2.ギルド登録

そんな会話を聞いていると、背後から声をかけられた。


『おーい凪!来たぞー』


振り返ると、待ち合わせをしていたライーングループの人たちがもう集まっていた。俺に声をかけてきたのは、多分友人の明智だ。


「来たぜ。明智は職業何にしたの?」

「俺は聖騎士さ。剣士はかっこいいからな。もし凪の職業があんま使えなくても、協力して頑張ろう」


ジーン、なんて良いやつ、明智。


合流予定の10人が揃うと、ライーングループのリーダー格の男、佐藤が大声で言う。


『よし、集まったな!先ずはギルド登録してカードを作ろうぜ!各々受付へ行って登録して来るように!凪も、頑張れよww』

「…ああ」


どうして笑ってられるのだろう。社会現象にもなっているこの最強のゲームで、職業が一生盾術かもしれないんだぞ。友達なら、ここは一緒に泣くべきところだろう。



『貴方の職業を教えてください』

『俺は聖騎士。剣と盾で、みんなを守るんだ!』

『はい〜、そうなんですね〜』

『…』


何だあのぎこちない会話。


『では、魔力測定をするので、この体温計みたいなやつに手を触れてください』

『何だ?魔力測定って、よく小説とかで見るような、水晶ではないのか!?俺はあれを楽しみにしてたんだぞ!?』

『あれはですね、危ないんですよ。だってあれ大体最後割れるじゃないですか。あれ割れた時、破片が割と勢いよく飛び散るので危ないんですよ。だから安全のために小型化したんです。それにこちらの方がわかりやすい』

『そうでしたか…』


ゲームなんだから破片無くせば良いだろと思ったが、それだけこの世界が物理法則に則ってリアルに作られている、ということかもしれないな。


あちらでは佐藤が登録をしている。


『貴方の職業は何ですか?』

『俺様の職業はなぁ、勇者だ!』

『勇者ですか!珍しいですね』

『はっはっは』


どうやら勇者は割とレア職業らしい。近くにいた他の受付嬢や冒険者たちも驚いていた。


その時、俺の真横を通り過ぎ、受付に向かおうとしていた石田の肩を掴んで止める。


「待て石田」

『何だよー』

「その脇に抱えてる[武器屋]って書かれた看板は、置いていけ」

『何でだよー』

「それ持ってくと、犯罪者認定されて、ギルドに登録できなくなるぞ」


それを聞いた瞬間、血相を変えた石田は[武器屋]と書かれた看板を地面に投げつけ、両足で交互に勢いよく、バキバキバキッと踏みつけた。周囲に板が砕ける音が響いた。


『!?冒険者様!一体どうしましたか!?』

「あー、大丈夫です。木の盾をバキバキにして、耐久度を確認してただけです~」

『そうです~』



それからしばらくして、俺も登録しようとしたその時、すぐ隣の受付でまさかの言葉を聞くことになった。


『あの、すいません。私、御都合という者ですが…』

『はい、御都合さんですね。どうしましましたか?』

『実はバグか何かで、職業選択していないのに、ここまで進んでしまったんです』

『あら…誠に申し訳ございません。それは、バグですね。今すぐ上に連絡して、早急に修正させていただきます』

『どのくらいで直りますか?』

『うーん、数日で直るでしょう』


この言葉を聞いた時、俺はショックを受けた。ただ職業を選び損ねたバグを直すだけで、数日かかるだと?発売直後、夏休み、友達と同時スタート。ここで数日プレイできなくなることは、割と死みたいなことを意味する。友達とレベル差も出来てしまえば、パーティーも組みづらくなるだろう。これは…、俺の職業がスキル名、即ち盾術だとバレる訳にはいかなくなった。


でも盾術って言ったら何て言われるかも気になるので、最初一言だけ言ってみよう。



「こんにちは」

『こんにちは。職業は何ですか?』

「私の職業はですね、えー、盾術」

『盾術?それスキル名ですよね?読むところ間違えてますよ?スキル一覧のスキル名ではなく、ステータス画面上部に書かれている職業名を述べてください』

「…盾術」

『お客様!ふざけてるんですか!?職業名を述べてください!!』


こいつ今、お客様って言ったぞ。お客様ではなく冒険者と呼ぶべきはずだが、きっと現実で接客業をしていて間違えたのだろう。


『おきゃ…冒険者様!後ろを見てください!貴方の後ろ、冒険者たちの長蛇の列ができてるんですよ!!』


後ろからは、ぶーぶーとブーイングの嵐が鳴り響いていた。


『俺たちも早く登録させろー!』

『登録くらい早くしろー』

『ぶっ殺すぞー』


なんだこれ。こわ。


「…あ、すいません。タンクでした」

『はい、タンクですね。登録しておきます。こちらがギルドカードになります』


受付嬢は俺の目の前のカウンターに、ギルドカードを投げつける。


「ありがとうございました」


そう言って、カウンターを後にする。後ろに並んでいた他の冒険者からの視線が痛いが、俺が盾術になってしまったのは、運営のせいなので気にしない。



ちなみに後から忘れられてた魔力測定をしてもらったところ、魔力量はCだった。

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