19.昇格試験
俺はふと、ランクが(MAX)になっていたことを思い出す。
「そうだ。ランク昇格試験は、所属ギルドじゃなくても受けられるか?そろそろ寝たいから、短時間で済むなら受けたいんだけど」
『ああ、低いランクの試験ならすぐ終わると思うぞ』
「Eランク」
俺はランクだけを表示したボードを見せる。
『了解した。Eランクの昇格試験は、近接戦闘職なら、俺と一対一で戦い、一撃でも攻撃を当てられたら合格だ。はは、何なら今から受けるか?』
微かに笑いながらそう言った支部長に、俺は即答する。
「受ける」
『…え、本当に今でいいのか?左腕もげてるけど』
「うむ」
『…そうか。では、ついて来てくれ』
支部長は、ギルドのテレポートゲートの前に行って宙のボードを操作する。
『職員権限でゲートの行き先を小さな闘技場に設定して…と。よし、俺と一緒にゲートをくぐってくれ』
そうして俺は、支部長と共にテレポートゲートをくぐる。
…目の前には、周囲も天井も壁で囲まれた屋内に、小さな闘技場のような場所が広がっていた。
『よし。ではここで、俺と一対一で戦ってもらおう。全力で戦ってもらって構わない』
「え、いいのか?」
『ああ。ここは、ゲームの中のさらに仮想空間的な施設なんだ。ここでの怪我は引き継がれないしデスペナルティもない』
「へー、便利な場所だな」
支部長がアイテムボックスから鋼色の剣を出すと、構えて言う。
『さあ、武器を構えるんだ。君の実力、見せてもらおう』
「何かルールとかは?」
『…ない。何でもありだ。どんな方法を使ってもいい。それも含めて強さだからな』
「わかった」
ワールドゲームで対人戦は初めてだ。地味に緊張する。左腕はビータイガーに喰われたので、片腕しかない俺は、剣と盾の両方を持つことはできない。
『どうした?やはり片腕じゃきついだろう。試験は今度にするか?』
俺の考えていることを見透かしたかのように問いかけてくる。
「・・・いや、よく考えたら、何も問題はないな」
俺は右手に鉄の剣を出現させて装備する。
『はは、強気だな。しかし根拠のない自信は、常に死と隣り合わせの冒険者にとって、大きな弱点となる』
支部長はヒュンヒュンと華麗な剣さばきで空を切ると、一言言う。
『よし、試験開始だ』
支部長は俺に向けて剣を構える。まるで隙がない。おそらく、相当の剣士だろう。だが俺にも、まだまだ熟練度は低いが、先ほど手に入れたスキル、剣術がある。
手始めに俺は、支部長に片腕の剣で斬りかかる。スキルのおかげか、今までよりも思うように剣を動かすことができた。しかしいとも簡単にいなされ、すぐに反撃の刃が飛んでくる。
それを避けるために、俺は急いで下がり支部長から遠ざかると、即座にうずくまる。
『えぇ!?君!何をうずくまっているんだ!?』
「まさか反撃してくるなんて!ああ怖い!怖くてうずくまってるんすよ」
『君!冒険者として、それは弱いぞ!』
「…弱く見える…?能ある鷹は爪を隠すって言うじゃないですか。俺が弱く見えるなら、それこそ、俺の手のひらの上…」
などと訳の分からない言い訳をする。
『一体何を言っているんだ!もういい、俺は君への攻撃を再開するぞ!いいな!?』
(毒魔法発動〈毒針〉)
その瞬間、うずくまっている俺から支部長へと、裁縫に使うような細い小さな魔法の針が、真っ直ぐ飛んでいく。
『!!』
針が当たる目前のところで、支部長は剣でヒュンとその針を撃ち落とした。
俺は顔をあげて言う。
「マジかよ」
『中々の騙し討ちだったな!だが、まだまだ三流よ!〈付与魔法 剣強化 三重〉〈加速〉』
支部長の剣が魔力を纏い白く輝く。あれで斬られたら一たまりもなさそうだ。
その直後、数十メートルは離れていたはずの支部長が加速により一瞬で目の前に迫り、滑らかに剣を大きく振るう。
『さあ!この一撃から生き抜いて見せろ!』
支部長の剣が間近に迫る。避けるか、受けるか、どちらかを選択しなければ一刀両断されてしまうだろう・・・、普通ならばな。だが生憎俺は、普通じゃない。多分。
俺は、本来なら必要不可欠な行動、つまり避けるまたは剣で受けるのどちらも省き、支部長の斬撃を完全に無視して、右手の剣を横から振るう。
『正気かっ!?』
支部長の剣が猛スピードで迫り、俺を一刀両断…したかのように思えた。
俺の体に刃が当たると、ジジジジッと音を小さく響かせながら、表面を剣が滑っていく。
『何だと!!』
切ることができず動揺した支部長の左半身に、俺はそのまま剣をヒットさせた。
『くっ…、ご、合格だ』
「やったー」
見事に試験に合格し、Dランクに昇格することかできた。
だがまだ戦いは終わっていない。おそらく支部長にカラクリを聞かれるだろう。だが職業が盾術だということは、特にギルドには隠しておきたい。本当の戦いはここからだ。
『やるな…、見かけによらずやるじゃないか。それにしても、あの一撃を、どうやって無傷で耐えた?』
「・・・筋肉です」
『いや、君大して筋肉ないだろ』
「・・・我慢しました」
『いや、いくら痛みを我慢しても、切られてないのはおかしいだろ。魔法か?いやしかしそんな雰囲気もなかったな…。君は一体、何をした?』
「・・・友情パワーかもしれません。友の応援する気持ちが俺の力と共鳴を起こし、そして防いだ」
『君、何を言っているんだ。このゲームにそんなステータスはないぞ!真面目に答えたまえ!』
この支部長、予想以上にしつこい…。
「ああもう!うるさい!野暮なんだよっ!」
『な、な、何だと!?支部長に向かってなんたる暴言』
「人生は、何が起こるかわからないから面白いんじゃないか!?何でもかんでもすぐそうやって人に聞いて、そんなんで良いのか!支部長!」
『・・・ジーン』
支部長は感動したご様子で、目に涙を浮かべながら、静かに答えた。
『確かに、君の言う通りだ。どうやら俺は、少しばかり急いていたようだ。まさか私よりも少し若いであろう、君のような青年に気づかされるとは』
「人がしてきた経験は、それぞれ違いますからね。得意不得意があるように、長さだけでは測りきれませんよ」
『うむ、一理はある。ありがとう、青年。取り敢えず君は合格じゃ。君は今日から、Dランク』
「わーい」
こうして俺は、それっぽいことを言ってその場を凌ぎ無事に昇格したのだった。
それにしても、難易度Bのダンジョンの奥の方で採ってきたあの水色に輝く水晶を鍛冶屋で素材に使用したら、頑丈な盾は作れるだろうか。
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