9.待ち合わせ
『来たぞ明智!お、凪もいるのか』
『おはよう佐藤。今さっき偶然会ってさ』
声の主は佐藤だ。他にも以前俺のレベルをバラした悪い魔女と、この前レベル1のままって言われてた女子、後は見知らぬ白いローブの魔導士が居た。
「何だ、佐藤たち揃いも揃って、5人でパーティー組んでクエストでも行くのか?」
『ああその通りだ。そういえば、復帰おめでとう。ミノタウルスにやられたんだって?流石は、凪だなw』
何だ?朝っぱらから、嫌味でも言いに来たのだろうか。
『そして聞いて驚け。凪、お前がいない間に、俺たちはギルドランクがDになったぞ!ww』
「わあ」
『さらに!俺たちが着けてるこの防具、何だかわかるか?聞いて驚け!なんとこの防具はな、一式あのミノタウルスアーマーだぜ!?』
「わあ」
『どうだ、すごいだろw』
「わあ」
『・・・おい明智、なんか、凪の反応が実家のカルピスくらい薄いんだが、何でだ?』
『俺たちのランクとか装備とかその辺のことは、もう俺が全部話したよ』
『先に言えよ』
「それな」
佐藤は、ふぅとため息をつき近くの椅子に座ると、再度俺に話しかけて来た。
『で、凪は、こんなところで1人で何やってたんだ?』
「石田を待ってる」
『また2人でやんのかよw まあいいや、俺たちはクエスト行ってくるわ』
そう言って、4人を連れて去ろうとした時、明智が言う。
『おい佐藤、流石に凪が可哀想じゃないか。そもそも最初にたった2人、しかもタンクと召喚士を組ませた俺たちも悪かったんだよ。仲間に入れてやろうぜ』
流石、ギルド登録する時『俺は聖騎士。剣と盾でみんなを守るんだ』とか受付嬢に言ったら『そうなんですね〜』と軽く流されて、ちょっと気まずくなってただけはある。明智は真っ直ぐで、正義感のある奴だからな。
そんな明智の提案を、佐藤は拒む。
『はぁ?あいつら防具すらまともに着てなかったし、凪に至っては武器すら持ってなかったんだぞ?それにな、俺は勇者だ。勇者である俺に、逆らうのか?』
『くっ』
だからくっじゃねえよ。勇者だから偉くなるのは漫画の中だけだろ。だがどちらにせよ、俺は佐藤たちと一緒に行くつもりはない。
「明智。別にいいさ」
俺は立ち上がり、佐藤たちに言い放った。
「俺たちは、石田と2人で狩る」
『ああそうか!w 精々頑張れよw』
『凪…』
俺は憐れまれて仲間に入れてもらうつもりもない。それに、悔しいが佐藤の言うことは一理ある。
きっとここで俺が参加すれば、佐藤だけでなくパーティーの他のメンバーにも迷惑をかけてしまうだろう。
理由は明白。まず、職業[盾術]の戦い方をまだ確立していない。もう一つは、今の俺は、初期装備のただのお洋服を着て、顔には顔バレ防止のために買ったマスクをつけ、剣も盾も失い持ち物は撮影用カメラだけという、明らかにただの不審者なのだよ。
…なので、主に女子たちからの、まるで不審者を見るかのような視線が痛い。今も。
「だからおいとまさせてもらう」
俺は佐藤たちに背を向け、その場を去った。
それから見えないところまで行き、再び椅子に座ってライーンを開く。
「それにしても、石田のやつ、遅いな」
『ほんとですよねぇ』
「!??」
ふと前を見ると、テーブルの反対側の椅子に、佐藤パーティーにいたような気がする、ふわふわしたミディアムな金髪の明るそうな女子が座っていた。
「ええと、どちら様でしょう」
『えー覚えてないんですか!同じライーングループで佐藤パーティーの、結衣ですよ』
「結衣さん、こんにちは」
『こんにちは〜。で、貴方はどちら様?』
覚えてないんかーい。
「俺は凪だ。佐藤がよくナギナギ喚いてるだろ」
『あー、言われてみればそうですね。あの勇者は、いつもナギナギ喚いてますね。で、一体どうしたんですか』
「どうもこうも、石田とここで待ち合わせしてるのに、全然来ないし連絡もつかないんだ」
『寝坊では?』
「律儀で時間に厳しいあの石田に限ってそんなこと…なくは、ないのかな?」
『知りませんけど笑』
結衣は少し困ったような顔で軽く微笑んだ。俺も微笑み返すが、マスクしてるので意味ない。
「何か事件とか事故に巻き込まれたりしてなきゃ良いけど…」
そう言った俺を見て、結衣はそう言えば!といったような顔で話しかけてきた。
『あ、事件といえば、知ってます?いやまあ石田さんとは関係ない話ですけど、朝方からツイッタアに上がってきてるニュースで』
そう言い、結衣はポケットからワルゲーと連結したスマホを取り出して画面を見せたきた。
人気タグは、一つの事件を示していると思われる多数のタグで埋め尽くされていた。
「…消えた町?」
『凪さん知らなかったんですか?』
「起きてすぐログインしてサンドイッチ食ってたし。で、何だこれ」
『町中に、夜のうちに半径50mほどの巨大な円形の更地がいきなり出現したんですよ。行方不明者も出てるらしくて、結構やばいみたいです』
「え、現実?」
『東京です…』
「ちょ、スマホ貸して」
『えぇ』
俺は半端無理やり結衣のスマホを奪い取ると、ニュース記事から事件現場、更地の画像を探す。
そして、遠目から撮影された画像を見た俺は、全身から一気に血の気が引いた。
『凪さん?どうしました?』
…消えた東京、夜が明けると更地になっていたその場所は、俺の記憶が正しければ、石田の家があった場所と、丁度重なっている。
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