30.レベル差

ここは始まりの森で、チビ助のレベルは30。ここでミノタウルスは上位の強さとはいえ、30ものレベルアップで高い攻撃力防御力、そして魔力の量に出力を得たチビ助の危険察知に引っかかる敵は、ここには居ないと予想していた。


『どちらにせよ、敵ではないがな』


スナイパーライフルをアイテムボックスに収納し、数秒かけて手元に白い輪郭と共にサブマシンガンの様な武器を出現させる。


ゲーム内の実弾を使用する先程の銃とは異なり、これは魔力を弾と火薬として用いる連射可能な魔力銃だ。


魔力で弾と火薬的な奴の生成を同時に行うため少々コツのいる上級者向けの武器だが、チビ助にとっては朝メシ前、いや、起きてすらいない。そう、起きる前だ。


『喰らえ』


チビ助が魔力銃サブマシンガンを連射して、次々と周囲にいたミノタウルスを撃つ。


『ウガァァァ (イテェェェ!)』

『ウガァァ (ミノコー!)』


圧倒的な火力の前に、ミノタウルスたちは成すすべなく次々と倒れていく。火傷して既に瀕死だったミノコも再びダメージを受ける。


同時刻、森の奥を歩いていたクマさんも大量の流れ弾によってハチの巣にされてしまった。ハチミツを探していたクマさん自身がまさかハチの巣にされてしまうとは、思いもしなかっただろう。


突如、チビ助の目の前に、巨大な斧が回転しながら風を切るように迫った。


『!?』


チビ助は咄嗟に連射をやめて、マジックシールドを発動する。


それでも何か嫌な予感がしたチビ助は少し下がろうとしたその時、巨大な斧がマジックシールドに衝突すると、即座にシールドが破壊され迫りくる。


『!!』


刹那、背後で斧と地面の衝突音が響き、土煙を上げた。


『ふむ…。これは、侮れんな』


高い防御力を持っていたにも関わらず、その斧に掠っただけでチビ助の右腕から僅かに血が吹き出した。


僅かとはいえ、血の描写が少なめに設定されているだけで、このゲームでの僅かは現実での割と大出血という事はよくある。


その攻撃の主は、先程のボスらしきミノタウルス…とどのつまり、ボスタウルスだ。


『ガオウ』

『…よく吠える獣だ』


チビ助は先程のダメージで右腕に力が入らなくなっている事に気づく。チビ助の利き手は右手だ。これは危機的状況と言えるだろう。


…その圧倒的なレベル差がなかったなら。


これを好機と見たのか、他の数匹のミノタウルスたちが、チビ助に斧を振り上げて襲いかかる。


『それでも貴様らは敵ではないがな』


チビ助は襲いかかってきた普通のミノタウルスたちを、ただ一撃蹴り飛ばす。魔法も何も使わずに。


『グァァァァ (グハッ!)』

『グァァァァ (イテェェェ!)』

『ガォォォ (ミノコー!)』


頑張ってまた襲いかかってきたミノコも、単純な蹴りだけで吹っ飛ばされて遂に力尽きた。他のミノタウルスたちも、次々と力尽きていく。


そう、チビ助には度重なるレベルアップによって、基礎的な攻撃力や防御力に爆発的なアドバンテージがある。格下であれば、正直蹴るだけで大ダメージを与えられた。


チビ助は残っていた数匹のミノタウルスも体術だけで一気に蹴散らす。


ボスタウルスは忌々しい物を見るような目つきで、10数メートル先のチビ助を睨む。


『どうしたボスタウルス。お主の仲間たちは、いなくなったぞ』


その時、ボスタウルスの体内の魔力が喉元に集まったかと思うと、大声で雄叫びを上げた。


『ガァァァァァァァ!』

『雄叫びとは、ミノタウルスにしては珍しい。やはり特殊な個体か?』


その雄叫びを警戒し、暫く周囲を見ながら待つが、特に何も変化は起きなかった。


『何だ、無駄な悪足掻きだったか?』


ボスタウルスが再び武器を生成しようとした瞬間を見計い、チビ助は風魔法を纏い加速すると、瞬時にボスタウルスに迫る。


『!?』


武器の生成で一瞬反応が遅れたボスタウルスの首を、纏っていた風魔法を振りかざして切り裂く。


『ガァァァァ (ギャーイテェー!)』


ボスタウルスはそのまま、ウギャーと言いながらその場で倒れた。


((何故、森の仲間が来ない…ガク))


[ミノタウルスx1 killed]


[レベルアップ 30→31]


『中々上がらなかったが、やっと31に上がったか』


チビ助はザッとステータスを眺め、増えたスキルポイントを暗殺系のスキルに振ると、来た道の方を振り返った。


『さて、彼らの所へ戻るとしよう。踏み込みが有効的に使える職業なら仲間にしても良いが、踏み込みが少し上手くなるだけの外れバグ職業とかだったら、正直連れて行きたくないな…』



◇ ◇ ◇



近くの木の陰にて、手足の裾に黒い線の入った白いローブの白魔道士らしき黒髪の女性プレイヤーが、その戦いを傍観していた。


心なしか、彼女の手は怯えたチワワの様に震えていた。


「私にもっと、力があれば。私があの大量の経験値を…」


彼女は俯きながら静かにそう呟く。それから直ぐに、右手の木の杖をトンとつき瞬く間に姿を消した。

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