20.虎の力
次の日。
現実世界で朝食を食べた俺はすぐにワールドゲームにログインし、ビータイガーと共にウィンドギルドへと徒歩で移動していた。とほほ。徒歩だけに。
ちなみに、もげた腕は復活した。
早朝だからか、町の大通りを歩いていると、他にも魔物を連れて散歩している召喚士がちらほらといる。気持ちはわかる。わかるが、こんなにいるとは思わなかった。
そう言ってる間にも、前からは召喚士らしきお婆さんが歩いてきていた。あれは、イノシシだ。始まりの森のイノシシを3匹テイムして散歩している。
「おはようございます」
『あらぁ、おはようございます。お早いですね』
「いえいえ。貴方こそ、お早い俺と同じくらいお早い」
『貴方が連れてるその大きな虎さん、かしら?虎さん、すごい強そうねぇ』
『ウガー (貴様、見る目あるな)』
俺はしゃがんでイノシシたちに右手を出すと、イノシシはその手をペロペロと舐めてくる。わー可愛い。
「イノシシ、可愛いですねー」
『ほんと、この子達かわいいのよー』
『フゴォ (ちくわ食いてー)』
『プギッ (キャベツうめー)』
『フゴー (ちくわさいこう)』
「本当ですねー。ではこの辺で失礼しますー」
俺とお婆さんはお互いに軽くお辞儀をして、再び道を進む。
「それにしても、イノシシ可愛かったな」
『ウガ (そうか?あいつら全員不自然なほど、ちくわとキャベツのことばかり考えていたぞ?)』
「ウガー?」
『ウガ (突然どうした。とうとう頭がおかしくなったのか?…いやそうか、貴様は魔物の言葉がわからないんだったか。この、ぽんぽこりんめ)』
「あー、ビータイガーかっこいい〜」
『ウガァ (む、貴様見る目あるな)』
ウィンドギルドまではまだまだ暫くかかるだろう。それまでに町のどこかの鍛冶屋と魔物屋には寄りたい。今回入手した素材で武器を作りたいのと、ビータイガーの食料が召喚士御用達の魔物屋で売っているかもしれない。
そうして暫く歩いていると、路地裏の方から、何やら揉めているような声が聞こえてきた。
「何だ?誰かが困っているのかもしれない。とにかく、様子を見てみよう」
『ウガチュゥ』
薄暗い路地へ入り声のした方へ行くと、何やら、中学生くらいであろう人たちがいた。男子3人が、路地の壁にもたれ掛かり座っている女子1人を責めているようだった。
『ははは!ざまぁ!俺たちの意見無視するからそんなことになるんだよ!』
『そうだぜ!この、この野郎が!』
酷い暴言だ。この野郎だなんて、とても許せる暴言ではない。
「君たち!そこで何をしている!」
俺は姿を現すと、果敢にも彼らにそう叫ぶ。
『ああん?何だお前、急に誰だよ』
男子たちは突然現れた俺を睨んでくる。威勢の良いヤンキーみたいな人たちだ。しかしここで引き下がるわけにはいかない。女子は助けを乞うような目でこちらを見ていた。
ガタイのいい男子の1人が、脅すように大声で叫ぶ。
『お前、もやしみたいな体しやがって。俺たちが誰だかわかってんのか?』
続いて、ガタイの悪い男子も叫ぶ。
『俺たちは、夜露死苦中学の、ヤンキーだぜ。てめえ、どこ中だったよ!!?』
そんな彼らに、ビータイガーが答える。
『ウ、ウガチュゥ』
!!?
男子たちの顔が途端に引きつり、真っ青になる。
『そ、そんなバカな、宇我中学と言えば、最強のヤンキーたちが集まる場所じゃねえかぁ…!』
『本当に宇我中なのかよ!?』
『ウガチュゥ』
『や、やべえ!おい、逃げるぞ!』
『サー!』
こうして男子中学生たちは、そそくさと退散していった。
「さて、これで一安心だ。ここで一体、何があったの?」
俺は優しく微笑みながら話しかける。まあマスクつけてるけど。俺から視線を外しているのは、おそらくシャイだからだろう。
『あ、ありがとうございました…。学校の友達と一緒にやってたんですが、あまりにも言い掛かりとかが酷くて、終いには攻撃までしてきて…。ジョブはモンクなのに、スキルツリーも無理やりこんなことに…』
その女子がボードをかなり斜めで見にくく見せてくる。そこに表示されたスキルツリーは変に偏っている上、近距離闘職なのに格闘系は取れておらず、弓術や建築に釣りなど、もはや適当に振ったとしか思えない構成になっていた。
ちなみにこのゲームでは、新しいスキルは自動で得たり熟練度が上がったりする一方、自分でスキルポイントを振って入手したり強化することもできるのだ。
よく見ると、スキルツリー自体も俺のと大分違うようだ。人によって選べるスキルも異なっているのか。こりゃ面白い。
「それにしても、こりゃあ酷いな」
『でも、本当に助けてくれてありがとうございました。全て虎さんのおかげです』
『ウガウガー (それは良かった)』
「え、俺じゃないの?」
『てめえは黙ってろ』
「えぇー」
『虎さん、何かお礼がしたいです。そうだ!私実はこの町のお店で働いてるので、良かったらそこでお礼させてください!』
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