٩ʕ•͡וʔ۷ナギヘン🖥

11.大型報酬

翌日の早朝。



結局、石田からライーンの返信が来ることはなかった。


今はもう、何もやる気が起きない。消えた東京に、現実感がなさすぎた。…そしてもう一つ、石田の事に比べれば些細すぎて見失うくらい些細な事だが、ワールドゲームにアップデートが来た。多くのプレイヤーからは、改悪アプデと呼ばれているらしい。


…今さっき何もやる気が起きないとは言ったものの、ワールドゲームの世界は気分転換になるし、意外と休めるかもしれない。


そう思った俺はVRゴーグルを装着し、1日ぶりにワールドゲームの世界へとログインした。



目の前に広がるは、ウィンドギルドの施設内の風景だ。石田はもう、横にはいない。石田の召喚獣ネズミーマウスにも、もう会えない・・・いやあれは別にいいや。


[アップデート情報 詳細]


俺は宙のボードをタップし、アップデート情報を閲覧する。


[デスペナ延長、ログアウト時自動回復速度低下、出店機能追加、ランク報酬追加、スキル追加…]


などなど、細かいところで少しずつ変更がされていた。中でも、出店機能は面白そうだ。どうやら、始まりの町で自分で店を出せるらしい。今石田がいたなら、きっと楽しかっただろうな。


そしてある一つの項目で、スクロールする手が思わず止まった。


「…大型報酬〈神の慈悲〉?ランク報酬でも追加されたのか?」


どうもこれだけでは漠然としすぎていて気になる。俺は大型報酬の詳細ページを見る。


[〈神の慈悲〉これは、ワールドゲームにて優秀なプレイヤーに与えられる一種のエンドコンテンツ的報酬。神の慈悲は、多くのどんな願いも一度だけ叶えてくれる。また、プレイヤーに次元を超えた強力な力を与える]


どんな願いも、だと?


まさか、巨万の富を手に入れることも、溢れんばかりの名声を手に入れることも、ネズミーマウスを動画に出すことも、出来るようになるというのか?


それともまさか、石田を助けることすら・・・可能なのか?


もし本当に何でも願いを叶えてくれるというならば、俺はどうしても神の慈悲を手に入れなくちゃあならない。


そこに石田を救える可能性が僅かでもあるというならば、俺は、このゲームで最強を目指す。



…でも見切り発車で目指すわけにもいかないので、一応運営にメールで問い合わせて聞いてみよう。


[運営様へ。凪というものです。今回のアプデの神の慈悲というのは、本当に何でも願いを叶えられるのでしょうか。それは例えば、現実世界で死んだ人間を、復活させることすら…]


[凪様へ。あのですね、現実的に考えてください。死者が生き返るわけないでしょうが]


[運営様へ。それもそうですね]



けれど、石田のことを諦めきれない俺は、再び質問する。


[では、消えた東京という大事件ありますよね。もし、神の慈悲を手に入れたら、あの事件の真相を教えてもらうことは、可能でしょうか]


ダメ元で送ったその質問。

数秒で返信が来る。


[現実で不可能でさえなければ、大抵の願いは叶えられます。回答 : 我が社のAIの自動判断システムによれば、それは、可能です]


可能!?



[ていうか、どうやったら神の慈悲を貰えるんですか?最強になれば良いの?]


[運営が全プレイヤーの中から選考しています。具体的な条件などはありませんが、ギルドランクや功績、戦闘能力は大きく貢献します]



なるほど。詳しくはわからないようだが、すべきことはわかった。


やはり俺は、このゲームでギルドランクS、つまり、最強を目指す。





ワールドゲームの世界は一言で言って、どこまでも巨大だ。始まりの町を中心に円形で、とても1人では探索すらしきれない程広大に作られている。


それもそのはず、社会現象ともなる程の膨大な数のプレイヤーが同時にログインし、ワールド中を冒険するのだ。引くほど広くなければ困るというもの。


そのおかげで、マップ内の大半は、全プレイヤーを合わせても未だに未探索エリアで埋め尽くされていた。


〜始まりの町 ウィンドギルド〜


「このクエストを頼む」

『えっ、これ、Bランククエストですよ…?本当に、良いんですか?』


受付嬢が、見下しているような、同時に心配しているような顔で俺を見てくる。


「大丈夫だ。問題ない」

『…で、では、Bランククエスト[始まりのダンジョン 深層ボス討伐]受け付けました。事前に受注すると、評価は上がりますが、失敗した場合は僅かな違約金が発生しますので、気をつけてくださいね』

「ああ、問題ない」


その直後、近くの方から叫び声が聞こえてきた。そちらを見ると、中学生くらいであろう子供が、凶悪そうな大人たち数人に囲まれていた。


『な、何なんだよ!俺だけのせいなのかよ!』

『ああそうだ。お前が最強なら、俺たちは誰一人危ない目に合わなかった。なあなあなあ、俺たちはお前が強いっていうからお前という傭兵を雇ったんだ。お前が一人で全ての魔物を、ちゃあんと倒してくれないから、俺たちは危ない目にあったんだぞ?』


真相はわからないが、先程から聞いている限り、どうやら大人たちはこの子供傭兵に対してかなりの無茶振りをしていたらしい。


マスクはそのままだが、鉄の剣、鉄の盾、そして革の防具を着た俺は、果敢にもその子供の所へと歩いて向かっていく。それに気づいたギルド内の他の冒険者たちは、微かに騒つく。


『なっ、何だてめぇ』


凶悪そうな大人たちも、俺に気づく。


「やあ、少年」


少年は、今にも泣きそうな顔でこちらを見てくる。


『だ、誰?』

「俺か?俺は、ただの通りすがりのインスタグラマさ」


俺は少年の方を見据えながら大人たちとの間に立つと、その場でしゃがむ。


『何だよてめぇ。これは、俺たちとそのガキの問題なんだよ!第三者がしゃしゃりでてくんなよ!』


「見たか、少年」


俺は落ち着いた表情で、ゆっくりと諭すように、少年に教える。


「これが、ネットの怖さだ」


俺はそう言って立ち上がり、その場を去る。



『ええ!助けてくれないの!?』

「何言ってんだ!俺はな、ほぼ初期装備だぞ!お前の方がどう見ても強いんだよ!その経験は次に活かせ、少年」

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