんなに近くなかったし。近くで見れば見るほど顔綺麗だなぁ。無駄がない。イケメンとよばれるパーツをイケメンとよばれる比率で配置してある。圧倒的美。それなのにどこか人間らしい。本当に私が妻で良かったんだろうか。


 それにしてもキラッキラの笑顔ですね!結婚式以来ですよこんなキラッキラの笑顔見たの。そのくせに瞳の奥にめんどくさいの感情が見て取れる。めんどくさいよね!そうだよね!私もめんどくさい!まぁこの笑顔も周りから仲睦まじく思われるためなんだろうけど。


 曲が終わり、ルイド様に連れられて端に行く。

 ふぅ、終わった…。なんとかステップ間違えずにすんだ。あ、もちろん足は踏まなかったよ。これは粗相なしなのでは?


「後は自由にしていい。ただし、粗相はするな」


「はい」


 何も言われなかったってことはダンスは上手くいったんですね、やったぁ。


 ルイド様はそう言った後、どこかに行ってしまわれた。ユースエン公爵としてのお喋りと言う名の情報収集かな?というか、ダンス終わって即行で妻から離れたらさっきまでの笑顔が水の泡になりそうな気もするんだけど。まぁいいか。


 さて、この後どうしよう。さすがに公爵夫人が壁の花になるのは体裁的に良くないよね。壁の花では立派な公爵夫人になれないし。それに友人を作らないと。えぇ、でもこの痛い視線の中話しかけに行く勇気はないなぁ…。というか、皆さん私のことは気にせず踊りに行ってくださいな。あぁ、そこの令嬢、そんなに睨まないで。


「…どうしよう」


 とりあえず、飲み物を飲もうかな。緊張とダンスで喉乾いたし。


 飲み物が用意してあるところに行き、オレンジジュースをいただく。この国では18歳から成人だからシャンパンでも良かったけど、前世の感覚でね、躊躇ったよね。それにアルコールでやらかしたくないし。


「ふぅ…」


 オレンジジュースが染みるわぁ。


 さて、どうしましょ。友人探しと言っても、私が知っている方って王太子殿下の婚約者のマリーナル・シャルム様くらいなんだよなぁ。ちなみにマリーナル様はシャルム公爵の長女。ゲームでは悪役令嬢ポジション。ほとんど社交なんて行ってなかったから他の方は全然知らない。さすがにマリーナル様とかルイド様とか絶対覚えておかないといけない高貴な方は覚えざるを得なかった。だって知らなくて粗相をしたら我が家消されるかもしれないし。


 ちなみに、なんでヒロインのアリリスさんを知っているかというと、単純にインパクトが強かった。たまたま行かざるを得なかったパーティーにアリリスさんもなぜか来ていて、まぁ色々やってたからね。あぁ、なんで平民なのに来れたんだろうって思ってたけど、あれもゲーム補正だったのかぁ。すごいねゲーム補正。


「お初にお目にかかりますユースエン公爵夫人」


 色々なことを考えながらぼーっと舞踏会の様子を眺めていると、不意に横から声がかけられた。

 横に居たのは3人の令嬢。マリーナル様じゃないね…となると誰だろう?


「ごきげんよう…」


「ご機嫌麗しゅう公爵夫人。すみませんがお名前を教えてくださいます?わたくし、貴女のことを全く存じ上げませんので」


 もう一人隣にいた令嬢がそう言ってくる。

 あー、そういえば私ほとんど社交行ってなかったからなぁ。あれでもルイド様と結婚した時に名前は知れ渡ったと思っていたんだけど。…あ、これまさか馬鹿にされてる系?それなら名乗らない方がいいかも?


「名乗ってくださらないのね。まぁいいわ。夫人にひとつ言いたいのだけど、よろしいですか?」


「えぇ、どうぞ?」


「はやくユースエン公爵様と離縁なさってくださいな。ユースエン公爵様は貴女に釣り合う方ではございません」


 そうですね。私も常々そう思います。でも、この結婚に私の意思は全くなかったからね!何度も言うけど、気づいたら結婚式当日だったからね!


 あぁ、これが乙女ゲームでよくある悪口かぁ!ヒロインではなくてまさかモブキャラの私が経験するとは。あ、ルイド様と結婚した時点でモブキャラ脱出…?


 ちなみに、女性は名前に敬称、男性は家名+爵位に敬称をつけるのが決まりだ。相手から許された場合、愛称や名前で呼べる。私がルイド様と呼んでいるのは、外面的に仲睦まじく見せるために結婚初日に名前呼びが許されたからです。一応私も形式的に敬称つけなくていいよっ的な事言ったけど、一回も名前呼んでもらったことないね。あれ、そもそもルイド様って私の名前知っているのかしら。


「社交にもほとんど出てなかった夫人がどうやってユースエン公爵様を落としたんでしょう?」


 3人目の令嬢がそう言う。

 いえ、私は何もしてませんって。たまたま行かざるを得なかったユースエン公爵家の舞踏会でいきなり妻にするって公言されただけなんですぅ。むしろ私が落とされたほう。策略的な意味で。恋愛的な意味では全くもってどちらも落ちてません!


「そこまでにしなさいな。はしたないですわよ?」


 私の後ろから、凛とした声が聞こえた。

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