第3話 祭りの後
ニュースでユイちゃんが殺されたという話を聞いた。
発見現場は聞いた通り、町内会館の備品倉庫。いつもそこには祭りの一か月ほど前に花火の備品を入れておく。ユイちゃんの遺体は花火の備品の上に置いてあったという。
衣服は乱れていたが、倉庫内の返り血の少なさから見て、倉庫とは違う場所で殺されて、倉庫に運ばれてきたのだろうというのが警察の見解らしい。衣服は遺体を運ぶ際に乱れたのだろう、と。
犯人はわざわざユイちゃんを殺した後、あの花火の備品倉庫に遺体を隠したということだ。すぐに祭りが始まって、誰かが倉庫に来るだろうから、隠すのには不向きな場所だ。ユイちゃんの遺体を隠したかったのか、すぐに発見してもらいたかったのか。どうして。どうしてだろう。
今日は夏休み最後の日だ。
花火の備品倉庫にかかっていた黄色いテープもなくなった。当然、祭り当日に灯っていた提灯もすべて回収され、それぞれの町内会館の倉庫にしまわれた。まだ残暑がアスファルトをじりじりと熱していた。夏はまだ終わっていない。
「よう」
俺は家の電話でユウヤを呼び出した。まだ二人とも携帯電話を持っていなかったからだ。ユウヤはたまたま家にいて、俺と同じ気持ちだったようだ。犯人を捜すなら、今日しかない。
学校が始まってしまったら、満足に捜査する時間は取れないだろう。
待ち合わせ場所はユイちゃんが発見された町内会間の倉庫前だ。
「来たな」
「来たけど、どうするんだよ。犯人探しをするったって、何か当てはあるのかよ」
ユウヤは口を尖らせた。俺は手に持ったメモ帳を掲げて言う。
「ユイちゃんが浴衣を着ていたって言っていただろう。俺が最後に会ったユイちゃんは普段着を着ていたんだ。黄色いロングTシャツに短パン。祭りの日だったし、ユイちゃんは浴衣に着替えたってことは、きっと誰かと祭りに行く準備をしていたってことだ。じゃあ、誰と約束していたんだろう。家の人に聞いてみよう」
俺はユイちゃんの家へ歩き出した。ユイちゃんの家は、ユウヤの家と町内会館とのちょうど中間に位置する。俺の家からはちょっと遠い。
「お、おい。家の人に話を聞くって、大丈夫なのかよ」
「何が?」
「何って、ユイちゃんが死んだ後に、そのことを聞きに行くって、不謹慎、じゃないか」
不謹慎? これは遊びで行っているのではない。捜査をしているんだ。これを不謹慎と言っているユウヤの方がよっぽど不謹慎だ。
ユイちゃんの家のチャイムを鳴らす。ほどなくして、ユイちゃんのお母さんが出てきた。ハンカチを持っていた。
「あぁ……。ユウヤくんと、……そう、クロキくんね。どうしたの?」
「お悔やみ申し上げます。実は、ユイちゃんがお祭りを誰と約束していたのかを聞きたくて、きました。おばさんはユイちゃんが誰と行くつもりだったか、聞いていませんか?」
「そう……、ううぅ……。……ごめんなさいね。実は私にも教えてくれなかったの。電話で話していれば、私にもわかったのに、どこかで口約束でもしていたのかしらね。見つかった時も、おろしたばかりの浴衣、着ていたから……」電話の着信履歴にも、祭り当日は特に不審な番号からの着信はなかったようだった。
公衆電話から呼び出されて、家のチャイムを鳴らされて呼び出されて、不審者に連れ去られた可能性も警察が考えていたらしいが、どの履歴にも残っていなかった。ユイちゃんは自分から外に出たのだと。ますます、祭りの約束をした人が怪しい。
「ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうね」
閉まった扉の向こうから、ユイちゃんのママの嗚咽が聞こえてきた。
「悲しそうだったね」
「そりゃあ、そうだろう。俺だって、悲しいよ」
「あぁ、でもこれで、犯人はユイちゃんと一緒に祭りを行く約束をしていた人が怪しい、ということがより濃厚になったよ」
メモ帳にメモをして、俺は言った。
「そのことなんだけどな、もしかしたら、それ、お前のことなんじゃないか?」
ユウヤは、俺の目を見て言った。
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