4.始まりの森
前々から思ってたことがある。よく横暴な勇者が我儘でパーティーメンバーをクビにするみたいな流れがあるが、そんなブラックパーティーはどっちにしろ早く辞めるべきだろう。稀に他のメンバーが引き止めたりもするが、横暴な勇者がいるんだから早くみんなでこっち来いって話なんだ。
という訳で、俺と石田は2人でパーティーを組み、再びウィンドギルドへやってきて色々なクエストを閲覧していた。
俺たちの現在のウィンドギルドのランクはEランク。つまり、適正クエストレベルはEなのだが、選べるクエストに制限はない。デスペナルティは存在するが、それでも現実で死ぬわけではないのだから、納得ではある。
因みにランクを上げると、色々と優遇されたり報酬があったり新機能が解放されたりはするらしい。
俺と石田はEランクボードに貼られた数え切れないほどのクエストを一つずつ眺めていく。
[E 草集め 始まりの草原で草を集めよう 依頼主WG]
[E 始まりの森で魔物討伐 依頼主WG]
[E 蜂蜜集め 始まりの森で蜂蜜を集めよう 依頼主くまさん]
GWとはウィンドギルドの略称である。ていうか依頼主にくまさんがいる。まあ依頼は報酬を用意してギルドに申請すれば誰でも出せるらしいので、別におかしな話ではないが、随分と前衛的なくまさんだ。
『迷うな』
俺はステータス画面を開き、ヘルプからクエストの仕組みについて調べる。どうやら、後からの受注でも、討伐記録を見せたり討伐部位を納品できれば問題ないらしい。
「何ならクエスト受けなくても、魔物倒して素材集めたりレベル上げたりして、合うのがあれば後から受注でも良いらしいな」
『そうなのか!じゃあ、もうこのまま始まりの森行っちゃおうぜ』
ギルドには大きなゲートがあり、ボードで目的地を設定してくぐれば、テレポートできる仕組みになっている。今のところギルドからは、町の出入口にしか移動できないようだった。
なので、俺と石田は町の出入口へと設定してゲートをくぐった。
ゲートを通過すると、目の前には木々に草原、外の世界が広がっていた。背後には、始まりの町を囲う天高くそびえ立つ外周の壁と、通過してきた魔法のゲートがある。
「…それにしても、マジでこのゲームすごいな。リアルだし」
『わかる』
辺りには、他の冒険者たちも少なからずいるようだった。試しに他の冒険者にも声をかけてみる。
「すいません、冒険者ですか?」
『おお、新米か?まあ俺も新米だが、無論、俺たちは冒険者。俺の職業はモンクだ』
「へー、強そうですね。これからどこか行ったりするんですか?」
『ああ。俺たちはこれから始まりの森へ向かうところだ』
「奇遇ですね!何なら一緒に行きませんか?」
『断る』
「え!?どうして!?」
『…仮の話だが、これからモンスターを倒しにいくのに、防具は着てないわそれなのにマスクはつけてるわ武器も十分に持ってないような奴らと、一緒に行こうと思うか?』
「うーん、流石にそれは思いませんね。冒険者として基本がなってません。戦い舐めてんの?って感じです」
『そうか。ちなみに、それ、お前たちのことだ』
『「!!!」』
俺は石田と顔を合わせる。ああ、本当だ。これは断られても仕方ないね。
「ここが、始まりの森か…」
そう、俺たちは長い移動を経て、ようやく始まりの森の入り口へとやって来ていた。ちなみに移動中も、他の冒険者がいたり景色が綺麗だったりと、全てが新鮮で楽しめたので割とあっという間だった。
「ヘルプによると、デスペナルティは町を出てからゲットした全アイテムのドロップ、それから3日間のログイン不可、他にも経歴に傷がついたり、色々あるらしい…」
『は、重くね!?3日もログイン不可!?』
「だよな…これ、一回死んだだけでもかなり不味い」
『やべーよ。俺たち回復アイテムとかも買ってねーもん。ダメージ受けたら、隠れてその辺の薬草食べるしかないな』
「絶対死なないように気をつけるぞ」
『ああ』
しばらく歩き、俺たちは少しずつ森の奥へと進んでいた。未だに魔物は出ないが、先程から魔物の気配はしているため、そろそろ戦闘になるかもしれない。
気配と言えば、気配がわかるのが不思議だ。俺はステータス画面を開き、新規スキル一覧を見てみると、
[newスキル 気配探知]
と書かれていた。なるほど、このスキルのおかげだな。
『なあ凪、何か魔物の気配するだろ?だから、俺の相棒、先に召喚しておく』
「ほう」
『見てろ。そしておののけ。これが俺の最初の召喚獣だ!』
石田は以前相棒のことを、正直やばいと言っていた。これは相当期待できる。
石田が地面に杖をつくと、地面に円形の魔法陣が現れる。
『出でよ!』
魔法陣から魔力が溢れ出し発光する。
『闇のモンスター!ネズミーマウス!』
石田がそう叫ぶと、黒い魔力の闇に紛れて、全身真っ黒のシルエットの、二足歩行の人型ネズミが現れた。
『俺の召喚獣よ、こいつは凪、俺の友達だ。さあ、自己紹介しな』
『ヤア。ボク、ネズミー』
「…こいつ映しちゃダメじゃね?」
こうして、僕らの動画投稿者としての生命は幕を閉じた。
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