第6話 旦那様!
玄関の大きな扉が開いて、ルイド様が入ってくる。
「おかえりなさいませ」
挨拶をして、頭を下げる。
「…あぁ」
ルイド様はそれだけ言い、書斎の方に歩いて行った。
これが日常。といっても1週間しか経ってないけど。
それにしても相変わらずお顔がお美しい。スタイルも抜群すぎる。なにあれ、本当に同じ人間?圧倒的美を感じるんですが。さすが乙女ゲームの攻略対象。
ちなみに私が攻略していたのは王太子殿下です。選んだ理由?特にこの人!ていうキャラが見つからなかったから王道に走りました。てへっ。だから、前世の記憶を思い出したと言ってもルイド様のことは実は何もわからない。
「サフィ、怖いわよ?」
「だって~…」
後ろに控えているサフィから黒いオーラを感じる。落ち着いてサフィ。今日はいつもよりすこーしだけ機嫌よかったんだから。すこーしだけね、すこーしだけ。
「ダイニングに行きましょう。夕飯を食べないと」
「奥様…」
サフィを伴ってダイニングルームに入り、いつもの席につく。
しばらくすると、王宮の制服から着替えたルイド様が入ってきて、私の斜め横に座る。といっても距離は開いているが。
ルイド様が来たところで料理が運ばれてくる。いつも通り私には少な目だ。だって小食なんだもん。
私もルイド様も無言で運ばれてくる料理を食べる。これもいつものこと。後ろに控えているサフィから出る黒いオーラもいつものこと。
「あら…」
次に出てきた料理を見て思わず固まってしまった。え、これ今日の昼に作った塩肉じゃがだ。ルイド様に出していいのかなぁ。一応、料理人によってちゃんとしたものになっているとは思うけど。
「…なんだ?」
「いえ、何でもありません」
思わず出た声がルイド様に聞こえていたみたいで、ルイド様は冷めた目をしながらぶっきらぼうに聞いてきた。
そんな怖い目をしないでくださいな。後ろにいるサフィがさらに怖くなるから…。サフィ宥めるの私なんですよ?
塩肉じゃがを食べると、昼よりもさらに美味しくなっていた。さすがユースエン公爵家の料理人。腕がすごくいいわぁ。
ルイド様をちらっと見ると、いつも通りに食べていた。ふむ、どうやらお口には合ったのね。これは立派な公爵夫人になるために作るべき料理リストに追加ね!
「ごちそうさま」
全部の料理を食べ終わったルイド様が颯爽と立ってすぐに出て行った。相変わらず食べるの早いなぁ。よく噛まないと体に悪いよ?ちなみに私はのんびり食べてます。
「あんの野郎…」
「サフィ、聞こえているわよ。落ち着いて」
よくルイド様に野郎って言えるよなぁ。どう見ても圧倒的美なのに。野郎っぽくないのに。そして一応サフィの雇い主でしょう…。
「これは失礼しました…。奥様、本当にこのままでいいのですか?」
「別にいいわよ?気にしない気にしない」
前世の記憶を思い出した今、あの圧倒的顔面を拝めるだけで十分な気がしてきた。いやまぁ、思い出す前もこのままで構わないとは思っていたけど。うん、変わってないね!
ご飯を食べ終わり、自分の部屋に戻る。普通の貴族の家庭はこの後夫婦団らんの時を過ごすんだろうね。私とルイド様はまぁ、あんな感じだから。食後すぐ部屋に引きこもれる。やったぁ!
「本を読みますか?それとも先に湯浴みにしますか?」
「そうねぇ…今日はたくさん動いたから先に湯浴みにするわ」
「かしこまりました」
いつも夕飯のあとは本を読んでいる。ユースエン公爵領の本だ。いくらお飾りの妻といってもさすがに領地の基本情報くらい知っておかないとね。あぁ、でも立派な公爵夫人になるためにはもっと深いところまで学んだ方がいいのかなぁ。
あ、そういえば前世で読んだ知識チートのお話に経営もあった気がする。これは、前世の知識をフル活用するしかない。授業ほとんど寝てたけど大丈夫よね。ただ、領地経営のためにはまず領地の現状を知ることが大事!
湯浴みを終わらせて、椅子に座り本を広げる。
「お体を冷やさないようにしてくださいね」
「はーい」
膝にブランケットをかけて、上にはストールを羽織る。
よーし、読むぞー。
しばらく読むこと1時間。ちょっと疲れたなぁ。そして公爵領多すぎ。基本情報だけでも終わりが見えない。執事長が用意してくれた本、あと10冊はあるんじゃないかなぁ。ちなみに1週間経った今、2冊目を読んでいる。
「ふぅ…」
「お疲れですか?」
「少しね」
でもこれも立派な公爵夫人になるため、前世の知識をフル活用するためよ!しっかり読み込まないと。
再び気を入れなおして本を読みこむ。しばらくすると、執事長のフレデリクが入ってきた。
「失礼いたします」
「あら、フレデリク。どうしたの?」
「旦那様がお呼びです」
え、私何かやったかなぁ。何もやってないよね?うん、何もやってない。
「わかったわ。…サフィは黒いオーラをしまって?」
旦那様と言う言葉に敏感すぎよ…。まぁいいけど。私のためを思ってのことだし。たぶん。
フレデリクの後をついて、ルイド様が執務をこなしている書斎に行く。
そういえば、ルイド様の書斎に行くの初めてだわ。これが最後になるかもしれないからしっかりと目に焼き付けなくては。
「失礼します。奥様をお連れしました」
「…入れ」
「失礼します」
一礼をして入る。
書斎は壁についている本棚にはびっしり本が入っていて、壁一面本だ。机の上にはたくさんの書類が置いてある。ほうほう、こうなっているのか。そしてやっぱりお忙しいんだなぁ…。体壊さないようにしてくださいね!
「これ」
ルイド様が短い一言とともに一通の封筒を渡してきた。その封筒を受け取り封蝋を確認すると、王家の紋様が入っていた。え、王家?あ!まさか…。
「…離縁ですか?」
「なんでそうなる…」
やっぱり引きこもりの私に公爵夫人は務まらないと判断されたんだろうか。えぇ、せっかく立派な公爵夫人になろうと決意したばかりなのに。
「王家主催の舞踏会だ」
「え…」
なぬ…!?舞踏会!?てことは、社交…。
「王家主催だけは行け」
なるほど、そういうことかぁ。他の貴族邸で開かれる舞踏会やパーティー、お茶会は行かなくていいが、王家主催は行かないと行けないのかぁ。まぁ、王家主催だもんね。体裁的に行かないといけないもんね。え、ということはルイド様にエスコートしてもらい1曲踊ってもらわないといけないのか…。粗相がないようにしないと。
舞踏会はまず1曲目に夫婦もしくは兄弟もしくは婚約者と踊る決まりがある。誰が決めたのそんな決まり…。
とにかく、立派な公爵夫人修行はひとまず置いといて、明日からダンスの練習をしよう…。
「わかりました…」
「用件はそれだけだ。くれぐれも私に恥をかかせるなよ」
「気を付けます…」
つまり笑顔を絶やさず完璧なダンスをしろってことですね。わかりましたガンバリマス。
というか、ダンスに完璧なんてないよなぁ。何事も奥が深い。何事も突き詰めてもゴールは見えないって前世の友人が言ってた。
部屋に戻り、手紙の封を切って読む。それはやはり王家主催舞踏会の招待状に間違いなかった。
「はぁ…」
「奥様、お気を確かに…。お気持ちはわかりますけど」
「粗相をしたら即離縁かしら?」
さっきも恥をかかせるなって言っていたし。
「それはないと思いますが…もしそうなっても私は奥様についていきます」
「ふふ、ありがとう」
いやぁ、良い専属侍女を持てて私は幸せです。これもルイド様に感謝だね!サフィはルイド様嫌っているけど!
きっと社交も立派な公爵夫人に必要なことだよね。サフィの職場を奪わないためにも、絶対粗相なくやってやるわ!
ついでに前世の交友の知識を使って友人を増やそう!さすがに友人0はまずいよね、公爵夫人的に。
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