第3話 気付けなかった所

 行き付けのラーメン屋さんに着いたのだが、扉を開ける手が震えている。唯斗を発見した時の匂いとほぼ一緒で、そんな訳ないだろうと思いつつも、もしかすると? っと頭の中でパニックになっていたからだ。

 そのせいか、扉がかなりゆっくり開いていたらしい。

「らっしゃい! お、今日は2人か?」

 店長の陽気な声が店中に響く。


「店長、上空いてる?」

「おう! 空いてるぜ!」


 俺たちはチケットと、食券を出して上に行った。


 上とは2階にある個室である。スタンプが15個貯まると、店員からチケットを貰って漸く行ける所である。元々は、なんか偉い人とかが万が一来た場合に作っていたらしい。こんな小さな店に来るわけないのに。



 その個室で、お冷を貰って2人になってから話し始めた。

「なんで今ラーメン屋なんだよ!」

「ごめん、なんか糸口になるかなって……。俺も着いたときミスったって思った。ごめん」

 山鹿の手が少し震えてたことから、本気で考えたものだと理解した。


「OK、分かった。大声出した俺が悪かった。で話したいこととかがあるって」

「食べ終わってからじゃないと、食べれなくなるから後でね」


 飯を食べ終わるまでの間、俺達は静かに時を過ごした。


 ◇◇◇◇


 飯を両方食べ終わったことを山鹿は確認してから話し始めた。


「俺、気になって調べたんだけど、高い確率で唯斗は溺死だと思う」

「理由聞いていい?」

 俺は固唾を飲んで見守っている。

「加涌は頭の傷で目一杯だったかもだけど、実は耳にも血が流れてたんだよ。ネットで調べたところ、あれって溺死の特徴らしいんだって。これでも俺なりに頑張ったつもり」


 どうやら俺は大切な部分を見落としていたらしい。だが、俺らが解いたところで何になるんだ?

「復讐だよ!」

 ヒッ!? 声漏れてないよな…。

「唯斗殺したやつ見付けて、殺しはしないけど痛め付けてやる」

 これは……俺の目標とは違うが、乗った方がいいよな。

「そうだな。とりあえず今日はお疲れ様。俺もお前も」

「本当はここに唯斗がいて、個室で3人うるさく騒ぎたかったもんだな」


 山鹿の発言のせいで、俺は泣き出してしまった。それにつられたのか、山鹿も一緒に泣いていた。


 ◇◇◇◇


 暫く泣いて、体がスッキリしたのか睡眠が欲しくなっていた。心の中はモヤモヤだらけだけど。

「山鹿。もう出ようぜ。俺も親に怒られちまう」

 時計を見ると21時を超している。

そうだな。と山鹿が言い席を立つ。俺も一緒に席を立って店から出た。



「そういや、明日学校だな」

「唯斗のいない学校とか、クラスが回るか心配だな」

 これからは唯斗のいない世界で生き抜かなければならない。当然忘れたりはせずに。


 この謎を解くまで俺は死ねないな。

 そう思いながら明日を迎える準備をした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る