番外編 タカシの聖域5 生存

「くそっ、取り敢えずババアから逃げるしかねえ!」


俺はありったけの足止めブロックを大量に設置しながら洞窟の出口へと駆ける。そして間もなく洞窟から出ようとしたその時、


「ガッ!」


見えない壁に衝突した。不可視の壁が、洞窟の出口を塞いでいる。


そして洞窟の外、目の前には先ほどの女性が立っていた。


「まさかこの壁は、てめえの仕業か?」

『…そうだと言ったら?』


俺はローブの女性プレイヤーを睨んで言う。


「…頼み込む」

『なんて?』

「出せよって」

『・・・』

「・・・」

『…残念ながら、それは永遠に叶わない』


くそ!こいつは何がしたいんだよ。こうなったらもう、強行突破するしかねえ。


ステータスが全く覗けなかったから、こいつは暗殺者とか諜報員とか、隠蔽能力の高い職業に違いない。そういう職業に対して、俺の地形を作れる職業、建築士は強く出れる。


俺は事前に爆発魔物ボスグリーバーを倒した素材で作成した指向性爆弾を、建築スキルで不可視の壁に貼り付ける。


「〈一括縦配置・岩〉」


右手で軽くシステムに設置範囲の指示を出すと、壁の爆弾と俺の間を完全に塞ぐように分厚い岩の壁が瞬時に現れた。


「どいつもこいつも俺を舐めやがって。俺はなぁ、最もトップに近い建築士だ!〈起爆〉!」


直後、分厚い岩の壁が粉々に破壊され勢いよく岩と土煙が飛んでくると同時に耳をつんざくような凄まじい爆発音が響き渡る。


辺り一帯の土煙で視界が悪くなり数メートル先しか見えないが、ババアが追ってきている今は好都合だ。


間も無く遥か後方から、ババアの悲鳴が聞こえてきた。


『ぎゃー耳がつんざかれるー!前も見えないわ!タカシ許さん!』


それにしても、これはやりすぎたか?ボスじゃなくてただのグリーバーの素材の爆弾でも良かったかもしれないな。邪魔してきたとはいえ、あの女性プレイヤーも木っ端微塵になった事を考えると、少し気の毒だ。


『空間の壁は、この程度では決してびくともしない』


突如聞こえてきた女性の声に、俺は思わず後ずさる。風魔法で軽く周囲の土煙を落ち着かせると、何事もなかったかのように無傷でローブの女性が立っていた。


「は…?ボスグリーバーの爆弾だぞ…」

『びくともしないな』


壁を触ってみると少しびくとはしていたが、壊れそうな気配は全くなかった。何よりあの爆弾を防がれたことが信じられなかった。


ありえるのか?このゲームで。いや、聞いたことはないが…。


「チーター?」

『…何を言っている?』


違うのか?いや、本人に聞いたところで意味ないか。


「目的は何だ?何をしに来たんだ?早くババアから逃げたいんだが」

『冥土の土産に教えてあげようか。これは私の仕事だ。強者の駆除というな』


如何にもゲームのNPCが喋りそうな台詞だ。チーターではないなら、もしかすると運営が用意した特殊なイベントっていう可能性もある…。


「で、強者の駆除か。つまり俺を殺しに来たんだな?」

『そうだ。怖くないのか?』

「何言ってんだ。今の俺じゃお前にはまだ勝てない。戦闘中のログアウトペナルティは痛いが、デスペナよかマシだ。じゃあな」


俺は宙にウィンドウを開き、ログアウトをタップする。


[]


ログアウトの反応がない。


[][][]


何度タップしてもログアウトできない。


『無駄だ。君はここで私に殺される』


ログアウトができないという異常事態に冷たい声が合わさって、突然恐怖を感じた。


「ゲームだろ?」


何の意味のない確認。ゲームの話だ。


『・・・何を言っている?君はここで死ぬと言っているだろう』


今、人生で初めて殺気を体感した。人が虫を殺す時の様に無機質で温度のない殺意だ。


ゲームの筈だがこいつは本気だ。それにしても何故ログアウトできない?この状況で、殺されて大丈夫なのか?


本当に死ぬかもしれないという非現実的な不安と恐怖が俺を覆い尽くす。

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