12.始まりのダンジョン

『そこまでです。受付魔法〈受付スパーク〉!』

『うおっ!な、なんだ!?』


先ほどの受付の人が、怖そうな大人たちの付近に雷魔法の威嚇射撃をした。


ていうか、受付スパークってカッコ悪いな。絶対もっとかっこいい名前あっただろ。


『ギルド内での恐喝や戦闘は禁止されています。今すぐやめてください』

『何だと!?』

『スパーク!』

『ひっ』


受付嬢が再び雷を放つと、その瞬間目にも止まらぬ速さで怖い大人たちの周囲の床が焼け焦げた。


『くっ!今は逃げるしかねえか。てめぇら、覚えてやがれ!』


怖ろしい速度の魔法だ。あれほど速ければ、仮に俺が狙われたとしたら避けることすらできずにやられるだろう。


…そういえば、ヘルプに書かれていた気がするな。始まりの町の治安を維持するため、ギルド職員や受付嬢には強力な加護が付与されていると。


『そこのてめぇも、覚えてろよ!!』


怖い大人はそう言って俺の付近を指差す。


え?誰だ?俺は後ろを振り向く。


『違う!てめぇだ!』


俺か。


『スパーク!』

『ひぃ』


受付嬢の追い討ちを受けて、怖い大人たちはそそくさと退散して行った。受付嬢、ありがとう。


まあ俺は盾術だし、仮に殴られたりしてもあんま痛くないだろうけど。うーん、盾術のせいでこの程度の恐怖が鈍ってるかもしれない。


恐怖に慣れすぎるのは逆にデメリットにならないか心配だ。青いロボットもどこかでそんなことを言っていた。無論、恐怖で動けなくなるくらいなら無い方が良いだろうが。


『何で助けてくれなかったんだよ!』


先ほどの子供傭兵が俺の背後を指差す。確かに、他の冒険者たちは皆、トラブルが起きても見て見ぬ振りだった。俺も後ろを振り返って言う。


「そうだぞ。お前ら冒険者ども、少しは助けたらどうだ?」

『違う!お前だ!』

「え?俺?…俺は、どちらかといえば助けた方だぞ。無視しないでちゃんと諭しに言ったし。はい完全論破」

『うえーん完全論破されたぁ〜』

『?』




数時間後、昼過ぎ。


〜始まりのダンジョン 入口前〜


それは石造りの地下迷宮、苔の生えた外壁は、どこか古代を感じさせる。


俺は、始まりの町の最も近くにある始まりのダンジョンへとやってきていた。全ては、強くなるために。


「それにしても、本当に来てくれるとはな」

『待たせたである』


俺より少し背の低い暗色のローブを纏ったそいつは、気配探知と目視でギリギリ認識できるほど極端に薄い気配を纏って、俺の真横に現れた。


最強プレイヤーの一人、


「漆黒の翼、ポセイドン」

『その名で呼ぶな。人が集まる』

「…よく信じてくれたな」

『あの動画に合成の後は見つけられなかったのでな。俺はその職業に興味がある。最も、嘘であれば即キルだが』


「ていうか、漆黒の翼ポセイドンって何だ?ルシファーと海王神はどうした?」

『かっこいいのでどっちも入れたくて、半分ずつ入れたのである』

「…かっこ悪くね?」

『撃ち殺すぞ』

「え、怖い」



始まりのダンジョンは、入口付近は難易度Dなのだが、乗る所が木で作られた大きめのエレベーターで、難易度C、Bまでは一気に飛ばして攻略を始めることができる。また、エレベーター付近だけは安全地帯で、他の冒険者も結構いるようだった。


そして難易度Bと言えば、俺と石田を一方的に惨殺したCランク魔物ミノタウルス以上の強さの魔物がいる難易度ということだ。難易度の表記と魔物のランクは、大まかに一致している。一撃で死なないとはいえ、あの時の恐怖は今でも鮮明に蘇る。


いいや、これはゲームで、石田の件は現実なんだ。ゲームの魔物ごときで、ビビってる場合ではない。


洞窟のような入口を通り、始まりのダンジョンへと入る。周囲には、これから挑むであろう人々、PTメンバーを募集しているであろう人、そしてボロボロになって帰ってきた人など、沢山の冒険者で溢れていた。夏休みだけあって学生が多いようだが、老若男女問わず居た。


『ダンダン、グッドアフタヌーンユーチーブ!どうも、攻略男です』


あ、ユーチーバーみたいな人もいる。いつかチャンネル作ったら、コラボしてみたいな。


『フロアC、Bまで行く方は、こちらをご利用ください』


エレベーターが地下から戻ってくると、同乗していた係の男性がそう叫ぶ。それを聞いた俺たちは、他の冒険者と共にそれに乗った。ほぼ満員だ。


『それでは、下へ参ります』


ガタンガタンと静かな音を響かせながら、エレベーターはゆっくりと下降していく。


チリーンとベルのような音がなり、下降が止まる。


『フロアCに到着しました』


係の人がそう言うと、大半の人がそこで降りていき、エレベーターが一気にガランと空いた。しかし少し待っても、エレベーターは止まったままだ。


係の人と、目と目が合う。


『・・・』

「・・・」

『あの、フロアCに着きましたよ』


どうやら俺が降りるのを待っていたらしい。


「いや、俺はフロアBまで行くので」

『え??難易度わかってます?』

「え、制限あるんですか?」

『制限はないけど…』


すると、同じく降りずに残っていた他の冒険者PTの人も、俺に注意してきた。


『おいそこの革装備冒険者、お前も早く降りたらどうだ?俺たちはあまり気が短い方じゃないんだ』


あら優しい。

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