番外編 タカシの聖域1 引きこもり

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番外編の試みです。


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『こらタカシ!仕事は見つかったの!?タカシ!!』


ドン ドンドンドンと、扉を叩く音が部屋中に響く。控えめに言ってとても五月蝿い。


あれはうちのお袋だ。そして自室に日々引き篭もっている俺は袋の鼠だ。


「うるせえババア!」


『ババアって、失礼よ!!』


今日という今日はババアが入ってこれないように、扉の前にタンスでバリケードを作っておいた。侵入はおろか、扉を開けることすら不可能だろう。


タンスの質量は約30キログラム。床の摩擦係数をババアとすると、ババアが開けようとしているあの扉には、凡そ300ババアニュートンもの摩擦力が働いているのだ。


この部屋の入り口は、最早鉄壁と言っても過言ではないだろう。ここは俺のサンクチュアリー(聖域)、何人も侵入させない。


『こらタカシ!もう無理やり入るわよ!』


「うるせえババア!入れるもんなら入ってみろや!」


直後、僅かにギィという音がした。ハッと扉の方を見ると、僅かに開いた扉の隙間から、ババアが顔を出していた。


『タカシ、観念しろ!』


「そんなバカな、一体どうやって…」


・・・ああそうか!俺の部屋の床はフローリングだ!フローリングはツルツルだから、摩擦係数が小さすぎてタンスが滑るんだ!これではババアを抑えるに十分な摩擦力は働かない。


「くそっ!何で働かねえんだよ!」


『それはアンタでしょうが!!』


「くっ、もう逃げるしかねえ」


俺は机の上に置いていたVRゴーグルを急いで装着して、仮想世界へと逃げる。


ババアが部屋に入ってくるが、一歩遅い。俺は既にワールドゲームの世界へ逃げたのだ。




『こらタカシ!』


散らかった部屋の中、机の前の椅子にて、静かに座っているタカシがいた。


タカシ母は、VRゴーグルを装着したタカシを起こすために揺すろうと手を伸ばすが、触れようとしたその時、バチっと軽く弾かれる感触と共に、空中にウィンドウの様な警告メッセージが表示された。


VRゴーグルだけでプレイ可能なフルダイブVRゲームを開発した事から分かる様に、ワールドゲームの開発会社は世界的に見ても高い技術力を有している。


これは、電気だか電子だか何かの凄い技術で成功した、現実の空中に表示できる光的な、なんかそういうやつだ。


[対象プレイヤーは、フルダイブVRゲームをプレイ中です。外部から無理やり外すと僅かに危険が伴います。緊急時以外は、無理やり外すのはお控え下さい。]


パソコンに例えるなら、電源ボタン長押しで消しても別に壊れるとかはないけど、どちらかといえばちゃんとシャットダウンした方が安全みたいな、そういうやつだ。


『タカシ、毎回毎回危なくなったらこれで逃げるなんて卑怯ね…。でも、何時迄もこれで逃げ切れると思ったら大間違いなのよ』


タカシ母は、タカシの部屋から出ると自室に向かう。その部屋には、VRゴーグルがあった。


『外部から外すとほんの少し危ないなら、内部から連れ戻してやるわ。タカシ!』


こうして、タカシ母もワールドゲームの世界へとログインしていった。


タカシ母のタカシ奪還作戦が、今始まる。(かもしれない)

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