第3話 掃除!
「あ、あの、奥様。…これは?」
「雑巾よ!」
「いや、それはわかっていますが…」
私の隣でサフィがおろおろしながら尋ねる。やっぱりいきなり行動すると変な人に思われてしまうわね…。まぁいいか。これも立派な公爵夫人になるため。
私の手には雑巾が握られている。近くには水の入った桶。掃除するにあたり、私の前世の記憶には学校で雑巾がけをしている生徒の光景が思い浮かんだ。ちなみに私はやったことがない。先生から止められていたのだ。友人にも。
「確か濡らして絞っていたわね…」
そうそう、確か雑巾で床を拭く前に水に濡らしてねじっていたっけ。そうと決まれば早速濡らそう。
私は思いっきり雑巾を桶の中に入れる。水しぶきが周りに飛んだ。
「お、奥様…!?」
ふむ、これは静かに入れるのがいいらしい。次からはそうしよう。
さて、どうやって絞るんだろうか…確か皆ねじっていたような。
試しに雑巾をくるくるねじってみる。雑巾から水が絞り出され、見事に床に飛び散った。なるほど、この作業は桶の上でやらないといけないのね。
「奥様…それで拭くのですか…?」
「そうよ。それがどうかしたの?」
「それで拭かれると床が水浸しになります…。ちょっとお貸しください」
いまだに水がポタポタ零れ落ちる雑巾をサフィに渡す。サフィは手首を使って力いっぱい絞り上げた。なるほど、そうするのか!次からはそうしよう。
「どうぞ。…あの奥様、本当にこれで拭くのですか?」
「ええ、そのつもりよ」
サフィが何やら頭を抱える。ごめんよサフィ、これも立派な公爵夫人になるためなんだ。
雑巾を広げ、手を置く。えーっと、確か皆は手を置いたまま腰を浮かして走っていたよね?
とてとてとてコテッ…とてとてとてコテッ…とてとてとてコテッ…
「意外に難しい…」
うまくバランスが取れない。これはこんなに難しかったのか。みんな意外にすごかったんだなぁ。
「奥様、その方法ではお怪我をしてしまいます。手をジグザグに動かし、少しずつ前に行くやり方にしてください…」
「わかったわ。…こう?」
「そう、そうです」
サフィに言われた通り、手をジグザグに動かし少しずつ前に行く。
おぉ、これなら倒れることもなく一回で広い範囲を拭ける…!ありがとうサフィ!
「…て、奥様。これは我々使用人の仕事ですので奥様はしなくていいんですよ」
「でも、立派な公爵夫人になるためには…」
「他にあると思います」
使用人の仕事を取るわけにはいかないよね。んー、次は何があるかなぁ…あ!そうだ!
「では、次は窓ふきね!」
「なんでそうなるんですか…」
そういえば、前世では大掃除の時に窓を拭く生徒たちがいたっけ。私はやったことないけど。先生と友人にとめられたから。
私は雑巾を桶に入れて立ち上がる。さあ、窓ふきにレッツゴー!
「奥様、それで窓を拭くんですか…。せめて別の雑巾にしましょう」
「確かにそう言われてみればそうね!」
床を拭いた雑巾だもん、汚れているよね。でも前世の記憶的にはこういう雑巾で拭いて次に新聞紙で拭いていたような。雑巾結構汚れていたよね?今思うとあれでいいのかなぁ。
新しい雑巾を用意してもらい、すぐ近くにあった窓に行く。
今度は静かに雑巾を桶の中に入れた。私は学習するのです。雑巾を桶から取り、さっきサフィがやってくれたように手首を使いねじる。もちろん桶の上で。さっきよりも勢いよく水が滴り落ちる。勢いよく水が滴り落ちたせいで水が周りに跳ねた。うーん、難しいなぁ。
「奥様、もう少し絞りましょう…それでは窓も水浸しです」
「わかったわ」
手に力を入れてひねる…が水は落ちてこない。あれ?
「貸してください」
サフィに雑巾を渡す。そしてサフィはさっきやったみたいに思いっきり絞った。水がポタポタ落ちる。なるほど、私にはそこまで力がないのか…。
「どうぞ。…本当に窓ふきをするのですか?」
「もちろんよ」
私は雑巾を持って立ち上がり、近くにあった脚立を広げようとする。
うーん、どうやって広げるんだろう?前世の記憶的にはこう、バッと広げていたんだけど…。
「奥様、それは危ないので下の方を拭いてください…」
「下の方ね!わかったわ」
下の方なら脚立を使わなくていいしね!サフィ天才。
私はしゃがみ込むと、窓に雑巾を当てる。どうやって拭いてたっけ?まぁ、さっきみたいにジグザグに拭けばいいか。
しばらく拭くと、水が窓に残る。ありゃ、こんなことになるのか。…あ!わかった!このための新聞紙だったのね。
「サフィ、要らない紙あるかしら?」
「こちらでよろしければ…何をなさるのです?」
「紙で拭けば綺麗に水気がとれるの!」
サフィがポケットから取り出した紙を受け取り、さっき拭いたところと同じところを拭く。水気が気持ちいいくらいに取れた。
「すごいです…!」
サフィが感嘆の声をあげる。これよこれ、この反応が見たかった!
「…て、奥様。窓ふきも私たち使用人の仕事です」
「そうなの。うーん…」
使用人の仕事を奪ってはいけないよね…次は何かないかなぁ。あ、そうだ。
「じゃあ次は床を掃くわ!」
「奥様ぁ…」
サフィがうなだれる。これも立派な公爵夫人になるためだ、ごめんねサフィ。
ほうきを用意してもらい、手に持つ。えーっと、前世の記憶的には左右に振っていたような。ちなみにほうきも持たせてもらったことはない。先生と友人に止められていた。
「奥様、それじゃあゴミが左右に散らばるだけです…方向を1つに決めてください」
「そう言われてみればそうね。…こう?」
サフィに言われた通り、右の方向にゴミが来るように掃く。なるほど、こうするのか。これでまた1つ学べたわ!
「そうです。…あと、できるだけ間隔を狭めてください」
「こう?」
「そうです」
サフィに言われた通り、次掃く場所との間隔を狭める。なるほどなるほど。
しかし、ゴミがひとつも落ちていないんですがそれは。
「…て、奥様。これも使用人の仕事です。それにほうきで掃いてから雑巾で床を拭くんですよ」
「そうなのね!わかったわ」
そういえば、みんなも先にほうきで掃いていたような。順番を間違えていたのかぁ。
それにこれも使用人の仕事…奪うわけにはいかないよね。
「次は…うーん」
「奥様、掃除はこれくらいにし…」
「次ははたき!」
前世の記憶的に、はたきで置物とかをパタパタしてたような。もちろん私はやったことないけど。友人、先生に止められていたから。
「…奥様、はたきは色々危ないのでやめてください。それにそれも使用人の仕事です。あと、雑巾で床を拭く前にする作業です…」
「そうなのね!…あ、ではカトラリーを拭こうかな!」
「なんでそうなるんですかぁ…」
食器が置いてあるところに行き、カトラリーと拭く布を用意する。
「あ、しまった…」
前世の記憶的に、カトラリーを拭いている所は見たことない…これは困った。
「奥様?」
「これはやり方わからないわ…」
「これはこうするんですよ」
私が落ち込んでいると、サフィがカトラリーを拭いて見本を見せてくれる。
ほうほう、そうするのか!
「ありがとうサフィ!」
「いえいえ」
ソフィを真似してカトラリーを拭く。
「て、奥様。これも使用人の仕事です…」
「あら、そうなのね」
うーん、次は何をしようかなぁ。
「もうそろそろお昼ご飯にしましょうか」
「それだわ!」
掃除じゃなくても、やることはあるじゃない!そう!
「お料理よ!」
「奥様ぁ…」
私は勢いよく立ち上がり、厨房に向かって歩いた。
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