第4話 祭りの後(2)
「は?」
俺は目を丸くした。
「どうしてそういう話になるんだよ」
「さっき、祭りの当日のユイちゃんの普段着を話していただろう? 黄色いロングTシャツで、短パン。それ、俺も見たよ。その通りだった」
「え? どうしてそれを」
「そう、どうしてそれを、だよ。どうしてお前がそれを知っているんだよ。俺は祭りの日にユイちゃんに告白してふられた。だからその服を知っている。でも、どうしてお前がその服を知っているんだよ。お前の家はここから少し遠い。お前の家の近くのコンビニも逆方向だ。ちょっと散歩して、ユイちゃんにたまたま会ったなんてことにはならないだろう。どういうことなんだよ、クロキ!!」
は、はは。
さっき待ち合わせた時点ではあまり感じなかったけれど、なかなか、ユウヤも探偵じゃないか。
「あぁ、そうだよ。俺の家はユイちゃん家からは遠い。こっちには、用がなければ来ないよ。でも、大切な用事があったんだ。俺も、ユイちゃんに告白したからさ」
「なっ!!」
お前も告白してたのかよ。しかも、祭りの前に。せっかく教えてやろうと思った忠告も意味がなかったな。『告白は祭りの後にしたほうがいい』って。
「そうだったのか。お前も告白してたのか……。普段着を着ていたってことは、祭りが始まる、少し前ってことだよな」
「あぁ。15時くらいかな」
「15時……か。俺は14時半頃に行ったよ」と、ユウヤは言う。
「不審者とか、帰り道で見なかったな」
「そうだな。祭りの準備をしている人は何人かちらほらいたけどな」
祭りは17時から始まる。まだその時間だと、祭り目当ての人もいなかったはずだ。
俺はメモ帳にユウヤが告白した時間、俺が告白した時間を書き、祭りの始まる時間を書いた。
「ユイちゃんママが言っていた、電話で誘いを受けたわけじゃないってことは、直接誘いを受けたってことだ。当日あの日にすれ違った誰かが、ユイちゃんを誘ったってことじゃないのか。誰かすれ違ってなかったか? 俺たちと同じように祭りの前に告白した人がいるかもしれない」
「いや、それなんだけどさ。おかしいと思わないか?」
ユウヤが頭に『?』マークを浮かばせながら、顔を近づけてこっそり聞いてきた。
「なにがさ」
「あのかわいくて八重歯がかわいい、学年の人気者のユイちゃんと、祭りに行く約束ができた人が、どうしてユイちゃんを殺すんだよ。俺たちみたいに、ふられたって言うなら話は別だけどよ」
「え? お前が殺したのか?」
「バカ! 冗談でもそういうこと言うんじゃねぇよ」
ユウヤが顔を青くして引き下がった。
まぁ、たしかに。
これからユイちゃんと楽しい祭りデートができるっていうのに。
ユイちゃんを祭りの前に殺す意味がないよな。
「本当に、ユイちゃんと祭りを一緒に行く人が怪しいのか? 誰か友達と一緒に行く約束を、学校でしていたって話の方がすんなり納得できるぜ」
ユイちゃんが普段着から浴衣に着替えていたってことは、誰かと祭りに行く約束をしていたってことは確実だ。そして、その約束の履歴が電話にもチャイムにも残っていないということは、電話越しでも、チャイム越しでもなく直接ユイちゃんと会って約束したということだ。それは、今から一か月以上前の学校、ということだろうか。
今からユイちゃんと祭りに行く、そんな楽しいイベントを前に、ユイちゃんを殺してしまうだろうか。それかもしかしたら、ついうっかりとか、思わずというか、軽はずみに殴ってしまったというか……。
「もう、いいぜ、やめよう。犯人が俺たちにわかるはずないんだからさ」
ユウヤが両手を広げる。お手上げだ。
「警察が調べてくれてるよ。そのうち本当の犯人を見つけてくれるさ」
「いや、そうはいかないぜ。ユウヤ」
俺は開いていたメモ帳を閉じ、まっすぐとユウヤを見つめた。
「なんだよ。急に。もうやめろよ。不謹慎なんだよ」
「不謹慎なのは、お前の方さ、ユウヤ」
歩みはユイちゃんの家からユウヤの家の方へ進んでいた。時間も夕方過ぎ。そう、ちょうど、俺がふられた後で祭りは中止だと、ユウヤに嘘の電話を入れたのも、こんな時間だった。
「お前がユイちゃんを殺したんだろう?」
生暖かい風が頬を撫でる。夏の終わりをなんとなく感じる。
ユウヤの顔の強張りを空気で感じながら、俺は話を続けた。
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