31.作戦
◇◇◇
温存していたログインボーナスの[回復ポーション(大)]を飲んで右腕を回復させたチビ助は、木から木へと飛び移り3人の方へ戻っていた。
その時、少し先の方から、
ドシーン ドシーン
と、何か巨大なゴーレムか何かが森を歩いているかの様な音が、空気を伝わり耳元に響いてきた。
『何だ?この森に、ゴーレムなんていたか?強いミノタウルスといい、最近はイレギュラーなことばかり起きるであるな。3人の安否を確認せねば』
チビ助は頑丈な石像系魔物に特化した大剣を取り出すと、風魔法で加速しつつ木から木へと移動し、音のする方もとい3人の居た方へと急ぐ。
木が多くて先はあまり見えないが、もうかなり近い。音がするのはすぐ目の前だ。チビ助はトップの暗殺者、得意な戦い方は奇襲。チビ助は空中からのジャンプ斬りを狙う。
((今だ))
チビ助が木々と葉を掻き分け勢いよくジャンプして、突如姿を現し思い切り大剣を振りかざそうとしながら相手を見ると、音の正体はゴーレムなどではなく、嬉しそうに歩いている結衣だった。
『ルーンルルーン、楽しいな〜』
『凄いよ結衣さん!その調子!』
『見直しましたわ!』
ふと結衣は目の前の地面の影に気が付き、上を見上げると、殺気を大量に纏って巨大な大剣を今にも振り下ろそうとしていたチビ助が居た。
『ギャァー!!』
勢いを殺しきれずにそのままチビ助は斬りかかる所だったが、大剣はスカッと結衣に当たることなくチビ助は地面に着地した。
『あ、危なかった…である』
大剣のアイテムボックスへの収納がギリギリで間に合ったのだ。
『な、何事ですか!私もしかして今死ぬところだったのでは』
『いや本当申し訳ない。スライムに勝てない人よ』
『やめてください!それ以上そう呼ばれるとあだ名で定着してしまう・・・というより、スライムくらい、もう余裕で勝てますよー?』
『ふむ、よくやった』
『全くもってその通りです』
((自分で言うな))
今し方結衣が歩いてきたであろう道のりには、地割れの様なヒビが入っている。恐らくそれが職業、踏み込みの力であろうことは、安易に想像できた。
((これ程の特殊な力なら連れて行くのも悪くないかもしれない。魔女と聖騎士も優秀な職業ではあるしな))
チビ助は3人の前に立つと言った。
『では、3人にはミノタウルスを一体以上討伐してもらうである』
先程この森のミノタウルスは大量にチビ助が倒していたが、ゲームの魔物なので基本的に無限スポーンする。故に、居なくなるという事は起きない。
周囲の激減したミノタウルスたちも、又すぐにスポーンして現れ始めるだろつ。
『3人で力を合わせれば倒せますよ!私の目覚めし踏み込み力に任せてください』
結衣は自らの力を目覚めし踏み込み力と命名したようだ。カッコいいようなカッコ悪いようなネーミングだ。
それから約5分後、奥へ奥へと進んでいた3人は、漸く一体のミノタウルスを発見していた。
『作戦通り行きますよ』
『ああ、聖騎士の俺が頑張って』
『踏み込みの私が踏み込んで』
『魔女の私が頑張る』
((いやこいつら何を言ってるんだ。作戦が適当すぎる…))
チビ助が3人をそんな目で見ていると、結衣が突然小声でヒソヒソと2人に注意した。
『待ってください、明智さん、魔女さん。この作戦ではダメです!チビ助さんが、こいつら何言ってんだって顔でこっち見てます』
『本当だ!もっと具体的にしよう』
3人は再び軽く作戦会議をする。
・・・・・・
『よし、聖騎士の俺が、接近してきた際の防御兼攻撃役で』
『私が踏み込みで足場を破壊し足止めして』
『近づかれる迄に遠距離魔法で少しでも多くのダメージを与える、ですわね』
((ふむ、最初の作戦のせいで立派に見えてしまうが悪くはない。作戦が上手くいかなかった時の事もしっかり話しておくべきだが、後は静かに見守らせてもらうである))
それからチビ助は、話し合っている3人に言い放つ。
『この試練が上手くいったら、本気でレベルアップ手伝ってやるである』
『本当ですか!ありがとうございます!』
明智が感謝の言葉を述べる。
『上手くいったらだがな』
『ところで、本気のレベルアップ、とは?』
『無論、効率だ。地形や魔物の性質などを利用して最短で稼ぐ。若しくは、その辺にいる普通の魔物と比べて、遥かに多くの経験値を貰える魔物がいる』
『その魔物とは?』
明智が興味津々に尋ねる。
『それは、ドワーフやエルフ…、つまり、人型の魔物だ』
『あ、すいません、一旦ログアウトします』
突然素に戻った結衣がそう言う。
『ん、何故だ?』
『これからインフルエンザの予防接種受けてくるんで』
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