3.冒険の準備

ようやくみんなのギルド登録が完了した。皆が集まったのを見計らって、佐藤が言う。


『よし!じゃあ全員で武器屋とか防具屋に行って、装備を揃えるぞ!』

『わかりましたわ』

『り』


『そういや凪、登録どうだった?』

「タンクって言っといた。バグ修正とかで何日もプレイ出来なくなったりしたらまずいしな」

『ナイス判断』


そんなことを話しつつ、俺たちはギルドを後にして、先ずは武器屋へと向かう。


・ ・ ・


『いらっしゃい』


ここはウィンドギルドから最も近く、且つ始まりの町の中でもかなり大規模と噂の大型店である。この店だけで武器や防具、様々なアイテムなど幅広く扱っているようだ。


そこら中に、かつてどんなゲームでも見たことないほど大量の武器や防具が並べられていた。何よりVRなので迫力があった。


『先ずは武器でも買おうぜ』

『ええ、そうしましょ!』


男子だけでなく、女子たちもかなりテンションが上がっているようだ。俺も例外ではない。世の中のありとあらゆる武器がズラリと並べられており、それはもう凄い迫力なのだから。


『よし!俺様は勇者だから、強そうな剣と盾を探してくるぜ』

「俺は取り敢えず、盾でも買うか」

『あーお前はタンクになったんだっけかw タンクって武器使うんか?』

「わからん」

『盾しか買わないなら余ったゴールド俺に寄越せよ。パーティー組んで助けてやるからさw』

「…うーん、考えとくわ」

『あーそうw』


そんなことを言いながら、佐藤は近くにいた店員や男子や女子たちと、店の奥の方へ行ってしまった。


…一先ず、俺と石田は置いてかれたようだ。それにしても、よくいるよな、ああいう奴。自分が勇者だからって、メンバーを見下してくるような奴さ。


「なあ石田、あんな勇者、ほっとこうぜ」

『凪タンクだろ?どうせ盾しか買わないなら余ったゴールドくれよ。俺が助けてやるからw』


こんなところにもおった。


「石田は召喚士でしょ?俺用の盾とか召喚士の杖とか見に行こうぜ。」

『おけ』



うーむ、よくわからないな。どれを買うべきなのか迷う。


木の盾から青銅の盾、鉄の盾、黄金の盾、エメラルドの盾など、盾だけで一日中楽しめそうなほど豊富な品揃えだ。


「いしだ」

『ん?』

「いや、石の盾な」

『は?』

「うん」


俺の所持金は1000G。木の盾は300Gとかなり安いが、鉄の盾などは800Gくらいしたりする。まあ、最初は木の盾で別に良いか。


「木の盾にするわ」


その時、石田が尋ねてきた。


『なあ凪、あれ、カメラか?』


石田が指す先には、小さめのカメラが販売されていた。


「ああ。ゲーム内でカメラを使って動画を撮ると映像が保存できて、それをこのゲームと連携してる動画配信サービスに投稿して、ゴールドを稼げるシステムとかもあるらしいよ」

『マジか…。ちょっと面白そうだから、カメラ買ってみない?500Gだから、半分ずつ出してさ』


確かに良いかもしれない。それにリリースされてからまだ全く日にちも経ってないし、このタイミングならまだ動画も伸びやすいかもしれない。


俺と石田は、250Gずつ出して、カメラも買うことにした。


「そうだ!石田!動画出すならマスクも買え!佐藤たちにバレたら、何かと恥ずかしいかもしれないぞ!」

『言われてみればそうだ!店員さん、マスクも買います』

『はい。二次元マスク7枚入りで20Gです〜』


マスクも割り勘だから、俺の所持金は残り440Gだな。石田は740G。


「そういえば召喚士って、最初は何を召喚できるんだ?」

『召喚士の面白いところなんだけどさ、召喚士を選んだ人は最初、強さは下級レベルからだけど、自分のイメージで相棒的なモンスターを作れる仕様らしいんだよね』

「何それめっちゃ面白いな!」


それは初耳だ。最初のパートナーを自分で作れるとか、最高に面白いじゃないか。バグってる盾術なんてものがなかったら、おそらく俺も召喚士を選んでただろう。召喚にはロマンがある。


「で、どんなモンスターにしたんだ?」

『それはもう、正直やばいぜ?俊敏で怪力な闇のモンスターさ』


ドクン。そう言った自信に満ちた石田の顔を見て、これは期待できるなと心から感じた。


「そうか。楽しみにしておくよ」


そうして石田の召喚士の杖もなんやかんや購入し、佐藤たちを探した。



それからしばらくして、ようやく佐藤たちと合流することができた。初期っぽさはあるが、彼らはそれぞれ職業に合った武器や防具を身につけていた。先ほどとはまるで見違えて見える。…ん?武器や、防具?


『凪、石田…お前ら、見違えたな』

『見違えたというか…、防具はどうしたんですの?』


しまった。佐藤たちはまるで冒険者、万全の武器に防具にアイテムポーチを装備している一方、俺たちは初期のただの服に木の盾と杖だけを装備し、何故かマスクをつけてカメラを持っているという、冒険者としてあるまじき方向に見違えてしまっていた。


「防具…、忘れとった」

『どわはー!こいつは傑作だ!まさか冒険者として最低必需品である防具を買い忘れるなんてなぁ!』

「…待て石田。お前も防具買ってないんだから、お前はそっち側じゃなくてこっち側だろ」

『すまん』


『はあ、お前ら何してんだよ。まあ、買ってないものは仕方がない。タンクにはそれが″お似合い″だ!』

「くっ」

『佐藤もいつまでもそんなこと言ってないで、早くパーティー組んでクエストやろうよ』


いつまで経っても進みそうにないので、明智が佐藤を急かす。


『おっと、そうだな。で、パーティーはどういうふうに組んだら良いんだ?』


その質問に、明智が答える。


『勿論人数は多い方が有利だけど、経験値はその名の通り経験だから、当たり前だけど、人数が多すぎると経験値が減るっていう噂もある。だからワールドゲームでのパーティーの人数は、4人が一番丁度良いって言われてる』

『…4人か。俺様たちは今10人だから…』

『4、3、3が丁度良いのではないでしょうか??』

『…いや、4、4、2だ。どこかの2人に合わせて、わざわざ3に減らすことないだろ。それに、これは勇者である俺様が決めたことだ』

「くっ」


いやまあ面倒くさいから「くっ」とか言っといたけど、別に勇者が一番偉いわけではないだろう。


『異論はないな?では、一つ目のパーティーは勇者である俺様をリーダーに、二つ目のパーティーは聖騎士の明智をリーダーに。そんで、三つ目は…』


嫌な予感は的中した。佐藤のやつ、タンクだからって俺たちをハブる気だ。わざわざ佐藤に言わせるまでもねえ。


「わかってるよ佐藤。三つ目のパーティーは、俺をリーダーに石田と2人、だろ?」

『なんだw 物分かりが良いじゃないかww』


しかし、タンクと召喚士では、かなり偏っているようにも思えるが、実際戦えるだろうか。


そう思った矢先、石田が声を上げた。


『そんなのっ!絶対認めねえ!!』


…わかる、わかるぞ石田。勇者だからって偉そうに振る舞い途端に俺たちを見下す。そんな佐藤が俺たちに2人でパーティーを組めというのだ。認められない気持ちは、十分わかる…。でも俺たちに勝ち目はないんだ。奴は、陽キャなんだ。


『…そんなの、認めねえよ!凪が、凪が三つ目のパーティーのリーダーなんてっ!!』


ああ、そっち?


「じゃあ石田がリーダーで良いです」

『やったー』

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