番外編 ダイキの家4 魔力視

たしかに、タカマツのあの挑発の使い方はすごかった。自分の職業とスキルくらいはネットで調べたが、あんな使い方、どこにもでていなかった。


俺もあれを真似して、試しに薬草に挑発をかけるイメージで挑発を唱えてみよう。


「〈挑発〉!」


突然、ギラッと婆さんが鋭い目でこちらを見た。


「あれ?〈挑発〉!」


ギラッとタカマツが鋭い目でこちらを見た。


「ひぃ!」


全然できない。


「タカマツ、それどうやってるの?」

『いや普通に。魔法唱えるときとか、魔力みたいな光が薄っすらと見えるよね』

「何それ」

『え』


タカマツが怪訝な顔をする。


『婆さんの後ろとか見てみて。魔法ほどじゃないけど、かすかにオーラが見えない?』

「…ばあさんの後ろにいる引きこもりしか見えない」

『マジで?目が悪いわけではない?』

「両目で2.0」

『めっちゃいいね』

「両目合わせて2.0」

『それはダメだ』


『おい…』


ドスの効いた声が辺りに響く。


『そろそろ追うぞ』


どうやら痺れを切らしたダイキの兄が、そろそろ追ってくるらしい。


『よし、逃げるぞ』

「ああ」


『今度こそ殺してやる!』ダイキの兄がそう叫ぶ。俺たちは狭い路地を走り抜ける。


それから入り組んだ道を右往左往しながら数分ほど走り続けた。


『撒けたか』

「え?」


タカマツがそう言って立ち止まったので、ふと後ろを振り返る。路地裏には静寂が訪れていた…。


「〈サーチ〉」


俺を中心に球形のレーダーが広がる感覚があった。どうやら、もう近くに兄はいないらしい。


どうやら俺たちは、兄を撒けたらしい。



◇  ◇  ◇



彼らを見失った兄は、モンスハンのエモートのごとく、地団駄を踏んでいた。


『何なんだあいつは!…タカマツと言ったか。ワールドゲームやくそう協会のばーさんに目をつけられてて只者じゃないとは思ったが、あいつの魔法の使い方は、一体なんだ』


あいつは逃げながら、右手を路地の壁に当てて挑発を発動し続けていた。問題なのはそこじゃない。対象が自分への魔法を、壁を中心に発動させていたことだ。おかげで俺は壁に視線を奪われてしまい、あいつらを見失ってしまった…。


なんなんだ、あの使い方は。




◇◇◇◇◇◇




薄暗い部屋の中心に一人用の木製のデスクと椅子が置かれており、一人の男が座っている。家具には、メイドインジャポンと書かれているので、日本製ではなさそうだ。何やら不吉な声がこだました。


『現れたか。魔力を操作できる人間が…』


『その、ようですね…』


カチャ、カチャ、と食器の音が響く。どうやら男は、ケーキを食べていた。


執事のように隣に立っていた男が、続けて応えた。


『ドローンによる映像を見る限り、あのプレイヤーは魔力も視えているようです…』


『称号にわかりにくすぎる目印を、つけておけ…。彼らは、重要だ…』

『勿論です…』


薄暗い部屋の明かりが、パッと点灯すると、暗かった部屋を鮮明にした。一つの机と椅子を除いて何もない、シンプルな部屋だ。まるで、断捨離をしすぎた部屋のようだ。


『やめろ』突然、ケーキを頬張っている口がとまり、腹の底からの静かなる怒号が辺りに響いた。


『部屋の電気は、消しておけ…』


『と、いいますと…?』


『明るいと、家の中に、虫が入るだろう…』


『畏まりました。直ちに…』


たしかに、虫は明るいところを好む。夜の自販機を見れば、それは明らかなことだろう。明るい部屋でケーキを食べていれば、私たちを虫の恐怖が襲う。


カチャ、カチャ、という音とともに、男は再び執事に話しかけた。


『そういえば、だが、プレイヤー数が″減少″していたな。あれはどういうことだったんだ?』


『はて。詳しくはわかりませんか、外部からの攻撃では?という話は、あがっていましたね…』


『コンピュータウイルス、のようなものか…』


『はて。わかりかねます…』




◇◇◇◇◇◇

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