第9話 汚い声

 2/9 火曜日


 あの件から3週間我々の周りで事件は起きなかった。山原は一命を取り留め、今では学校に登校する程には回復している。前の頃のような笑顔は見えないけど、それでも友達と思われる相吉澤あいよしざわさんや、紗菜さなと一緒に学校生活を謳歌しているように見える。



「オイ フザケナヨ」

 後ろの席から大声で怒りの声が轟いた。

「お、おいシラ悪かったって。そんな大声出すなよ」

 どうやらシラ・イライジャ・バルと貝灰かいばい茶近さこんが揉めているらしい。

「ソウイウ……Black discrimination黒人差別ヤメタホーガイイゾ」

「悪かったって。ごめん!この通り!今度肉奢るから許してや」

 本来はクラスを賑やかにする2人なのだが、この様な事は初めて見たため、少々だが衝撃的であった。なんでこうなったのか少し気になりはしたが、流石に聞くのは良くないだろう。


 ◇◇◇◇


 給食が終わり、昼休みとなった。次の授業は理科室で行われるらしい。俺達は早めに移動することにした。


 理科室前に着くと、シラが理科室に入っていくのを見た。

「なぁ加涌。あれシラだよな? 1人でいるだなんて珍しい」

 本当だな。と適当に返し教室の扉を開けようとしたときに、どす黒い陰口が耳に入り、開けようとしたドアに手をかけるのをやめた。山鹿もその声が聞こえたのか状況は理解したようだ。

 陰口は貝灰に対するものであった。話を聞いていると、彼はあの冬休みの件の犯人はシラじゃないかと睨んでいるらしい。


 この辺で取り敢えず入るかと、ドアに手をかけようとした瞬間、山鹿にまだ聞いてみよう。と言われ、同意し扉から手を遠ざけた。


「ン? ナンダコレハ?」

 彼は理科室内で何かを見つけたようだ。

「チョコレート? コノ席ハ、ミスヤンバラ? サテハ狙テルヤツイルナ。俺ガ、ソノ幸セ貰ッタ!」

 音だけで想像するのが我慢出来なかった俺は扉をゆっくり開けて様子を垣間見た。シラは奥の方にいて、口を動かしている様子が伺えた。するとシラは急に膝を地面に付け、喉を掻きながらそのまま前に倒れこんでしまった。

 俺は部屋に飛び込んだ。大丈夫か? と聞いたが、返事は聞こえなかった。山鹿も呼び話を聞こうと思ったが、どこかから不気味な音声がした。


『あと10秒でここが爆発する! 繰り返す! あと10秒でここが爆発する!』


 この音声が更に俺達の恐怖を煽った。シラを連れ出したいが、彼は生憎筋肉質の巨体で、ゲーム生活の俺達の力では到底運べるわけもなく、台車などの物もない。


「おい加涌! 俺たちだけでも逃げようぜ。ここで死んだら……」

「くそが! どうにかならないのか!」

 助け出して話を聞きたいが、このままだと俺達も爆発に巻き込まれる。


「ア、ア、オレ……。オレ、ンジィ」

 かすかだが俺の耳は、シラの声を聞き逃さなかった。

「俺はいいって言ってるぞ! 加涌早く!」

 違う。そんな優しい言葉ではなかった。はっきりしたわけではないが、多分あれはだ。


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