27.提案
◇ーーーーー◇
未だにたじろいでいる佐藤が、怪訝な顔をして尋ねた。
『…は?何であんな、凪のこと聞くんだよ』
『貴様に話す理由はない』
『っ!』
佐藤は言葉に詰まった。先程自分で、強さが全てだヒャッハー!と言ってしまった手前、まぐれでも殺気だけでたじろいでしまった以上、言い返しにくかったのだ。
『というか、貴様は邪魔だから去れ。初対面で突然斬り掛かってくるような奴に、話すことなど何もないである』
チビ助は、あるのかないのかわからないような口調でそう言い殺気を飛ばすと、佐藤は又してもたじろいだ。
たじろぎながらも、威勢良く反論する。
『こ、このパーティーのリーダーは俺だぞ…俺様は、勇者だぞ!』
『ほう、レベル30の俺に逆らうのであるか?』
『っ!』
身から出た錆とは、まさにこの事だ。強い奴が偉いヒャッハーと言ったのは佐藤自身だった。
『…おい。明智、結衣、俺を庇えよ』
明智は俯いたまま、結衣はギルドの窓からお空のお雲さんを眺めている。
『クソ!覚えてろよ、お前ら…!ピンチな時に仲間を助けない奴なんて、仲間じゃねえ!』
((どの口が言ってるんですかねぇ))
そう思ったのは、結衣だけでなく明智も同じだろう。
勇者佐藤は、チビ助、明智、結衣の3人を睨みながら、悔しそうにこの場を去っていった。
この事がキッカケで、同じく横暴過ぎて嫌気がさしたり追い出された勘違い勇者たちが、佐藤を中心に集まり[勇者軍団]が結成される事になるとは、まだ誰も知る由もなかった…。
『ところで、どうして凪さんの事を?私も、連絡が取れなくて心配してたんですけど』
『…サイトータン地区で知り合ってな。俺も凪の行方が知りたい。先に一つ尋ねよう。凪の職業は、知っているであるか?』
『はい』
何故か明智が手を挙げる。
『明智さん、どうぞ』
『多分タンクですよね』
『ふむ』
運営に報告されることで、盾術が修正される可能性があるからやはり盾術の事は仲間にも隠していたのだろうかと、チビ助は思案する。
『まあいい。情報を共有しよう。凪の行方を知りたい利害は一致してるしな』
明智と結衣も、凪と一応石田に関して、知っている事を話した。チビ助も、凪の本当の職業や強さに関しては上手く伏せつつもそれ以外の事、凪との出来事や、発信器の範囲外にいる不可解さなどを話した。
『…凪の行方、確かに不可解だな』
『何か、怪しいゲームですねぇ』
それはチビ助も感じている事だった。炎上不可避のデスペナ延長アプデ、範囲外の発信器、そして幾つかの大規模な怪事件。何処に何の意図があるのか、検討もつかないが、例えば東京ミステリーサークルなんて広範囲の…チビ助はそんな思考を巡らせた所で、何を馬鹿なことを考えているんだとハッと我に返る。
『…まあ兎に角、俺は上を目指していく序でに、凪の事も調べておくである。幻の報酬〈神の慈悲〉とやらもゲットできれば、このゲームに関して、何か知れるかもしれないしな』
フレンド登録だけ済ませ、その場を去ろうとしたチビ助に、後ろから結衣が大声で叫ぶ。
『待ってください!』
チビ助は足を止めた。
『私を連れて行ってもらえませんか!貴方ほどの力があれば、とても助かります!』
それに続いて、咄嗟に明智も立ち上がる。
『お、俺も連れて行ってください!皿洗いします!』
更には、地味に近くの椅子に座ってアイスティーを飲みながら一部始終を聞いていた、明智パーティー所属の魔女も立ち上がって言った。
『その話、私も乗りますわ。私も連れて行ってくださいません?』
ドラマやアニメだったらきっと、今頃良い感じのBGMが流れている事だろう。3人は、そんな雰囲気を醸し出していた。
チビ助は振り返り、静かに問いかける。
『…お主らを連れて行って、一体俺に何の得がある?』
すると、何も考えていなかったのか、3人はわたわたと慌て始めた。みんなの目がトライアスロンに出れそうなほど泳いでいる。それでも、ここで彼を説得できなければ、連れて行ってもらえる筈も無い。
発信器といい情報量や強さといい、今一番凪に近いのは、明らかにチビ助だ。
わたわた慌てながら、先ずは結衣が答えた。
『特はないけど、徳はありますよ!』
『誰が上手いこと言えと言った。そんな上手くもないし』
『皿洗いは任せてください!俺を連れて行けば、お皿はピカピカです!』
『魔法で済む』
『私たちは、チビ助さんの力になれますわ。幾らレベルが高くても、万能ではないでしょうし、お互い助け合えば、メリットもあると思いますわ』
『ふむ。この俺の力になれると言うのか。では聞くが、お主たち、職業とレベルは何であるか?』
『聖騎士!レベル12!名前は明智!』
『レベル10の魔女ですわ。プレイヤーネームも魔女ですわ』
『私は、レベル低いですけど…』
レベル30のチビ助と比べれば低いとはいえ、そこそこのレベルの明智と魔女とは裏腹に、結衣は歯切れの悪い返事をした。
『…ふむ。まあいい。どうしても来たいなら、俺に、相応の実力を見せてみろ。俺からお主たちに、幾つかの試練を与える』
試練を与える。とかマンガとかでありそうな事を言って、実は少し楽しんでいるのは内緒だ。とは言っても、チビ助はここまでほぼソロで来ている。そろそろ試しにパーティーを組んでみるのも良いかもしれないとチビ助は感じていた。無論それは、彼らが最低限の実力不足でなければの話だ。
『足手まといを連れて行く気はないのでな』
ざわ、ざわっと空気が騒めく。ざっわー
『手始めに、始まりの森で、最低限の力を見せてみよ』
ざわ、ざわざわ。
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