17.深夜、地上


昼過ぎに漆黒の翼ポセイドンという名のチビスケと合流し、始まりのダンジョンにて夜遅くまで手伝ってもらっていた俺は、ようやくダンジョンでの戦闘を終え、共に地上へと戻ってきていた。


寝不足は健康にも悪いし。


ゲームとは思えない程、綺麗な夜空だ。草原、森、遠くに見える火山、景色はファンタジーだが、現実の深夜のように、少し肌寒い。


「今日はありがとう。チビスケ」

『礼には及ばないである。こちらも、興味深いものを色々と見せてもらった。そういえば、そのもげた左手は大丈夫であるか?』


そう、俺は今回の攻略中に左腕がもげた。


「ああ。ない腕が痛むが、これくらい必要経費さ。それに、ログアウトしてれば、このくらいの怪我はすぐ治るだろ?」

『まあ、そうであるな。死ななかっただけ、良しとしよう』

「じゃあ、もう遅いし、ここで解散するか」


チビスケは静かに頷くと、気配隠蔽を発動したのか、姿と気配がフェードアウトした。


「流石は最強の暗殺者だな。熟練度が上がった俺の気配探知でも、一切探知できないか」

『これでも暗殺界のトップなのでな』


そう言い残し完全に気配が消えた。


「じゃ、俺たちも帰るか。ウィンドギルドに。来てくれ、タイガー」

『ウガァァァァ』


俺はビータイガーに跨り、草原を駆け抜けて、始まりの町へと向かう。


「ていうか、速えな!」

『ウガァー』


高速で移動するビータイガーの背中に割と必死にしがみつきながら、宙のボードからステータスを一部確認する。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

[名前]凪

[職業]盾術

[レベル]15

[ランク]E(MAX)

[称号]盾の使い手、 正義の使者

[スキル]

気配探知、戦力測定、魔物図鑑、盾術・耐久、盾術・頑丈、剣術、アイテムボックス

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


[称号]

[盾の使い手]

盾の扱いが僅かに向上する

[正義の使者]

格下の魔物に対するダメージが僅かに増加


今日だけでレベルもかなり上げられた。レベルは体力や力や魔力などの基本的なステータスを上げてくれるから、ここまで上がれば、もしかしたら始まりの森のイノシシくらいは素手で倒せるようになっているかもしれない。


因みにレベルアップで強くなるのは、体力、攻撃力、防御力、魔力などの身体的な部分だ。他のゲームのようにレベルが上がって敵の動きが止まって見える、などということはない。現実的に考えて、それは人工的な脳の加速を意味する。恐らく仕組み的に危ないのだろう。結果的な素早さの上昇は、身体強化の副産物だ。


ギルドランクE(MAX)の意味が気になった俺は、ボードからヘルプを開いて、仕様を確認する。


[ギルドランク システム]

ギルドランクは、一定の貢献度を超えている状態(MAX)で、ギルドで昇格試験を合格することで一つ上がります。貢献度は、主に以下の条件で増減します。

+ 魔物討伐↑

+ クエスト成功↑↑

- クエスト失敗⤵︎⤵︎

- 死亡 ⤵︎⤵︎⤵︎


なるほど。つまり今俺は、貢献度が一定の数値を超えているから、ランクの昇格試験を受ける条件を満たしているって訳か。これは、早めに受けるべきだな。


「ビータイガーも、そう思うだろ?」

『ウー、ウガチュゥ』

「?」



しばらく進んでいると、空まで伸びた高い外壁で覆われた始まりの町の、出入口が見えてきた。


このまま始まりの町のゲートを通過すれば町には入れるのだが…、前にも言ったようにそれでは町が広すぎて中々ギルドに辿り着けない。そこで、ボートから通過した際の行き先をウィンドギルドのゲートに設定することで、即座に所属ギルドに帰れるという訳だ。


…ん、そういえば、ビータイガーはどうやって連れて行けばいいんだ?ゲートは、自分自身の行き先しか設定できない。


パーティーメンバーなら各自設定すればいいし一緒に設定もできるし、召喚士の魔物はなんか出し入れできるから行けるけど、ビータイガー…、こいつどうしよう。


「おい、ビータイガーどうやって行こう?」

『ウガァ? (は?俺行けないの?)』


困ったな。こうなったら、一か八か試してみるか。


「なぁ、今からパーティー招待してみるから、承認してくれ」

『ウガァ (お前何言ってんの?いきなりそんな事言われても、わからないんだけど)』


[付近の招待可能プレイヤーを検索しています・・・]

・・・・・・


「…ダメだ、全然ビータイガーでないわ。よく考えたら当たり前だけど」

『ウガァ (当たり前なのにやらせたん?何やってんの?)』


「困ったなぁ。このままゲートくぐれば一緒に町に入れるだろうけど、始まりの町広すぎるから、ウィンドギルドまで遠いよなぁ…」


そう言ってため息をつくと、ビータイガーが俺の前に移動してきて、背を屈めた。


「ん?何だ?背中に乗れってことか?いや、テレポートできないと、ギルドまで遠すぎるんだ」

『ウガァ (いいから乗れや)』

「まさか、走って行く気なのか!?」

『ウガァウガァ (我は、速いぞ。お前が進んでるかすらわからないようなノロノロカタツムリだとしたら、我は目にも留まらぬ速さの、高速魔導列車だ)』

「うーむ、何言ってるかわからん」

『ウガァ (もういいわ)』

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