36.最後の晩餐
◇◇◇
木に寄っ掛かり魔道書を読んでいると、段々と本が闇色に染まり読みにくくなってきた。不思議に思い辺りを見回すと、赤色の空に太陽が沈みかけている。どうやら、暗くなってきたので読みにくかったらしい。
集落内でもポツポツと灯りが点き始めている。
「俺としたことが、うっかりしてたぜ」
ついつい魔道書に没頭していたようだ。そろそろ夕飯の時間だろう。俺は此処から数分のエルフの家への帰路についた。
卍家のみんなは無事だろうか。俺は、ここにいるぞ…。
少し緊張しながらエルフの家の入口にある木の玄関を開けると、エルフの母らしき人物が出迎えてくれた。
『あら、はじめまして。話は聞いたわ』
「はじめまして」
『暫くは、うちで生活するといいわ』
「え、いいんですか?」
『ええ。大変だったでしょう…。うちは元々人数も多いし、今更一人増えたところで問題ないわ。ゆっくりしていきなさい』
「ありがとうございます」
何ていい人たちなんだろう。
俺はリビングへ行くと、大きめの長方形のテーブルには既にエルフの家族たちが揃っていた。エルフ兄弟に爺さんと婆さんの5人だ。母はまだ来ていない。
食卓には、大きなパンやスープやサラダなど豪華な料理が並んでいる。
『お魚さんおかえりー!』
「ただいま」
エルジが意味ありげな疑問顔を向けてきたので、上手くいったぜという意味を込めて目を合わせながら指でいいねした。
『弟が世話になったのぅ、お魚さん』
「いえ、こちらこそ」
『ちっ』
兄のエルオフはちっと言っていた。うーむ、記憶喪失でどういう意味かわからないが、恐らく挨拶だと思うので、取り敢えず同じように返しておこう。
「ちっ」
『・・・は?』
「はっ」
『そうだ石田、言ってなかったけど、当分集落の外へは行くんじゃねーぞ』
エルマが俺に軽く注意する。
「どうして」
『魔法覚えてないだろ?魔法がないと、その辺の野生の小鳥にすら勝てないからな。集落の外は危険だ』
え、俺そんなに弱いの。
「俺の力って、鳥以下かよ」
『そりゃ魚だしね〜』
エルジ、今更だけど、俺は魚ではないよ。まさか本当に魚だとは思ってないよね。
その時突然、何処からともなく、黒い模様がスーッと空中を流れるように食卓へとやってきた。
窓の方向から流れてきたように思える。閉じた窓の隙間から入ってきたのだろうか。
それ自体は魔法文字の様だが、形はよくわからない、ただの模様に見える。
『これは…』
エルマが椅子から立ち上がる。そして黒い模様に手を伸ばす。危なくないのかな。
『エルマや、なんじゃねそれは』
爺さんが問う。
『…これ、代表の模様だ』
エルマがそう言った途端、突然場の雰囲気が真剣な空気に変わった気がした。但しマイペースなエルジは除く。
「…代表?」
『まあな。爺、開けていいか?』
『まあ・・・別にいいじゃろ』
『いいのかよ…』
そっと溜息をついたエルオフを横目に、エルマは右手を模様にかざす。
『開け』
直後、黒い模様は黒い魔力を散らしながら形が変わり、瞬く間に長文らしきものに変化した。俺が座っている位置からは読めないが、恐らく文章だろう。
『いいかみんな、先ずは最初の一行、読むぞ…。[それは ステイタスという半透明の青い板の奇術を操る]』
『ステイタス?何それ』
そう呟いたエルジに賛同するようにみんなが頷く。
『ステイタス…聞いたことないな』
『ふうむ、なんじゃろな』
『青い板とだけ言われても、全然イメージ出来ないよな』
そんなエルマに俺も頷く。
「それな。わかりみが深い。〈ステータス〉って何だよ」
瞬間、ブォン という音が響いた。
ん? 俺の目の前に、文字が書かれた青い半透明のボードが浮いている。…これじゃね?
「おいみんな見てくれ。俺の前に浮いてるこれじゃないか?」
エルマがすかさず答える。
『お、それっぽいな』
『本当だ!お魚さんすごーい!』
『最近の若者は、やりおるのう』
『よし、続き読むぞ。[そんな彼らは 禁術使用者の可能性も高い 敵対勢力 発見次第 直ちに排除せよ]』
・・・え?
みんなが一斉に俺を見る。
「わろた」
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