第14話 思出話

 12/24 木曜日


 俺達クラスの半分は無敵むてき 美晴みはるによる、みんなでスキーに行こう。という企画に参加していた。


 交通費宿泊費は無敵くんが全て準備してくれた。流石“無敵財閥”の長男。泊まるホテルもツインタワーだっけ? なんか凄く高級ぽい見た目だし。飯も用意してくれてるみたい。中学2年の頃のスキー林間を思い出すなぁ。あの時はリフトに乗るのに苦労していたのを思い出すぜ。あれからもう1年か。時間ってのは過ぎるのが早いな。


 早いと感じるはずなのにスキーブーツを履くのにめっちゃ時間がかかってしまった。やっぱり時間は経ってるんだな。と認識し、立ち上がる。

 途端、ピンク色のスキーウェアをセンターに列を作って滑り降りてくる人達の姿を見た。あの特徴的なスキーウェアは、この企画の中で一番上手にスキーを滑れる奥野おくだ 咲葉斗さばとくんだ。


「やっぱ奥野くん達は早いねぇ。もう1本滑ってきたんだぁ」

「あは! いい天気だし、親と行くよりも、ずっと楽しくってさ。無敵くん、この企画立ててくれてありがとう!」

 奥野くんの家族怖いな。俺には分からないが、1つの事を極めている人の事情って難しいんだな。遊び要素なんか取り入れず、只ひたすらに真剣に取り掛かる。俺は好きな事で涙を流すのは嫌だから、多分こういう事は出来ないんだろうな。


 そんじゃ行ってくるわと元気よく行く彼等を見て、これもまた青春の1つだなと心の中で思った。

「そんじゃあ、僕達も行こうかぁ。お昼休憩とか自由に取っちゃって良いからねぇ」


 行こうとした時、靴をたった今履き終わり立ち上がった山原が言った。

「ちゃんと手を合わせないと。山には神様がいるんだよ?」

「そういえば俺のインストラクターさんもそんな事言ってたな」

「へぇ。そういう文化があるんだぁ。じゃあ僕も」

 その場にいた俺と山原、無敵くんが山に向かって手を合わせていた。


「何合掌シテル? 仏教ッテヤツ? ニホンジンオモシロ」

「シラくんもやっときなぁ。きっと守ってくれるよぉ」

 後ろから来たシラも手を合わせ、リフトに乗る。


 おぉ! 滑れる。滑れるぞ!

 1年も経ってるから、どうなるかと思っていたが、案外体が覚えているもんだ。

 自転車と水泳と乗馬は一度憶えたら忘れないというけど、これはスキーもその仲間に入れるべきだ。


「おぉ。インドア派かと思ってたけどぉ、加涌くんも中々滑れるじゃん」

「あ、ありがとうございます」

「同学年なんだし敬語はよしてくれよぉ。後、少し肩の力抜いてこうぜぇ。僕は君の参加に感謝してるんだ」

「そうだな。分かった」


 正直今回の企画に興味はなかった。だが、無敵くんが誘ってきて、うん。と言ってしまったのが原因なのだ。

 何故かというと、無敵くんが「紗菜が参加する」と言ったからだ。いや、正しくは参加するかもだったか。

 まぁ俺は彼の口車にまんまと乗せられたってことさ。しかも紗菜いないし。なんか苦手意識が生まれるのが分かるだろう。

 無敵くんとは多少仲良くなったりして楽しくスキーを過ごした。


 だが、不幸というものは突然訪れる。

 それは俺がスキー場に直結しているツインタワーの9階で休憩している時に起こった。


 スキー場で大きな音がなった。それと同時に地面が少し揺れ、スキー場から人々の悲鳴が聞こえた。

 何事だとスキー場を見てみると、雪崩が起きていた。目の前にいた山原がスキー板を履きながら慌ててツインタワーに入ってきた。


 幸い上から下まで長いスキー場だからすぐに雪崩が襲って来る事はないが、雪崩は新幹線並だとインストラクターさんが言っていた覚えがある。

 山原の履いていたスキー板を外し、手を引っ張りツインタワー内に避難させた。雪崩で地は揺れていたのと、スキーブーツだったからか走るのが大変だった。


 雪崩が起きてから約5分。勢いは収まり、さっき通った出入り口は大きな塊の雪でいっぱいになった。


 そして、生き残ったのはツインタワーで休憩していた俺と近くにいた山原。6階を借り、大イベントの準備をしていた無敵くん。先に一番風呂を嗜んでいたシラの4人だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る