5.報告会

「確かにこいつは、やばいな」

『だろ?』

「まさかそっち方向のやばさとは思いもしなかったよ。しかし強さは申し分ないな」

『だろ?』


先程から、森の脇からイノシシやオオカミなどの小型魔物が出現しているのだが、石田のネズミーマウスが次々と俊敏な動きと力強い怪力で、敵を殴り殺している。


『お、レベル上がったわ。もう3になった』


それにしても、俺のレベルが上がらない。


「レベル、上がらねー」

『凪も戦闘に参加した方が良いんじゃないか?見てるだけじゃ、そりゃ上がらないだろ』

「剣買い忘れたしなー」

『冒険者やる気あんのか!』


防具やアイテムを買い忘れた挙句、何故かマスクだけつけているような奴にそれだけは言われたくない。あ、俺もだ。


「まあ確かに、盾しかなくても、出来ることはあるな」


そう、それは即ち防御だ。防御こそ最大の攻撃とも言う。取り敢えず木の盾を構えて、石田の召喚獣の援護に入るしかない。


俺は、次のイノシシ魔物の出現を見計らって前に出る。そして、イノシシの突進に合わせて、盾を突き出す。


「今だネズミー!」


イノシシが木の盾に衝突した直後、石田のネズミーがイノシシを真横から思い切り殴り殺した。一方、俺は突進の衝撃で弾き飛ばされていた。そう、俺にはなかったのだ…、体幹がまるで。体幹鍛えたことないからなぁ。


直後、地面に横たわっていた俺に、微かに経験値が入ってくるのがわかった。及第点ではあるが、一応これで俺もレベル上げが出来ることが証明された。一先ず安心というところだ。


『凪、いいぞ!』

「…ありがとう」


そう言って石田の方を見ると、石田はカメラを見ていた。ん?


「まさか、撮ってたのか!?」


勝手に撮られていたことに少しの不快感を覚えるも、対照的に石田は凄いものが撮れたと言わんばかりの顔をしていた。


「すぐ見せろ」


俺はカメラを覗き、先ほど撮影された動画を見てみる。


そこには、イノシシが突進してきて、マスクをつけたノー防具の不審者が派手に吹き飛び、人型マウスが魔物を殴り殺す動画が撮れていた。とにかく、カオスで凄かった。


『凪、お前すごいぞ!こんな派手に吹き飛べるなんて!これはかなりの動画映え、いや、インスタ映えだよ!』


こうして俺たちは、インスタグラマアになった。



俺と石田は、再びウィンドギルドへと戻ってきていた。しばらく魔物狩りをしたので、一度集まって進捗を確認し合おうということになったのだ。ちなみに、ワールドゲームとライーンを連携すれば、ゲーム内でライーンを使うことができるので、最低限の連絡はそれで取っている。


『全員集まったか!それぞれの報告が大いに楽しみだw』


佐藤が大声でそう言った。正直、今の段階で俺と石田は舐められているだろう。だが、俺たちの進捗を聞けば、きっと驚くに違いない。


『では、俺たち聖騎士パーティーから報告させてもらう。俺たちは、お互いの能力を確認しながら、始まりの草原で魔物狩りをし続けて、全員レベル3になった。パーティーのバランスもかなり良かった』

『さすが聖騎士パーティー、やるな。じゃ、次は俺様、勇者パーティーについて報告させてもらおう。俺たちは明智ズと違って、始まりの森で魔物を倒しまくってレベル上げをした』


始まりの森…、俺たちと同じ場所で戦っていたのか。


『結構強いイノシシの魔物もたくさん出てきたが、4人で上手く協力して見事何体も倒した!そして俺たちも全員レベル3になった!いや…、1人だけレベル1のままの奴もいやがったな…結衣』

『ごめ』


そう言われて謝ったのは、結衣という人らしい。


『これから頑張っていけば別に良い。さて、凪、石田。さっさと報告してもらおうか!』


侮ってもらっちゃ困る。正直驚くぜ。俺たちの戦果。


「俺たちは、佐藤たちと同じく、始まりの森で魔物狩りをし続けた」


ざわっとあいつらが騒めく。


「勿論、俺たちはイノシシみたいな魔物も沢山狩った」

『ふ、たった2人で!?』

「ああ。石田、レベルを言ってやれ」

『俺のレベルは…、5だ』

『5だと!?』


これには、ギルド内の近くにいた他のプレイヤーたちも少し驚いているようだった。このゲームは意外とレベルが上がりにくい。既に5というのは、かなり早い部類なのかもしれない。


その時、明智パーティーの魔女らしき人物が、何かのスキルを発動したかと思うと、俺のステータスボードのレベルを覗かれた感覚があった。


『明智さん。あの凪さんって人、レベル1のままですわ』


勝手にバラすな。

それを聞いた佐藤が、大笑いする。


『はっはっは!そりゃ傑作だ!エリートにも石田はレベル5になったっていうのに、凪、お前一体石田の横で何をやってたんだよww』

「くぅ」


俺は何も言い返せなかった。というかレベル1のままなのだから、何をやったと言っても嘘扱いされるだろう。


『石田もさ、そんな足手まといとパーティー組んでないで、勇者パーティーに来いよw』


僅かな沈黙の後、石田は静かに答えた。


『その誘い、断らせてもらう』

『…は?何でだよ?』

『何故かって?』

「俺は、いや」

『俺たちは』

「インスタグラマアになったからだ!」

『』

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