第8話 光をもう一度

 1/26 火曜日


 ついに着いてしまった。引き返すなら今だよな。でも様子は見なきゃだし、出なかったら帰るでいいよな?


 加涌は呼び鈴を鳴らした。するとすぐに玄関戸が開いた。顔を覗かせたのは40才くらいの女性だ。山原の母親だろう。


「優菜のクラスメイトですよね? 汚れてますけれど、どうぞ」

 話が早いな。先生が前もって話をしていたのだろうか?

 そのまま加涌は山原のお宅にお邪魔する事にした。



「先生からお話は聞いてます。同じ境遇の子が来るって」

 期待をしたような目でこちらを見てくるから、もしかしたら誤解されているかもかもな……。この子がうちの子を助けてくれるって。


「あの、失礼かもですが……」

「あ、優菜に用件があるんですよね。伺っております。優菜の部屋は2階の左にあります」

 私じゃ反応してくれないんですよ。って話してくださったけど、それ俺でも同じ結果になりそう……。



 彼女の部屋の前に立ち、恐る恐るノックをした。女子の部屋を見るのは初めてだからか、見れるか不確かなのに手が震えていた。

「お、お邪魔してます。加涌です。あ、あの、少しお話でもいたしませんか」

 数秒待ったが返事はなく、やむを得ず下に降りようとしたときに、扉が小さく開き、小さな はい。っという声が聞こえた。

 振り返ると山原は、長袖長ズボンの寝間着だと思われるかわいらしい服で出てきた。


「山原さんこんにちは。ここで良いので話さない?」

「あっ……部屋入っていいよ。こんな服装だけど」

 え? なんだいきなり。恋人でもない俺を部屋に入れるか? 俺刺されたりするのか?

 と不安を抱きながら部屋に入れてもらった。



「最初に聞きたいんだけど、体調は大丈夫?」

「うん。心配させちゃってごめんね」

 元気そうに対応してくれているが、顔が元気そうではなかった。



 六畳半の部屋に短い沈黙が流れた後、山原が先に話を始めた。

「それで? 聞きたい話って事件の事?」

 え? いきなり本題を向こうから言われたもので正直驚いた。でも向こうから話を振ったって事は、その話をしてもいいんだよな?でも一応確認したほうがいいか。


「話してもらえるの?」

「うん。もうくよくよしてられないし! それに私と同じ体験をしたって聞いてるから、ちょっとだけど信頼してるんだよ?」

 いつもの様な話し方だけど、やっぱり何か違う……。やはりかなりショックだったんだろう。


「話せる範囲でいいよ? 無理に話させに来た訳じゃないし……ねぇ、このカレンダーって」

 そのカレンダーは、1月26日までしか記されてなく、1月25日にチェックをいれているカレンダーを発見した。

「あぁ、これ何でもない。何でもないから」

 彼女はそのカレンダーを隠すように服をかけた。


「ええっと、事件の話だよね? まず~」


 事件についてある程度教えてもらった。侵入場所や殺害方法はある程度分かった。


「あの、出来ればトイレの謎も考えては頂けないでしょうか? それが明確でないと、私が苦し紛れの嘘を……って思われるのはやっぱり嫌なので」


 もちろんそれを考えないと犯行の順序が狂うかもしれないため、考えない手はない。だが、外からトイレに閉じ込める方法はシンプルにドアノブを回らなくするだけで済むが、犯人が犯行を終えて、帰るときにわざわざ退かすなんて事をするとは考えにくい。そのタイミングで出てきて押さえつけられでもしたら、計画が台無しになるからだ。

 てことは、やはり時間経過でのトリック……。でも情報が足りなすぎて、どんなものか検討もつかない。

 今日はこの辺で引き上げるとするか。


 ◇◇◇◇


「お邪魔しました」

「またいつでもおいで」

 お母様のお見送りもあり、暗く成り行く時に俺は帰途についていた。

 彼女の顔色も良くなっていたし、先生に連絡すべきだよな。


 学校に電話をかけ、暫くして担任が出てくれた。元気そうなのを伝えると、嬉しそうな声が聞こえたため、彼女はめんこって事が俺の中でほぼ確信された。

『ところで、何かいつもと違うとか、変なものみたとかあった?』

「と言いますと?」

『あんまり言いたくないけど、自傷の痕とか異様に髪の毛が落ちてるとか』


 リスカの痕は服で分からなかったし、髪も気になる量あったわけでもない。でも気になる点が1つ。

「傷痕とかは分かりませんが、そういえばなんか不思議なカレンダーを見ました!」

『カレンダー? 詳しく聞かせて』

「なんか今日までのカレンダーが貼ってたんですよ。なんでだろう? って思ってたら隠されてしまったんですけど……。先生わかります?」

『早く彼女の家に行け! 今すぐだ!』


 先生の声色が変化した。いつもは聞けない貴重な怒鳴り声。走りながら先生の話を聞くと、それは自殺を促す締め切りのようなものだと教えられた。

 これ以上生徒がいなくなる怖さからあんな声が出たのだと理解した。


 ◇◇◇◇


 長い階段を下り、息を切らしながら2分程の時間で山原の家に着いた。もう夕暮れで電気が付いててもいい時間だが、彼女の部屋は暗いままだ。

 チャイムを押し、忘れ物と言って入れさせてもらった。

 家にあがると荷物を置き、猛ダッシュで彼女の部屋に飛び込んだ。彼女は案の定縄跳びを使って首を吊っていた。


 一瞬焦りを見せそうになったが、深呼吸して救う準備を整えた。まず、下ろしてあげる。あの状態は辛いだろうから。

 そのあと救急にかける。多分だけど他殺ではないと思うから。

 救急の対応はとても早く、指示も的確だった。お母様にはAEDを持ってこさせて、暫くたら救急車が到着し、お母様と一緒に山原は運ばれていった。

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