13.フロアB、洞窟

「それにしても、気が長い奴なのか?寛大だな。だが俺はここでは降りない。フロアBまで行くんだ」

『はw そんな装備で?本当にBに行くのか!?ハッハッハ!こりゃ泣けてくるねぇ!』

「…何だと?そんなに俺がフロアBに行くことが気に触るのか?それとも、俺に文句言って楽しんでるだけのヤンキーなのか?」

『違うね。本当に、心配で泣きそうなんだ、ううぅ。デスペナルティ一は一週間なんだぜ?そんなほぼ初期の武器と防具で、本当にBまで行く気かよ。そんなんじゃワンパンで死ぬだけだぜ…?同じ冒険者として、見逃せねえよ』


いや本当に心配そうな顔してた。ただのいい奴じゃないか、紛らわしいな。


「それでも、俺は、最強にならなくちゃならないんだ!」


そう言った直後、漆黒の翼ポセイドンこと漆黒が、真横で静かに言った。


『いつまでやっているんだ。眠れ』


漆黒がそう呟き、手元で何か魔法を発動する。


ピィィィンと音が響いたかと思うと、周りの冒険者たちが全員眠っていた。


「おま!何やった!?」

『安心してくれ。短時間眠らせただけである。一体いつまで話している気だ?下降しないなら、俺たちで操作すればいい。見ていた限り、レバーを下げるだけであろう』


漆黒が、係の人が操作していたエレベーターのレバーを下げようと後ろを振り返ったその時だった。


『…どうしました?』


係の男性は、漆黒の魔法を受けていないのか、全く動じずにレバーの前に立っていた。


漆黒の額に冷や汗が流れる。


『嘘だろう?効いてないのか?』

『…エレベーター内では、あまり騒がないでくださいね』


係の人から何かプレッシャーを感じる様だ。こいつ、只者じゃない…。直後、係の人が何かの魔法を発動した素振りを微かに見せる。


『!! ステータスがいとも容易く覗かれた!?』

『なるほど。会えて光栄です。そして貴方は、漆黒の翼ポセイドンさんと一緒に行くということですか、なるほど。それならば、フロアBに行くことも納得できますね。勿論制限は元々ありませんが。では』


係の人はレバーを下げて言う。


『下へ参ります』



チリーンとベルが鳴る。


『フロアCに到着しました』

「どうも…」

『貴方方が他の冒険者を眠らせるから、待たなきゃ行けなくなりましたよ。ハハハ』

「はは、ご愁傷様でした。ちなみに犯人こっちの人ですからね」


そう言って俺は漆黒を指差す。


『その通りである』


ほう。一介のEランク冒険者ごときにそんなこと言われれば反論してくるかもと思ったが、筋や信念は貫いてるって訳か。スナイパーだけに。


『そうですか…。では、お気をつけて』


係の人は話を軽く流すと、無表情で微笑みながら、俺と漆黒をエレベーターからフロアBへと送り出した…。



エレベーター付近は、おそらくだが安全地帯なだけに、冒険者もチラホラとたむろしていた。


それでも地上と比べて遥かに人数が少ないのは、重いデスペナと難易度の高さから、未だに一部の上級プレイヤーしか来ていないからだろう。


それにしても流石Bレベルの場所、その誰もが、見たこともないような強そうな装備をしていた。と言っても、俺が主に見たことあるの、皮防具とミノタウルスアーマーくらいだけどな。


周りを見渡す。どうやら幾つかに道が分かれている薄暗い洞窟のようだ。所々にある神秘的な水色半透明の水晶が綺麗に輝いており、多少の明かりになっているようだ。こういうの、とてもダンジョンって感じがして、マジインスタ映え。


近くには魔物はまだいないようなので、警戒しながら慎重に進んでいく。


「それにしても、係の人怖かったな」

『怖いとかのレベルじゃないのである。強すぎる。始まりの町の加護は、あれ程まで強力なのか。ところで、お主は先程から宙のボードを弄って何をしてるのだ』


ボードの操作を一旦やめ、漆黒の方を見て言う。


「お主じゃなくて、凪って呼んでくれて全然構わない」

『ふむ、では俺のことは何て呼んでもらおうか。ユーザー名では、有名すぎて人が集まってしまう』

「うーん、チビスケっていうのは、どうだ?」


瞬時に漆黒は、長身の銃を俺を狙って構えた。


『撃ち殺すぞ』

「お、落ち着け!何か誤解してるんじゃないか!?ボードに書くから見てくれ!漢字はこれなんだ」


[血尾須蹴]


『…なるほど、かっこ良いであるな』


何だこいつ、チョロいな。


それにしても、気づいたら銃口を構えられていた…全く、怖ろしい速さだ。


「でな、俺はボードからネットに繋いで、俺のインスタアアカウントのフォロワー数を見て悩んでたんだ。俺は、インスタグラマアだからな」

『確かにこのご時世、普通にやってても、有名になるのは難しいであろうな』

「逆だ」

『逆?』

「…親友の召喚獣、ネズミーマウスが大炎上してるから、どうすれば良いか困ってるんだ」


そう言って、俺はチビスケにアカウントを見せる。


『…あのな、盾術であることは隠してるのだろう?ならば、今すぐこのアカウントは削除しておけ。インスタアの動画内で吹っ飛んだお前を、見る奴が見れば、確率は低いが職業盾術による不自然さがバレる可能性がある』

「ほんとだわ、消しとこ」


こうして俺は、元インスタグラマアになった。これでもう安心だね。

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