番外編 ダイキの家2 土曜日
『あら、いらっしゃい』
マンションの三階の玄関が開かれ、タカマツの親が出迎えてくれた。
「お邪魔します!」
元気な挨拶とお辞儀をしてから、リビングまでの廊下の途中にあるタカマツの部屋へと入った。
「よータカマツ。ワールドゲームやりにきた」
水筒とVRゴーグルとトランプだけが入った軽いリュックを、部屋の角のベッドに立て掛けるように放る。
視線は合わせずノートパソコンを見たまま、タカマツは俺の入室に気がつく。
『ああ。ライーンでお前が言ってた通り、今日は隠密系の装備集めやるか』
勉強机の椅子に座っているタカマツはカチッカチッとワールドゲームのwikiを見ながらそう答えた。
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〜 始まりの町 サーバー003 〜
『それにしても、本当にここまで警戒する必要あるの?サーバーだって違うかもしれないだろ』
ワールドゲームは人数が増えてくると断続的に新しいサーバーが作られ、新規プレイヤーはそこから始めることになる。そして一定のレベルに達するまで、サーバー間の移動はできない仕様だ。
PTAの副リーダーとはいえ、まだ親も一定のレベルには達していないだろう。だが、
「俺の家同時に買ったから、親も始めたタイミングなんだよ。だから、同じ第三サーバーにいるんだ。妹だけは早かったけどな」
『勘弁』
それでも、始まりの町だけでも某映画の何処ぞの天空の城ですかっていうくらい広い。いや、もっとかも。その何倍も広いかもしれない。
「それじゃ早速お金稼ぎに…どこ行く?」
親にアカウントバレて不安でテンションが下がってたが、ワールドゲームに来たら薄れてきた。ワールドゲーム最高。
『始まりの町付近で比較的安全な狩場って言ったら、やっぱ始まりの渓谷か、始まりの山くらいじゃない?』
「だよなー。よし、始まりの山行こう!」
『おっけ。でもマジで死なないように。一週間ログイン不可になるクソシステムだから』
「わかってるって」
ほんとクソ仕様。
お馴染みの木造建築のギルドでいくつかクエストを受注する。そしていつものように、出発前にギルドのカフェのテラスで、お洒落にも軽食をとる事にした。
このゲームの食事は「娯楽」。だってお腹は満たされないんだもの。味はするけど。
白い長方形テーブルに茶色の椅子が並び、傘みたいなやつが設置されたよくあるテラス席だった。パラソルで影のできた涼しそうな席に、サンドイッチが佇むトレイを持って座る。俺たちはサンドイッチが大好きなのだ。
『うわ。俺が暑い方かよ』
俺の反対側の席にはパラソルの日陰がなかったので、タカマツは愚痴る。それから左手のトレイがテーブルに置かれると、タカマツの右手の中にいくつかの長方形の白い光の輪郭が表示され、シュイーーーンと小型のハンドガンが現れた。
あれは、序盤ですぐ入手可能な雑魚の中の雑魚魔法銃だ。この銃は魔力変換効率が悪すぎて、ある程度レベルが上がった相手には当ててもダメージすら通らない。そのため、みんな遊びで使うようになった銃なのだ。
『付与魔法、〈ペイント弾・ブルー〉。今日もこれで勝った方が涼しい席使おうよ』
急に撃ち合い??そんなもの、もちろん・・・
「やろう!〈ペイント弾・オレンジ〉!」
これはもはや、俺たちの日課だった。
互いの弾丸の色が、魔法によって変化する。…◯◯◯トゥーンとか◯◯BGとか、世界中の他のゲーム業界が衰退している理由は、ワールドゲームの技術がずば抜けていて、フルダイブのリアルなVR空間で何でも出来てしまうせいだと、ユーチーバーのカミキンTVが言っていた。最近はそれを実感している。
他の企業もこの技術を真似すればいいのに、出来ないのだろうか。なんでしないんだろう、不思議…まあいいや、今は目の前の勝負に集中すべきだ。
「勝負だタカマツ!」
空中のウインドウを操作し、カスタムルールで決闘を申し込む。・・・成立
『俺の連勝記録、破れるかな?』
俺たちは2人とも近距離職だから銃撃戦はフェアなはずなのだ。今回こそは、俺が
[デュエル判定システム、起動]
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[決闘]ダイキ vs タカマツ
目的 : 戦闘不能のペイント(実弾換算)
形式 : 自由
報酬 : パラソルの座席
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「よし、バトルだ!タカマツ…」
直後、タカマツの胸のあたりが真っ赤なペイントで染まった。
『ガホー』
タカマツがガホーと、赤いペイントらしきものを吐いた。タカマツは苦しそうにその場にしゃがみ込み手をつく。
「は?俺のは…」
オレンジだぞ?
『ガホー』
『よお』
その時、テラスの入り口、ギルドから声がした。
「お前…何なんだよ」
虚な目をした背の高い男は、静かに答える。
『あ?見てわかんないのか?…ただの兄だ』
…自宅の二階の奥に凄む引きこもりで、最も我が家で太陽に遠い男。俺の兄、タイヨウが現れた。
兄は左手にC-4爆弾を装備すると、俺たちに告げる。
『日陰に座りたいだ?うるせえ、そんなことしてる場合なのか??2人まとめて、俺が照らしつくす』
セリフはださいけど、これはピンチだ。
俺たちは2人とも近距離職だから、遠距離職の兄に遠くから攻撃され続けたら反撃できないのだ(致命的)。
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