29.レベリング

チビ助は考える。


まさか他にも変な職業の奴が居るとは驚きだが。さて、どうしたものかと。


盾術の場合は、そのスキルの性質からか、ステータスの防御力はかなり高かったし、特化している故かスキル自体の性能も通常より高かった。


で、何だ職業が踏み込みって。あの踏み込むのが少しばかり強くなる身体系の補助だったか?補助スキルだからか知らないが、基礎ステータス全部雑魚じゃないかチワワじゃないか。流石にこれは…外れジョブか?


『お主…いや、スライムにすら勝てない人』

『その言い直し超要らないです!』

『何か、何か出来ないであるか?踏み込みって言うのは、本来言葉通り補助スキルの筈だ。例えば、踏み込みを意識してみるとか』


『わかりました!やってみます!』


結衣は今までの鬱憤を晴らすように地面を踏み抜いた。


『・・・もう!何もないじゃないですか!』


結衣は悔しくて地団駄を踏むが、それも虚しくスキルらしきものも何も発動しない。


『ふむ…、発動条件などはわからないが、何かしらできるとは思うのだが…。少し1人で静かに考えてくる。色々試していろ。〈気配隠蔽〉』

『え、チビ助さん!?』


チビ助の姿と気配が消える。チビ助は3人の元から一旦去り、木から木へと飛び移りながら森の奥へと入っていった。



『…何か出来るとは思うのだが』


チビ助の気配探知範囲内に数匹の魔物が入る。木から木へと飛び移りながら、徐ろにスナイパーライフルと思われる暗色の銃を取り出すと、視線は進行方向を見たまま気配のする方を作業的に狙撃していく。


流石はトッププレイヤーチビ助。考える間ですら、レベリングは怠らない。


視界の左下に半透明のキルログが次々と流れる。


[イノシシx1 killed]

[イノシシx1killed]

[ミニ・スパイダーx1 killed]


ボードから検索エンジンgoggleで踏み込みのスキルについて調べてみると、やはり身体系の補助スキル又は強化スキルである事がわかった。


[イノシシx1 killed]

[ミノタウルスの子供x1 killed]


しかし、職業としての踏み込みが、スキルとしての踏み込みに全て当てはまるとも限らない。言うまでもなく、そもそもその職業の存在自体が不具合だろうから。


[イノシシx1 killed]

[Player : 変なおじさん killed]

[ゴブリンx2 killed]


『何より基礎ステータスの低さにキツいものがある…、ん?今プレイヤー混ざってたか?まあいいか』


その時、前方にミノタウルスの群れを発見した。チビ助は取り敢えず木から飛び降りて、群れの前に姿を現す。


[落下耐性自動発動]

[付近に多数の敵対生物を感知]

[危険察知…、反応なし]


[気配隠蔽 解除]


数十匹はいるであろう大勢のミノタウルスが、凝視してくる。


『それに、本気でトップを目指すなら、職業的にも俺の場合はソロのままの方が効率は良いのかもしれないがな…』


静寂に包まれた中、チビ助がそう呟いたのを合図に、戦いの火蓋が切って落とされた。


『ガォー (ニンゲン!)』

『ガォー (コロセ!)』

『ガオガオ (ブチノメセ!)』


[跳躍発動]


チビ助が軽くジャンプして宙に飛び跳ねると風魔法を用いて一時的に滞空し、間髪入れずに魔法を発動する。


『俺の経験値の糧となるである』


チビ助が先程まで立っていた場所を中心に、半径10メートル程の円形の魔法陣が現れると、微かな光を発する。


『一掃〈火柱〉』


光が強くなったかと思うと、次の瞬間、範囲内を焼き尽くすように高さ数メートルの炎柱が噴出された。範囲内にいた大量のミノタウルスたちは、炎の中でもがき苦しむ。


『ガァァァァァ (アツぃぃぃぃ)』

『ガォォォ (ミノコー!)』


現れたミノタウルスたちの約半分が、一瞬にして討伐される。


『ガオオ (敵は上空ダ!投擲で狙エ!)』


歴戦の傷跡のあるボスらしきミノタウルスがそう叫び、同時に右手に巨大な斧を生成する。


[危険察知、反応あり、低x1]

[対象を示します]


チビ助の視界にて、一体のミノタウルスに重なるように半透明黄色のカバーのようなエフェクトが表示され、その個体の脅威度を示す。相手は今さっき斧を生成していたミノタウルスだ。


『ふむ。低とはいえ、始まりの森に未だ俺の危険察知に引っかかる奴が居たとは』


『ガオガオ (アルテミス、そして我が同胞たちの仇、取らせてもラウ。皆の者、奴に隙があれば我の援護を頼ム)』

『ガオー (マカセロ!)』

『ガァァー (タオス!)』

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