第2話 祭りの前(2)
風が強く吹いている。台風が近づいているためか。雨は降っていなかったが、この分だと花火は中止だったかもしれない。
空は暗くなってきて、道の電信柱沿いにかかっていた提灯の存在感が増してきた。ぼやぼやとした明かりで道を示す。祭りが中止になったというのに、事が事だからか、人通りが減ることはなかった。
祭りに行く約束をしていたユウヤと待ち合わせした。祭りはなくなってしまったが、話したいことはたくさんあった。
「おいおい、祭りが中止になったって聞いてたけど、まさかユイちゃんが殺されたなんて聞いてないよ。嘘じゃないよな?」とユウヤは俺に詰め寄ってくる。
もちろん。そんな不謹慎な嘘はつかないよ。
「でも、祭りが中止だって嘘はついただろ」
あれ? バレてた?
実は、俺がついた「祭りが中止になった」という小さな嘘は、ユウヤにしかついていない。だから、いつかはバレる嘘だったのだ。
「まったく、つまらない嘘つきやがって。急に電話してくるからなんだと思ったわ。祭りが始まる1時間前だったから、地味に本当だと思って、焦ったぜ」
まぁ、実際に中止になった訳だから。嘘から出たまことってやつか。
「そんなことより、どうするよ? ユイちゃんを殺したやつ、見つけてやらないとな」
犯人探しか。そんなこと、俺たちにできるんだろうか。
茶色がかった髪を二つ結びにして、笑った時の八重歯が可愛くて、運動神経が良くて、ナスが苦手で……、俺の好きだった人。
できるかできないかじゃあ、ないよな。
ユイちゃんの無念を晴らす。俺たちには、それしか怒りと悲しみのやり場がない。
そんな気がした。
「あんまり気が進まないけど、花火の倉庫に行ってみるか」
ユイちゃんの遺体が発見されたところだ。何か手がかりがあるかもしれない。
手がかりがあるかもしれない。
なんて思ってはみたものの、さっきパトカーが来て倉庫と倉庫の周りを封鎖して行ったばかりなんだから、近づけるわけがなかった。俺たちはユイちゃんが倉庫でどんな死に方をしたのかも知らない。さっきまで笑っていたユイちゃんが動かないなんて、怖くて見てられないだろうけれど。
周りでおばちゃんたちが噂をしている。聞き耳を立ててみる。この頃、不審者が目撃されていたとか、ユイちゃんと隠れて付き合っていた人がいたとか、本当は倉庫で殺されたわけでは無いだとか。おばちゃんたちの情報網はすごいし早い。
「今日は何もできそうにないな」
あぁ。そうだな。
日は暮れて、夜は深まる。星は見えないが、雲一つない空だ。花火がよく映えるだろう。いつの間にか風は止み、真っ黒な空が俺らを飲み込む。
ユイちゃんが殺された。誰に殺された。どうして殺された。
どうして、祭りの前に。
分からないことだらけだったが、俺らにはどうすることもできない。ただ、祭りの騒がしさなのか、近くで殺人事件が起きた野次馬の騒がしさなのかわからないが、嫌な感じに賑やかだった。提灯は灯っているのに、人は賑やかなのに。どうしてこんなにもワクワクしないんだろう。
俺たちは家に帰った。それから数日が経った。
夏休みの最後の日。俺たちは集まって、調べることにした。
まだ俺たちの祭りは、終わってもないし、始まってもいなかった。
夏休みが終わる前に。学校が始まる前に、終わらせないといけない。そんな気がした。
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