第9話 悪役令嬢!

「そこまでにしなさいな。はしたないですわよ?」


 凛とした声が後ろの方から聞こえた。


「こ、これはマリーナル様…」


 令嬢のひとりが顔を青くしてそう呟く。

 え、マリーナル様?悪役令嬢の?私の後ろにいるの!?え、なにそれこわぁ。


「し、失礼いたします」


 3人の令嬢はそう言って離れて行った。ふぅ、助かった。


 後ろを振り向くと、ツリ目できつめの印象がある美女が立っていた。あぁ、ほんとだ、マリーナル様だ。というか、前世の記憶を思い出した今改めて見ると、確かに悪役顔だなぁ。そしてひとつ言いたい。マリーナル様、縦ロールはどうしたんですか…!?


「これはマリーナル様。ご機嫌麗しゅう」


「ごきげんよう、フィリア夫人」


 マリーナル様はシャルム公爵の長女で王太子殿下の婚約者だ。つまりは私より身分が上。

 これは対応を間違えると粗相即離縁ものだぞ…。


「助けていただきありがとうございます」


 とりあえずお礼だよね。令嬢方追い払ってくれたし。


「べ、別にフィリア夫人を助けようと思って声をかけたわけではないわ!ただ、はしたない令嬢方が目についたから注意しただけよ!」


 お、おう。これはまさかツンデレというやつなのでは!?こんなにあからさまなツンデレする人いるんだ!?すご、さすが乙女ゲーム。というか、悪役令嬢は実はツンデレだったってなにそれ、えぇ…。


「それでも助けていただいたことに変わりはありません」


「そこまで言うなら、その言葉受け取っておくわ!」


 はぁ~なにこのツンデレ可愛い。どことなく前世の友人を思い出す。前世の友人はツンデレから先生公認私の保護者にランクアップしたんだよね。なんでだろ。


 はっ。これは、友人ゲットのチャンスなのでは!?今こそ前世の知識を活かすべき!えーっと、確か馬車の中で話す言葉決めていたよね。そうそう、


「ありがとうございます。…ところでマリーナル様、今宵も素敵なドレスですね。よくお似合いですわ」


 これで決まり!


「へ!?あ、ありがとう。急に何よ、びっくりするわね」


 マリーナル様は顔を少し赤くしてそう言う。お?これは上手くいくのでは?


「髪形もいつもと違っていて、とても素敵ですわ」


「それ、今までの髪形貶していないかしら?」


 いやだって縦ロールはねぇ…て、違う違う。え、褒め言葉そう取るの!?まずいまずい。粗相即離縁の文字が頭をよぎる。


「いえ、そうではございませんわ。今宵の髪形は特にお似合いです、という意味です」


「そ、そう。…本当にこの髪型似合っているのかしら?」


 そう言ってマリーナル様は少しだけ不安そうな表情を浮かべる。

 ほうほう、つまりは今まで縦ロールだった髪形を思いっきり変えてみて不安真っ最中というところか。前世でもあったよね、髪を思いっきり切った次の日の学校がちょっと不安みたいなの!私はバッサリ切ったことなかったからわからないけど。


「はい。とてもお似合いです」


 ちなみに今日の悪役令嬢マリーナル様の髪形は、ゆるふわハーフアップだ。いや、これが本当に可愛いんですよ…。さすが美女…。

 あ、ちなみに私の髪形もゆるふわハーフアップです。おソロだね!


「それならよかったわ。…いや別にフィリア夫人に聞かなくてもわかっていたわよ!」


「そうですか」


 はいはい。ツンデレ可愛い。思わず顔がにやけちゃったじゃないの。


「フィリア夫人、その、えっと」


 マリーナル様がどもりながら何かを言おうとする。

 お、この反応はつまり、話したいけど自分から言えないツンデレあるあるなのでは!?前世の知識的にきっとそう!だって前世の友人もそうだったから。


「マリーナル様、お時間よろしければ私とお話しませんか?」


「いいわよ!…別にフィリア夫人から誘われなくても話すつもりだったけどね!」


「では、そういうことにしておきましょう」


 ここまで見事なツンデレだと可愛いという感情しか出てこない。というかまって、つまり私は今、友人ができたということ!?やったぁ。今世のぼっち回避。


「どうして髪形を変えてみたのですか?」


「わたくしももう20歳なので、大人っぽい髪形にしようかと思った次第よ。本当は18の時に変えようかと思ったんだけど、勇気がでなくて」


「あ~、そのお気持ちわかりますわ。最初は不安ですものね」


 というか、18から変えようと思ってたんですかマリーナル様。18ってゲームまだ始まってないよ…。ゲーム開始年は今年だ。まぁ、私がルイド様と結婚してしまったからシナリオ即行終わっちゃったんだけどね。本当何てことしてくれたんですかルイド様。


 あ、そっか、マリーナル様って私より2つ上だった。ということは、前世含め初めての年上友人!?今世友人いないけど!


「王太子殿下はその髪型をなんておっしゃっていたんですか?」


「そっちも似合っているんじゃない?て。もう、相変わらずツンデレなんだから」


 いえ、ツンデレは貴女です。そういえば、王太子殿下もなかなかにツンデレキャラだった…!そうそう、ツンデレ同士で気持ちが上手く伝わらず上手くいっていないって設定だったような。

 …でもさっきの感じだと上手くいってそうね?ヒロインがルイド様ルートにいったからかな。ルイド様ルートっていってもシナリオ終わっているけれど。ごめんアリリスさん。いや、まったくもって私は悪くないけどね!


「まぁ、そうなのですね」


 ツンデレとツンデレ、可愛いじゃない。見てみたいなぁ。


「フィリア夫人はどうなの?いきなりユースエン公爵殿と結婚して。お互い全く知らないはずよね?」


 おっと、ここで私の話ですか。いきなりぶっこんできますね!?なんて答えよう…。答え方によっては即離縁だよねぇ。


「そうですね。いきなりでしたから…。今は立派な公爵夫人になれるよう努めております」


 掃除とか料理とか庭の手入れとかダンスとか礼儀作法とか友人作りとか。あれ?私めっちゃ頑張ってね?前世含め今まで引きこもり生活だったのに。


「ちなみにどのようなことを?」


「掃除や料理などの家事と、ダンスや礼儀作法などの淑女のたしなみですわ」


「そ、そう。…何かちょっと違うのもあったけれど、まぁいいわ」


 何か違う…?あ、淑女の嗜みは当たり前であって立派な公爵夫人修行には入らないのか!これははしたないことを言ってしまった。あれ、これ粗相即離縁なのでは…?


「申し訳ございません。淑女の嗜みは関係なかったですね…」


「いやそっちじゃ…まぁいいわ…。ところで、ユースエン公爵殿とはうまくいっているのかしら?」


「えーっと…」


 さすがにお飾りの妻です!とは言えないよね。というか、言ったら即離縁よね。だけど、うまくいっていないわけではないんだよなぁ。うまくもいってないけど。良くも悪くも距離は全く変わっていないから。…あれ、これうまくいっていないに入るやつ?


「あぁ、まぁなんとなく察したわ。ユースエン公爵殿の性格と結婚の仕方でなんとなくわかっていたけれど」


「申し訳ございません」


「何でフィリア夫人が謝るのよ」


 だってねぇ…。あのユースエン公爵家だし。どうするんだろうね、ルイド様。


「まぁ、いいわ。今度お茶しましょう。色々相談に乗ってあげるわ」


「え、本当ですか、ありがとうございます!」


 つまり、マリーナル様も私を友人だと思ってくださったってことだよね!?やったぁ。嬉しい。


「べ、別にフィリア夫人を思ってのことじゃないんだからね!ただもっと話したいとわたくしが思っただけだから!」


 いやそれデレ…って、急にデレをぶっこんで来るね!?可愛い…!そしてすごく嬉しい。

 話したいと思ってくれたということは、少なからず私に良い印象を持ってくれたということだよね。よかったぁ…。失礼な人だと思われたら即離縁だからなぁ。


「あ、そうだわ。ひとつ褒めてあげる。さっきはしたない令嬢に名を尋ねられたじゃない?あれ、答えなくて正解よ」


「そうなんですね」


 さっきの令嬢方、マリーナル様にはしたない認定されてる…。うん、どんまい。というか、私もそう認定されないように気を付けないと。


「あれで名を答えていたら完全に見下されていたわ。というか、この会場にいる人皆フィリア夫人のことを見下したと思うわ」


 え、なにそれ怖い。よかったぁ、答えなくて。答えていたらそれこそ粗相即離縁だった…。まだ立派な公爵夫人になろうと決めて1週間しか経っていないのに離縁は勘弁。そしてやっぱり社交界こっわ。


 その後、しばらくマリーナル様と談笑していると、不意に後ろからすごく可愛い声が聞こえた。


「あらぁ!ここに居たのね、あたしのルイド様を奪った夫人!」

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