28.試練、始まりの森
〜始まりの森〜
〜奥地〜
ミノタウルスの集団が、森で集まってガオガオと話し合っていた。
『日に日に増える人間ドモ!殺されていく仲間タチ!』
『ユルセン』
『ユルシガタイ』
『今こそ、我々の森を脅かす愚かな人間どもに天罰ヲ!縄張りへの侵入者は、全て返り討ちにしてやるノダ!』
『カエリウチ!』
『ブッコロス!』
『サスガボスッス!』
『では皆のども、作戦を考えルゾ』
『ナグル!』
『ケル!』
『うーむ、それは作戦じゃナイナ。おい、我らのブレイン、アルテミスはどこいっタ?』
『アルテミスッテ、ダレ?』
『ダレダ?』
『何だと?というか貴様ら誰ダ?新入りカ?』
『新入り!ボク、タケシ』
『新入り!オレ、ミノタロウ』
『ワタシ、ミノコ』
『何だと?新入りだらけだったノカ。通りで見ない顔ばかりだと思っタヨ。我の元に集まってくれて感謝スル』
『イイヨイイヨ』
『ニンゲン、タオス』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『1つ目の試練は、ミノタウルスの討伐である。協力して一体以上倒すのだ』
『ミノタウルス…』
勇者パーティーと聖騎士パーティーで協力して倒したことはあったが、たった3人で戦ったことはなかった。しかも、結衣は勇者パーティーではお荷物だった。
『それなら、3人で上手く協力して頑張らないとな!勇者パーティーにいた結衣さん、俺たち結衣さんの戦い方わからないから、色々教えてくれ』
『えーっと…その〜』
又しても結衣の目が泳ぐ。オリンピックに出れそうなくらい。
歯切れの悪い結衣に、チビ助が言う。
『…取り敢えず、お主のステータスボードのレベル、見させてもらう。〈看破〉!』
チビ助が看破によって、通常は本人にしか見えないステータスボードを覗こうとする。
だが、チビ助は結衣のステータスを覗くことができなかった。
『な!?何!?何故だ!?』
ふと気がつくと、前には明智と魔女しかいなかった。
『あいつ!ログアウトしたな!』
結衣のレベルの低さを聞いていた明智と魔女は、それを知られたくないんだなと察して、呆れた目でそっと見守った。
[ログイン]
目の前の空中にログインの文字が現れたかと思うと、結衣が現れた。
『ちょ、待ってくださいって。勝手に人のステータスボード覗かないでくださいよ〜』
『〈看破〉! 』
それと同時に結衣の姿が消える。
『ああもう!また消えた!』
再び結衣が姿を現す。
『ちょっと待ってくださいってー』
『・・・、なるほど。レベル3か』
『えぇー、いつの間に』
『発音すればキーになってほぼ確実に発動するが、慣れてれば別に意思だけで発動できるしな』
明智が拍手する。
『そうだった!チビ助さん流石です!』
『にしても結衣さん、レベル低いからって隠してても何も進展しませんわ』
『うー、正論…』
『…で、お主は何故そんなにレベルが低いのであるか?』
『それは…ダメなんです』
『何が』
『職業が』
結衣が自身のステータスボードを3人に向けて見せる。
『いや本当に私の自業自得なんですけど、ゲームの事全然わからなくて、適当にしてしまって…その』
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
[名前]結衣
[職業]踏み込み
[レベル]3
[ランク]E
[称号]初心者、臆病者、スライムに勝てない人
[スキル]
気配探知、戦力測定、魔物図鑑、棒術
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
体力や攻撃力や防御力などの基礎ステータスも、総じてゴミみたいに低かった。
魔女が、その弱さに驚いて声をあげる。
『何ですのその途轍もなく低いステータスは。称号も臆病者とかありますわ!』
『うわぁーん、戦いたくなくて戦ってない訳じゃないのに!』
今までのワールドゲームで言いたいことが溜まっていたのか、結衣は悲痛な叫びをあげた。
『聞いてくださいよ!余りにも基礎ステータスが低くて、私まだスライムしか倒してませんよ!しかもスライム強いし!スライム2体いたらもう勝てないし!』
『ああ、だから変な称号がついてるのか』
明智がポンと手を叩いて納得する。
『何を納得してるんですか!』
結衣は右足で地面を蹴り勢いをつけて明智を殴るが、明智はビクともしなかった。
『全然痛くない…』
『うわぁーん私弱い。どうしよう、私が変なの選んでこんな職業になったってゲーム会社にバレたら、私消されるかもしれない!』
『それはないよ結衣さん。ゲームのバグっていうのは、プレイヤーの責任じゃなくて運営の問題だから』
『そ、そういうものなんですね…私ゲームから疎くて、その辺よくわからなくて』
少し安堵した結衣に、魔女が言う。
『でも、事態は深刻ですわ。結衣さん、いいえ、スライムに勝てない人』
『そんな言い直し要らないんですけど!』
『その弱さで、レベル30のチビ助さんについて行こうとしてたんですの?そんなの、重戦車にチワワがついていくようなもの。正直言って、足手纏いですわ』
『うぅ…』
『いや、待て』
その時、結衣のステータス画面を黙って眺めていたチビ助が、割り込むように呟いた。
『これは…わんちゃん、ある』
『え、ありなんですの?』
『…かもしれない』
まさか、本当に重戦車チワワ大作戦でも決行するんですのと懐疑的な顔をしている魔女を横目に、チビ助は再び思案するように黙った。
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