番外編 ダイキの家3 礼儀

兄は迷うことなく、C-4爆弾をテラスからのギルドの入口の壁にガチャッと設置した。ギルドの中の戦闘であれば受付嬢に助けてもらえたはずだが、これでは入った瞬間にボン!だ。


それにしても最悪だ。こんな時に兄に遭うなんて。俺たち2人は揃って戦闘系の近距離職。剣術や盾術、自動回復速度強化、武器強化や挑発などの騎士っぽいスキルしか持っていなかった。


「タカマツ、大丈夫か?」

『ガホー』


タカマツのダメージが深刻だ。回復アイテムはこれから買う予定だったので、残念ながら薬草しかない。


「タカマツ、薬草食べてくれ」


アイテムボックスから束になった大量の薬草を取り出して、タカマツの口に押し込む。


『モシャモシャ。薬草、鉄の味がする』

「それ血の味だよ多分」


薬草の回復効果は低い。だが大量に食べ続けることで、傷は少しずつ回復しているようだった。


モシャマツを横目に、俺は兄に尋ねる。


「何しにきたんだよ」

『お前らに天罰を下しにきたんだ。ルールを守れないお前も、それを助けるお前もボンだ』

「ふざけるな。お前、早く働けよ」

『その2つは別の問題』

「はい?引きこもりのく…」

『あ?まさか引きこもりには発言権がないとでも言うんじゃないだろうな?そしたらお前は、全国の引きこもりに謝ることになる。俺がネットで集めた200人の引きこもり仲間のグルで謝罪してもらおう』

「く!」


『全く、とんだお天道様だモシャ』

「モシャマツ!?大丈夫?」


タカマツが立ち上がった。


『ギリギリね。けどちゃんとした回復アイテムが欲しい。探しながら逃げて撒くしかない』

「おっけ」


『さあさあ、お前らの旅はここで終わりだ。良い子はおうちに帰って微分でもしてな』


兄が大量の弾丸を装着した大きな銃火器、ミニガンを構えた。しかも強そうな牙や角で装飾されている。あんなもので撃たれたら、俺たちはお陀仏だ。


『終わりだ』


その刹那、タカマツの口から信じられない言葉を聞いた。『〈挑発〉』である。タカマツは絶体絶命にも関わらず、ナイト系スキル、敵の注意を引く挑発を唱えたのだ。何をやってんだタカマツ、俺たちのレベルでは兄の攻撃は防げない!薬草を食べ過ぎておかしくなってしまったのか!?


ありがとうモシャマツ!君の死は無駄にしない!



ガガガガガガガガガ!



大量の弾丸が線を描いて飛んでくる。数発の弾丸が俺を貫いた。終わりだと思ったその時、大量の弾丸は、俺たちの上にそれた。


「え?」


兄のミニガンが僅かに上を向いている。


『あ?』


兄も呆然としていた。


『ほら、早く逃げるよ』


薬草まみれの右手で、戸惑っている俺を無理やり引っ張った。





町の入り組んだ路地裏を使って急いでその場から離れると、その場で兄が来てないのを確認してタカマツに尋ねた。


「さっきのどういう事」


口からたくさんの薬草がはみ出ているタカマツに、撃たれた腹部を抑えながらも尋ねた。


『ん』


タカマツは俺に薬草の束を差し向けた。食べろってことだろうか?とりあえず俺は束を受け取って、モシャモシャと食べることにした。


『簡単に言う。盾にシールド魔法を付与する感覚で、挑発魔法を自分じゃなくて物にかけてみたらできた』

「何だって!そんなことできるの!?」


『できた。初見だから賭けだったけど』

「でも、何にかけたの?盾とかは持ってなかったような…」


自分でそう言って、ハッとした。まさかモシャマツは


『薬草の小さな切れっ端に挑発魔法をかけて、付け焼き刃の風魔法で飛ばした』


なるほど!それに薬草の欠片なら軽いから、初心者でも薬草を飛ばすくらいなら安易かもしれない。すごいやタカマツ!


「今日からモシャマツ師匠と呼びたい」

『ダメモシャ。とにかく、これを上手く使えば撒ける。あとは戦闘状態が解けたらセーフゾーンに逃げるだけ』

「戦闘状態が解けるとは?」


『え、知らないの?初心者でも知ってるでしょ』

「知らないって言ってるでちょ!」


うわ、俺キレた。今度シラスでも食べよう。


『攻撃したりされたりすると、そのプレイヤーのステータスが戦闘状態に入るんだよ。一定時間経てば解除されるけど、戦闘状態だとギルドとか町とか出入りできない建物が出てくるんだ』

「マジか。知らなかった」



その時、コツ、コツ、コツ、と曲がり角の薄暗い路地裏から足音が響いてきた。



『随分と、長話だったなぁ?そんなことも知らないとは、兄は悲しいぞ。ダイキよ』


追いついてきたのか。


「余計なお節介だよ!初心者なんだから知らなくてもしょうがないだろ!害悪プレイヤーが!」

『ダイキの兄さん。アンタは知ってたのか?なら何でギルドでC-4爆弾を設置した?』


兄は目を細めて、フッと失笑した。


『ダイキよ、お前の友達に論破される日がくるとは』


何だ知らなかったのか。


『さっきは何故か狙いが外れてしまったが、今度こそ確実に当ててやる』


まさか、モシャマツの挑発魔法には気付いていない?それならば、今回も同じように逃げればいい!


『すまんダイキ、薬草全部食べちゃった。もうない?』

「え!あれで全部だよ。逃げる用の薬草残してなかったの?」

『勘弁して』


勘弁してはこっちのセリフだ!俺たちはここで終わりなのか。死んで諸々のペナルティと共に、1週間ログインできなくなる運命なのか?1週間もログインできなかったら、俺たちはもう勉強やるしかないじゃないか!あれ?ちょっといいな。


その時、後ろから声がした。


『お食べ』


優しいお婆さんの声だ。両手には、薬草を持っている。そして背中の矢筒にも大量の薬草が入っている。


『あ、ありがとうございます』

「ありがとう…」


俺たちと兄の間に婆さんが割って入った。さすがの兄も、優しそうなお婆さんは撃ちにくいようで、チッチッと舌打ちをしながらその場で待ってくれている。


「一体何者?」

『わたしはね、ワールドゲームやくそう協会っていうコミュニティのね、リーダーなの。あ、Discoordやってるから、是非フレンド追加してねぇ…アンタたちはわたしたちの恩人だよ』

『どういうことですか?』

『わたしたちは、ワールドゲームで薬草を栽培してね、販売してるのよ。だけど需要が低いから中々売れなくてねぇ。そんな時、アンタを見つけたのさ』


お婆さんは、タカマツを指差す。


『あの、指差すのやめてください』

『あ、すみません』


タカマツは礼儀を重んじてるからなぁ。


『あれ程ファンキーな薬草使い、見たことがない。アンタがやくそう協会のコミュニティに入ってくれれば、きっとわたしたちはもっと輝けるのよ。財布が』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る