ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
2章13話 21時18分 ロイ、事態が悪化する。(3)
2章13話 21時18分 ロイ、事態が悪化する。(3)
「でも?」
「ファラリスっていうのは、最初にファラリスの雄牛という処刑器具を考えた人の名前で、雄牛っていうのは、その処刑器具の形状なんだ! 発案者の名前と器具の形状が一致して、しかもその組み合わせがなにを意味しているか当てられるなんて、普通はありえない! つまり! イヴがファラリスの雄牛に相当するこの世界の別の器具のことを言っている可能性はゼロに等しい!」
「それじゃあ、お嬢様はなぜいわゆる異世界知識を……っ!?」
「基本的に転生はありえない! 転生はソウルコードと転生先の座標が一致しないと意味がない現象だ……ッッ、それは女神様の確認を取ったから確実! だとしたら……、ッッ!?」
その時、ロイの背中――否――全身に戦慄が奔った。震えが奔った。
ロイはこの時、イヴに関する違和感、その全てに気付いた。
たとえば
「弟くん、なにか必勝法……は、ないにしても、勝算はあるんですよね?」
マリアが訊く。
流石にロイの今の冷静さはメンタルが強いの一言では片付けられない。
すると、ロイは「当然」とこともなげに頷き、イヴとマリアに対して『とある言葉』を教えてみせた。
しかしその単語に馴染みがなかったマリアは――、
「……ううん?」
――と首を傾げて自分なりに考え始める。
一方、逆にイヴは首を横に傾げない代わりに、コクン、と、首を縦に振ってみせた。
「わたしは聞いたことあるよ! 以前、お兄ちゃんに教えてもらったよ!」
「あれ? ボク、イヴに教えたことなんてあったっけ?」
今度はロイが首を傾げる番だった。
彼の記憶が正しければ、この世界で『その単語』を口にしたのは初めてだったはずなのだ。
たとえば
「まさか……、やっぱりってことは、イヴはボクが転生者だって、異世界人だって、気付いていたの?」
「む〜ん……、気付いていた、察していたっていうより、赤ちゃんから子どもになって、ちゃんとした意識が芽生えた頃を始まりだとするなら、最初からわかっていた、って感じだよ?」
「最初、から……?」
「言語化できないけど、なんとなくわかっていた、とか。自覚はないけど無意識では知っていた、とか。確信に至るモノはなにもないはずだけど、告白されても少しも意外に感じなかった、とか。自分から
「……感、覚?」 と、呆然と呟くロイ。
「うん、フィーリング、直感。だから、ゴメンね、お兄ちゃん。このことを誰かに100%、語弊なく伝えることは、無理だよ」
「いや……ううん、大丈夫だよ」
たとえば
「それにしてもイヴも姉さんも、お寿司を握るの上手だね。しかも誰かを手本にすることもできないないし、ボクから聞いた説明しか情報がなかったのに……。これ、意外と難しいんだよ?」
「それはお姉ちゃんではなく、イヴちゃんの功績ですね。魚介類の方はわたしが切ったり、あとは魔術で蒸したり、炙あぶったりしましたが、ライスを整えるのはイヴちゃんに一任していましたからね」
「そっかぁ、まさかイヴにそんな才能があるなんて驚きだよ」
「ホント? なんかやってみたら、意外とすんなりできちゃっただけなんだけど……」
「剣術でも魔術でもスポーツでも、みんな天才はそう言うよね……」
どうやら本当にイヴは寿司を握る才能があるらしい。もちろん本物の板前レベルというわけでもないが……。
それにしたって元日本人のロイよりもイヴの方が寿司を握るのが上手くて、子どもの頃にチャレンジして上手くいかなった彼からしてみれば、少し納得できなかった。
今までのイヴとのやり取りを思い出した瞬間――、
――――ゾクッ……と、ロイはなにかイヤな直感を覚えた。
不明な点が多すぎるが、だからこそ、マズイ、と。
そう焦り、すぐにロイはイヴのアーティファクトに念話をかける。
「ご、っ、ご主人様?」
「この際、王族とか、特務十二星座部隊の知り合いとか、どんな理由で、どんな越権行為をしたっていい……ッッ! イヴを呼び戻さないと!」
しかし、ロイのアーティファクトはイヴのそれに繋がらなかった。
彼にしては珍しく「クソ……ッ」と汚い言葉を使いながら、アーティファクトをポケットにしまい直す。
「どういうことでございますか、ご主人様!?」
「ツァールトクヴェレでイヴは命を狙われた……ッッ! イヴだけじゃなくて、別荘にいたみんなが狙われたという解釈もあるけど、特務十二星座部隊のシャーリーさんは魔王軍の目的はイヴと、そう推測していた! そこでもし、今までどうしても詳細不明になっていたその理由が、『なぜかイヴの頭には異世界知識が詰まっているから』というモノだとしたら!?」
「なら! この火災は!?」
「残念ながら憶測の域は出ない! でも、イヴを殺すため、あるいは捕縛するため、そういう可能性も否定できなくて、むしろ高いはずだ!」
すると、ロイは自室のドアを開けて――、
「今からイヴを迎えに行ってくる!」
「そんな! ご主人様は今では王族でございます! 危険でございます!」
「わかっている!」
「でしたら……っ!」
「でも、転生と異世界のことを知っていて、今動ける人手はボクしかいない!」
「…………ッッ」
「特務十二星座部隊の人たちは今、間違いなく火災の対応に追われている! それに、下手に事情を話して、他の人に転生と異世界のことを察せられるわけにはいかないんだ!」
確かに、転生と異世界のことは七星団の上層部でもアリシアとシャーリーとエルヴィス、そして国王陛下しか知らない機密事項だ。
非常にデリケートな情報で、微妙にスパイの数がわからなくなっている今、下手に他人に話すべきではない。
「クリスはここに待機して、ヴィキーのことを看ていてほしい。そして、イヴが戻ってきたらボクに報告! イヴから念話があった場合は、この城に戻ってくるように伝えるんだ!」
「りょ、了解でございます!」
それを確認すると、ロイはイヴを探すために、部屋を出て廊下を走りだした。
普通の事情だったら今の彼の行動は軽率だが、今ばかりは仕方がない。
本人の言うとおり、転生と異世界のことを知っていて、ここで動ける人手は彼しかいないのだから。
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