10.最寄りの駅から

「結衣さん、ごめん。佐藤たちと行っててくれ」

『え、どうしたんですか』

「石田の家がある」


のんびり話してる場合じゃない。俺は宙にボードを開きゲームからログアウトし現実世界に戻ると、急いでスマホで石田の家に電話をかける。


・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・


しかし、幾らかけても石田の家には繋がらない。


もはや居ても立っても居られなくなった俺は、直接石田の家へ向かうことにした。石田の家には、過去に何回か行ったことがある。電車で数駅の距離の筈だ。実際その場所に行けば、本当にいなくなってしまったのか、答えがわかるだろう。


…畜生。何で、どうしてこんなことになったんだ。突然、消えんなよ石田!一体東京のあの場所で、何が起きた。


ああ、くそ、石田石田石田石田石田!


俺はスマホに財布、最低限の手荷物だけ持つとアパートの2階の部屋から出て通路を駆ける。


『あら、凪さんお早うございます』

「石田石田石田石田石田」

『え、あの、大丈夫ですか??』

「石田石田石田石田石田」


アパートの階段を急いで下ると、最寄りの駅へと走った。


俺の生活は、事件とか災害とかそういうものからは程遠いと思ってた。でも、そんなことはなかった。身近に起きてないから実感がないだけで、そいつはいつも隣で寝てるんだ。


そうだ、虫歯も悪化してからでは遅い。今度歯医者行こう。


数分で最寄り駅に着いた俺は、駅のホームの電光掲示板を見て焦燥する。


[線路の一部が消えた影響で、現在運転見合わせ中]


ここであらためて俺は、あれが現実なのだと実感した。あの写真は合成なんかじゃない。紛れもなく本物なのだ。


くそ!こうなったら走って行くしかない。ここから電車で…2駅なら、走れば20分くらいで行けるだろう。まずは駅から出なければ。


『うっ!いってえな!おいお前、前見て歩けよ』

「石田石田石田石田石田」


『きゃ!いきなりぶつかってこないでくれる!?』

「石田石田石田石田石田」


『おいそこの君!駅で走らないでください!危ないですよ!』

「石田石田石田石田石田」


俺はようやく駅から出ると、線路沿いを目安に石田の家へと全速力で走る。


お願いだ、生きててくれ、石田!


根拠もなくただ、そう願う。



それから約20分後、俺は石田の家の最寄り駅へとやってきていた。


昔遊んだ時の記憶から、どうにか石田の家への道を思い出す。辿れば少しずつ思い出ていく、懐かしい道だ。


「確か、あっちだ」


俺は石田の家の方へと走る。まだ石田が消えたとは思えない自分がいる、ひょっとしたら偶然コンビニ行ってたとか、既に避難してたとか、石田は巻き込まれてないんじゃないかという希望を胸に抱いて。



だが、現実は非情にも残酷だ。石田の家へと着く前に、ただ広いだけの円形の更地の前へと着いてしまった。いるのは大勢の野次馬たちだけ。円の中には、調査に来たであろう一部の人たちを除いて、本当に、誰もいない。


「嘘だろ、石田…」


俺はその場で膝から崩れた。そこはもう、半径50m程の広大な更地で、微かに残っている数件の家々は、もはやボロボロで風化している残骸だった。


テロ?災害? それは、俺が知っているどれにも当てはまらない風景。


『あ、君!その立ち入り禁止テープから先は、入っちゃダメだよ』

「あの、昨日の、夜?これが起きるときに、事前に避難してた人と、か、いませんか」

『…どうも突然だったらしくてね。今のところそういう話は、一切聞いていない…』

「石田…」


石田、お前は、どこへ行った?

本当に、消えたのか?


『まんじ』


今もどこからか、そんな石田の声が、聞こえる気がしてならないんだ…。






[ワールドゲーム緊急アップデート]

[プレイヤー数増加に補うバランス調整、デスペナルティのログイン不可期間を7日間に延長etc]

[大型報酬追加〈神の慈悲〉]

・・・・・






[新着スレ ワルゲー改悪アップデート その内容を聞いた俺氏の涙が止まらないww]


[お前ら、このアプデについてどう思う?最悪じゃね?]

[正直クソだ。ただでさえデスペナ3日は長かったのに、一週間とか長すぎて大草原不可避]

[このアプデは意味不]

[死ななきゃいいだけでは?]

[そういう問題じゃねえよ]

[これはゲームだぜ。プレイヤーのことを全く考えてないゴミ運営]

[早速死んだ…]

[一週間ログイン不可乙]

[つら]

[(´;︵;`)]

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