第13話 疑問追求
2/22 月曜日
「ところでなんですけど、私も冬休みの時に何があったのか知りたいのです! 触れちゃいけない話題だとは思ったのですが、ちょっと気になりまして」
「分かりました。知ってることは話します。まずは俺から聞いてもいいですか?」
俺は早口にならないように気を付けながら話した。
「質問はいくつかあるのですが、まずは死因ですね。分りますか?」
「多分なのですが、絞殺なのではないのかと思っています。首に糸が括っていた様に見えましたし」
なるほど。シンプルだが難しい。絞殺であり上からの落下。首吊りの死体なら簡単なのが思い付くが、首吊りではない。
「本当に絞殺なんですか? 入り口にあった斧とかは凶器じゃないんですか?」
「斧はですね、確か血は付いていなかったんです」
「でも先生は血の臭いで異常だと気が付いたんですよね?」
「そうなんです! 私もそこが不思議でして」
目をキラリと輝かせて話す。仮にも貴方の生徒が亡くなっているんですよ。
でも確かに不思議だ。出血していない死体から血の臭いがするだなんて事あるのだろうか?
それに、犯人が斧を振りかぶって殺害。先生がそれを見て、悪ふざけと思うのか。ということは扉を開ける前に血の臭いに気付くことがなかった。
即ち出血は、扉を開けてから起こった乃至はとても少量であった。その2つだろう。
「次に、侵入口と逃走経路です。この状況から推理しますと、侵入した所は被服室の割られた窓だと思います」
「では、逃走経路は被服準備室になるそうですが……」
「なにか変わった所があったんですよね?」
「はい。確かあの時被服準備室から被服室に繋がっている扉の鍵が閉まっていたんです。被服室から開ければ鍵は不要なのですが、人を殺しといてそんな丁寧にする必要はないと思います。そして、私が先生を呼んで来たときには、床に斧が突き刺さっていたので、まだ犯人は被服準備室にいた。……つまりどういう事なんでしょうか?」
逃走経路については、窓を割り被服室に侵入。被服室の廊下に繋がる扉の鍵を開け、被服準備室に繋がる鍵を開けてそこに入り、犯行をする。その後、被服準備室から廊下に繋がる扉をあけ、斧を床に刺して、開けておいた被服室の扉に入り、鍵を閉める。そして被服準備室に繋がる鍵も閉めてから、割れた窓からおさらばする。
そしてその斧についてだが、正直さっぱりだ。密室に見せたいのならあの斧はどう考えても不要だ。扉が閉まらなくなるからだ。
じゃあ、あの斧の使い道はなんだ? 目撃者や発見者の殺害。そう考えるべきなのか。でも床に刺しておく必要がない。つまり、なにか理由があって床に刺さなければならなかった。ということだろう。
ちょっとした沈黙が流れ、次の話題に移る。
「次いきますね。場所移動します」
そう言い被服室に向かう。先生もそれに続く。
被服室で入り口近くにある被服机を指差す。
「先生見てください。この被服机の脚、少し傷があるのが分ると思います」
松原先生はそうですね。と言い、小さく頷く。
「この傷、縄で付けられたものだと思うんです。恐らく被害者がここに巻き付けられていた。もしそうなら、先生はどうしてだと思いますか?」
「なんでですかね? あれ。こんな物ありましたっけ?」
被服机の側面を指差す先生。よく見てみるとそこには、ガムテープの切れ端があった。
「なるほど。あぁ、なるほどなぁ」
「何か分かったのですか? 私も知りたいです」
「あくまでも推理なので外れているかもしれませんが、ここに大量のガムテープが重なるように貼られていたとしたら、ここに傷を付けずに縄を使うことができます。つまりここで殺人が行われた。ということです」
先生は首をかしげ、どういうことでしょう。と呟いている。俺はそこに説明を加える。
「大量のガムテープで傷が付かない様になりました。縛り付けていた被害者の首の前に縄を起き、ガムテープの所を経由して真っ直ぐ縄を引っ張ると、首吊りの時に出来る首の痕が完成します。つまり殺害はここで行われた。あくまでもこれは推理なので」
これを聞き、彼女は小さく 本当に凄いんですね。と言ったのを俺は聞き逃さなかった。
「質問は以上です。疑問が出たらまた来ます。じゃあ次は俺の番ですね」
息を大きく吸って、大きく吐いた。緊張を少しでも軽くし、落ち着いて話すために。
この冬休みの件は、少なくとも俺にとってトップ3には入る、忘れられない事件だったから。
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